BNCTの治療の流れ|事前検査からホウ素剤投与、照射完了までのスケジュール

BNCTの治療の流れ|事前検査からホウ素剤投与、照射完了までのスケジュール

BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)は、がん細胞に集まりやすいホウ素薬剤と中性子を組み合わせ、細胞ひとつひとつの単位でがんをねらう放射線治療です。日本では切除できない頭頸部がんを対象に、公的な医療保険でも受けられます。

照射そのものは1日で終わることも多いものの、その前後には事前検査やホウ素薬剤の点滴、血液検査など、いくつかの段階が組み込まれています。全体像をつかんでおくと、漠然とした不安はずいぶん軽くなるはずです。

この記事では、相談から事前検査、ホウ素剤の投与、中性子照射、そして治療後の経過観察まで、BNCTの治療の流れを時間軸に沿ってたどります。

BNCTとはどんながん治療?ホウ素中性子捕捉療法の基本と適応

BNCTは、ホウ素中性子捕捉療法と呼ばれる放射線治療のひとつです。がん細胞に取り込ませたホウ素へ中性子を当て、細胞単位でがんを攻撃します。正常な組織への影響を抑えやすい点が特徴とされています。

項目BNCT通常の放射線治療
攻撃する単位ホウ素を取り込んだ細胞決めた照射範囲の全体
照射の回数1回が中心複数回に分けることが多い
得意な場面境目がはっきりしないがん形がとらえやすいがん

正常な組織を残してがん細胞だけをねらう仕組み

BNCTのいちばんの持ち味は、ねらいの細かさにあります。あらかじめがん細胞に集まりやすいホウ素薬剤を取り込ませておき、そこへ中性子を当てると、ホウ素が反応して飛距離のごく短い粒子が生まれます。

この粒子が届く範囲は、細胞1個分ほどしかありません。そのため、ホウ素を多く抱えたがん細胞は強く傷つく一方、となりの正常な組織は影響を受けにくいと考えられています。

ふつうの放射線は当たった範囲をまとめて傷つけますが、BNCTはホウ素があるかないかで効き目に差が出ます。がんと正常な組織が同じ場所に入り混じっていても、ホウ素を多く抱えたがん側へ強く働きかけやすいわけです。

いまのBNCTがおもに対象とする切除できない頭頸部がん

日本でBNCTが受けられるのは、手術で取りきれない頭頸部がんが中心です。具体的には、再発した頭頸部がんや、進行して切除がむずかしい一部のがんが対象になります。

脳腫瘍など、ほかのがんについても研究や臨床試験が積み重ねられてきました。ただし広く受けられる段階には至っておらず、対象は限られていると理解しておくと安心でしょう。

対象になるかどうかは、がんの種類だけでなく、これまでの治療歴によっても変わります。ほかの治療を終えたあとの再発例で、新たな選択肢としてBNCTが候補に挙がることも少なくありません。

手術や通常の放射線治療と何が違うのか

大きな違いは、がんをねらう単位の細かさです。手術はがんのかたまりを物理的に取り除き、通常の放射線治療は決めた範囲全体へ放射線を当てます。

いっぽうBNCTは、ホウ素を取り込んだ細胞だけを選んで攻撃しようとする発想の治療です。すでに放射線を当てた場所での再発など、再度の治療がむずかしい状況での選択肢として注目を集めています。

もうひとつの違いは、体への負担のかかり方にあります。手術のように大きく切る必要がなく、照射の回数も少なく済むため、体力に不安のある方でも受けやすい場面があるといえるでしょう。

治療が始まる前に行う事前検査と適応の判定

BNCTを受けられるかどうかは、治療を始める前の事前検査でほぼ決まります。画像検査やFBPA-PET検査でがんの広がりとホウ素の集まりやすさを調べ、効果が見込めるかを確かめていきます。

