
BNCTは、ホウ素を取り込んだがん細胞だけを狙い撃ちする放射線治療で、まわりの正常な組織への影響を抑えやすい点が大きな特徴です。それでも副作用がまったくないわけではなく、照射した部位を中心に皮膚炎や粘膜炎、だるさなどが出ることがあります。
多くは治療後しばらくで和らぐ一過性のものといえます。ただ頭頸部の治療では、唾液腺のはれや口の中の痛みなど、部位ごとに特有の症状が現れる場合もあります。
治療中・治療後に身体へかかる負担とその経過、そして安心して回復へ向かうために知っておきたい経過観察のポイントを、専門的な内容もかみくだいてお伝えします。
BNCTの副作用は照射した部位を中心に起こります
BNCTの副作用の多くは、中性子を当てた照射部位とその周囲に集まって現れます。全身に広く症状が出る抗がん剤とは性質が異なり、局所にとどまりやすいのが特徴です。
| 比べる観点 | BNCTの傾向 | 一般的な外部放射線治療 |
|---|---|---|
| 影響のおよぶ範囲 | 照射部位とその周囲が中心 | 照射した範囲全体に広がりやすい |
| 正常組織への負担 | 比較的抑えやすいとされる | 周辺の臓器にもおよびやすい |
| 代表的な副作用 | 皮膚炎・粘膜炎・だるさ | 皮膚炎・粘膜炎・全身の倦怠感 |
あくまで一般的な傾向であり、実際の出方は治療する場所や人によって変わります。表は全体像をつかむための目安としてご覧ください。
副作用が局所にとどまりやすい仕組み
BNCTでは、がん細胞に集まりやすいホウ素薬剤を点滴で入れたうえで中性子を照射します。ホウ素が中性子をつかまえると、ごく短い距離しか飛ばない放射線が生まれます。
この放射線が届く範囲は、およそ細胞1個分ほどしかありません。そのため、ホウ素を多く取り込んだがん細胞は強くダメージを受け、となりの正常な細胞は傷つきにくいといえます。
放射線の届く範囲が狭いことは、まわりの大切な臓器を守るうえでも役立ちます。脳や首など、デリケートな場所の治療で利点になりやすい性質です。
こうした性質から、副作用も照射した場所に限られやすくなります。とはいえ正常な組織にもホウ素は多少入るため、皮膚や粘膜に反応が出ることはあります。
全身にあらわれる症状は比較的少なめ
髪が大量に抜ける、強い吐き気が長く続くといった全身性の副作用は、一般的な抗がん剤に比べると目立ちにくい傾向があります。照射した部位の外への影響が小さいためです。
ただし治療後の数日は、だるさや微熱、食欲の落ち込みを感じる人もいます。体が放射線への反応を処理している間の、一時的なものと考えられます。
こうした全身の変化も、たいていは時間とともに落ち着いていきます。長く続くときや強くなるときは、自己判断せず担当医に相談しましょう。
副作用の出方には個人差がある
同じBNCTを受けても、症状の重さや種類は人によって変わります。もともとの病気の場所や大きさ、過去に放射線治療を受けたかどうかが関わるためです。
以前に同じ部位へ放射線を当てた経験があると、皮膚や粘膜が敏感になっていることがあります。担当医は治療前にこうした既往を確かめ、照射の計画に反映させていきます。
治療前に確かめておきたいこと
BNCTを検討する段階では、効果の見込みと起こりうる副作用を、担当医からよく聞いておきましょう。納得して臨むことが、治療中の不安をやわらげます。
過去の治療歴や体の状態によって、向き不向きが変わる場合もあります。気になる点は遠慮なくたずね、自分に合った選択かどうかを確かめてください。
BNCT治療中に体へかかる負担とホウ素薬剤の反応
治療中に何が起こるのか不安に思う方は多いものです。BNCTの治療中の負担は、点滴によるホウ素薬剤の投与と、その後の中性子照射の二つに分けて考えると整理しやすくなります。
ホウ素薬剤の点滴で起こりうること
BNCTでは、まずホウ素を含む薬剤を数時間かけて点滴します。この間に、軽い吐き気や血圧の変動、点滴した部位の違和感などが起こる場合があります。
多くは軽度で、点滴の速さを調整したり休憩を挟んだりすると和らぎます。医療スタッフが投与中の体調をこまめに確かめながら進めていきます。
- 吐き気やむかつき
- 動悸や息苦しさ
- 点滴部位の痛みや腫れ
- 強いだるさやめまい
こうした変化は、早めに伝えるほど対応しやすくなります。我慢せずに声をかけることが、安全に治療を終えるための支えになるでしょう。
中性子照射の間の体の負担
中性子の照射そのものに痛みはなく、レントゲン撮影のように横になって受けます。照射の時間は治療部位によって変わり、おおむね30分から1時間ほどです。
同じ姿勢を保つ必要があるため、体勢のつらさや緊張を感じる人もいます。固定具を使って楽な姿勢