画像検査でがんの位置と広がりを確かめる

事前検査ではまず、CTやMRIといった画像検査でがんの位置や大きさを確認します。照射の計画を立てる土台になる、欠かせない検査です。

画像から読み取るのは、おもに次のような点です。

  • 病変の位置と大きさ
  • 周囲の臓器との位置関係
  • 過去に放射線を当てた範囲との重なり

こうした情報を丁寧に重ねていくと、どこへどれだけ中性子を当てるかという計画が、少しずつ具体的になっていきます。

画像はひとつだけで判断するのではなく、複数の検査を重ねて読み解いていきます。見る角度や方法を変えることで、がんの輪郭や深さがより立体的につかめるからです。

FBPA-PET検査でホウ素の集まりやすさを調べる

BNCTで特徴的なのが、FBPA-PETと呼ばれる検査です。ホウ素剤に近い性質をもつ薬剤を使い、がんへホウ素がどれくらい集まりそうかを治療前に見積もります。

がんと正常組織でのホウ素の集まり方に十分な差があるほど、効果は見込みやすいと考えられています。検査の結果しだいでは、BNCT以外の治療をすすめられることもあります。

この見積もりは、照射の量や時間を決めるうえでの大切な手がかりになります。ホウ素の集まり方には個人差があるからこそ、治療の前にきちんと確かめておく意味は大きいといえます。

全身の状態を確かめ、受けられない場合もある

がんの状態だけでなく、血液や腎臓のはたらきなど全身の状態も確認します。点滴や照射に耐えられるかを見ておく必要があるからです。

妊娠中の方や、全身の状態が大きく低下している場合などは、治療を見送る判断になることもあります。気になる持病があれば、検査の段階で伝えておくとよいでしょう。

服用しているお薬がある場合は、検査の前にすべて伝えておきましょう。薬の種類によっては、点滴や照射に進む前に飲み方の調整が必要になることもあるためです。

ホウ素剤(ボロファラン)の投与から照射までの当日の動き

当日の主役は点滴です。BNCTではまずホウ素剤を点滴でゆっくり投与し、がん細胞に十分行き渡らせてから中性子照射へ進みます。

点滴でホウ素薬剤をゆっくり体に入れる

当日はまず、ホウ素剤を腕の静脈から点滴で投与します。代表的な薬剤はボロファランと呼ばれ、2時間ほどかけてゆっくり入れていくのが一般的です。

急いで入れる薬ではありません。一定の速さで時間をかけることで、がん細胞へホウ素が届きやすくなります。

点滴のあいだは、体勢を大きく変えずに過ごすのが基本になります。腕の血管に細い管を入れたまま時間を過ごすため、お手洗いなどは前もって済ませておくと落ち着けるでしょう。

ホウ素ががん細胞に取り込まれるのを待つ

点滴が進むと、ホウ素はがん細胞へ少しずつ取り込まれていきます。血液中の濃度が高すぎても低すぎても照射の精度に響くため、ちょうどよい状態を見計らいます。

この待ち時間も治療の一部だといえます。あせらず体を休めながら、照射に向けた準備を整えていきましょう。

待ち時間の長さは、使う薬剤の種類や体の状態によって少しずつ変わります。担当の医療者が血液中の濃度の動きを見ながら、照射へ移るのにちょうどよい頃合いを判断していきます。

血液検査でホウ素の濃度を確かめてから照射へ

照射の直前には血液検査を行い、血液中のホウ素濃度を実際に測ります。その数値をもとに、当日の照射時間や条件を細かく決めていきます。

同じ病気でも、ホウ素の集まり方には個人差があります。そのため一人ひとりの数値に合わせて計画を調整するのが、当日の流れの大切なところといえるでしょう。

数値が思うように上がらないときは、当日の照射の条件を組み直すこともあります。手間のかかる確認に見えても、効果と安全の両方を支える土台になる大切な作業です。

投与から照射までの当日のおおまかな流れ

段階おおよその目安主な内容
点滴の開始照射の数時間前ホウ素剤を静脈から投与
血液検査投与中〜直前血液中のホウ素濃度を測定
中性子照射数十分〜1時間専用の治療室で照射
照射のあと当日中状態を確認し帰宅または入院

表のとおり、点滴から照射、そして照射後の確認までを、基本的には1日のなかで行います。あわただしく見えても、一段ずつ確かめながら進む流れになっています。

中性子照射はどのように進むのか?照射当日の流れ

中性子照射は、多くの場合1回で完了します。照射そのものは数十分から1時間ほどで、専用の治療室に横になっている間に終わるのが一般的です。

照射は基本的に1回で完了する

通常の放射線治療では、放射線を何回かに分けて当てることが多くあります。BNCTでは、十分な量を1回でまとめて当てられるのが大きな特徴です。

1回で終わるため、通院の負担は比較的軽くなります。その1回を正確に行うための準備に時間をかけている、と考えるとわかりやすいでしょう。

ただし、がんの広がりや状態によっては、複数回に分けて当てる計画になることもあります。何回当てるかは、事前検査の結果をもとに一人ひとり違う形で決めていきます。

照射中の姿勢と過ごし方

照射のあいだは、計画どおりの位置を保つため、決められた姿勢で横になります。体が動くと照射の精度が下がるため、楽な体勢を一緒に整えてから始めます。

照射中に気をつけたいのは、次のような点です。

  • 姿勢を保ち、体を動かさない
  • 室内の機器で医療者が見守る
  • 体調の変化はすぐ伝える

照射そのものに痛みはほとんどなく、レントゲン撮影のように静かに時間が過ぎていきます。緊張しやすい方は、深呼吸をしながら待つと落ち着きやすいものです。

照射が終わったあとはどう過ごすのか

照射が終わったら、その場でしばらく体調を確認します。大きな問題がなければ当日中に動けることが多く、状態によっては数日入院して様子を見る場合もあります。

帰宅後の過ごし方や次の受診の予定は、治療チームから具体的に案内があります。気になる症状が出たときの連絡先も、確かめておくと心強いでしょう。

照射のすぐあとは、強い疲れやだるさを覚える方もいます。無理に予定を詰め込まず、その日はゆっくり体を休めるくらいの気持ちでいるほうが安心でしょう。

治療後の経過観察と起こりうる副作用

副作用がまったくない治療ではありません。BNCTもがんへ当てる放射線治療である以上、照射した部位に応じた反応が起こり、頭頸部がんでは口の中の粘膜炎などに注意が要ります。

照射した部位によって出やすい反応は変わる

BNCTの副作用は、中性子を当てた場所に強く左右されます。頭頸部がんなら口やのど、脳腫瘍なら脳のまわりというように、照射した部位ごとに出やすい反応が変わります。

部位ごとに見られやすい反応と、主な対応を整理すると次のようになります。

照射部位ごとに見られやすい反応

部位起こりやすい反応主な対応
口・のど粘膜炎・口内炎・痛み痛み止めや口腔ケア
皮膚発赤・脱毛保湿と経過観察
全身だるさ・血液検査値の変化安静と検査での確認
脳のむくみ(脳腫瘍の場合)むくみを抑える薬で対応

いずれも程度には個人差があります。軽く済む方もいれば、しっかりした対応が要る方もいるため、自己判断せず相談しながら進めましょう。

頭頸部がんで気をつけたい口やのどの症状

頭頸部がんでは、口の中やのどの粘膜炎がよく知られた副作用です。食事がしみたり、飲み込みにくくなったりすることがあり、痛み止めや口腔ケアで和らげていきます。

まれに、唾液腺への影響で血液中のアミラーゼという値が一時的に上がることもあります。多くは時間とともに落ち着いていきますが、症状が強いときは早めに相談してください。

食事がとりにくいときは、やわらかいものや刺激の少ないものへ切り替える工夫が助けになります。栄養がかたよらないよう、食べ方そのものを相談しながら整えていくのもよい方法です。

定期的な検査で効果と再発を確かめていく

治療の効果は、一度の照射ですぐすべて分かるわけではありません。照射のあとも定期的に画像検査を続け、がんの縮み方や再発の有無を時間をかけて見ていきます。

照射した部位は、しばらく腫れやむくみが残ることもあります。それが効果の表れなのか別の変化なのかを、検査を重ねながら慎重に見分けていきます。

経過観察の間隔は、治療からの時間が経つにつれて少しずつ広がっていくのがふつうです。気がかりな変化に気づいたら、次の予約を待たずに連絡してかまいません。

BNCT全体のスケジュールと受けられる施設の探し方

受けたいと思ったら、まず主治医に相談するのが近道です。BNCTを行える施設は国内でも数えるほどに限られ、紹介を通じて受診へつなぐ流れが基本になります。

相談から治療完了までのおおよその期間

BNCTは「思い立ってすぐ」という治療ではありません。相談から事前検査、適応の判定を経て照射に至るまで、ふつうは数週間ほどの準備期間を見ておきます。

照射そのものは1日でも、その前後の検査や経過観察まで含めると、関わりは数か月から年単位に及びます。長い目でつき合う治療だと考えておくと安心でしょう。

治療を行える施設は国内でも限られる

BNCTには専用の中性子の発生装置と、それを扱う体制が要ります。そのため治療を行える施設は国内でもまだ数えるほどで、どこの病院でも受けられるわけではありません。

装置の種類や対象とするがんは、施設によって異なります。受診を考えるときは、自分のがんが対象になるかを早めに確かめておくことが大切です。

通える範囲に施設が見つからない場合は、遠方の病院へ紹介となることもあります。滞在や移動の負担まで含めて、早めに見通しを立てておくと判断しやすくなるはずです。

主治医への相談と紹介の進め方

多くの場合、BNCTはいまかかっている主治医からの紹介を通じて受診へ進みます。これまでの検査結果や治療歴をまとめてもらえると、適応の判断がなめらかになります。

迷ったときは、いまの治療方針とBNCTを並べて主治医に相談してみてください。第三者の意見を聞くセカンドオピニオンを利用するのも、ひとつの方法です。

相談のときは、これまでの検査画像や紹介状をそろえておくと話がはやく進みます。判断のもとになる情報が多いほど、適応をめぐるやり取りもなめらかになっていきます。

相談から経過観察までのおおまかな期間

段階おおよその期間
相談・紹介数日〜数週間
事前検査・適応の判定1〜数週間
ホウ素剤の投与〜照射基本は1日
治療後の経過観察数か月〜年単位

準備からふり返りまでを通して見ると、BNCTが時間をかけて進む治療だと分かります。あせらず一段ずつ確認していくことが、納得して治療を受ける助けになるはずです。

よくある質問

BNCTの治療は何日くらいで終わりますか?

中性子の照射そのものは、多くの場合1日で完了します。ホウ素剤の点滴から照射までを、同じ日のなかで行うためです。

ただしその前には数週間ほどの事前検査や適応の判定があり、治療後も定期的な経過観察が続きます。照射が1日でも、治療全体としては長くつき合うものだと考えておくと安心です。

BNCTの事前検査ではどんなことを調べますか?

おもにCTやMRIでがんの位置や広がりを確認し、FBPA-PETという検査でホウ素の集まりやすさを見積もります。あわせて血液や腎臓のはたらきなど、全身の状態も確かめます。

これらの結果から、効果が見込めるか、安全に照射まで進められるかを判断します。検査しだいでは、ほかの治療をすすめられることもあります。

BNCTのホウ素剤はどのように投与しますか?

ホウ素剤は、腕の静脈から点滴でゆっくり投与します。代表的な薬剤はボロファランで、2時間ほどかけて一定の速さで入れていくのが一般的です。

点滴のあいだにホウ素ががん細胞へ取り込まれ、血液検査で濃度を確かめてから照射に進みます。あせらず時間をかけることが、治療の精度につながります。

BNCTの中性子照射には痛みがありますか?

照射そのものには、ほとんど痛みがありません。決められた姿勢で横になっているあいだに、レントゲン撮影のように静かに終わります。

ただし治療後に、照射した部位に応じた副作用が出ることはあります。気になる症状があれば、がまんせず治療チームに伝えてください。

BNCTではどんな副作用が起こりやすいですか?

照射した部位によって、出やすい反応は変わります。頭頸部がんでは口やのどの粘膜炎、皮膚の発赤や脱毛などがよく見られます。

脳腫瘍では脳のむくみに注意が要るなど、部位ごとに異なります。多くは対応できる範囲ですが、程度には個人差があるため、定期的な確認が大切です。

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この記事を書いた人 Wrote this article

前田 祐助

前田 祐助 医学博士 / 医師

慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医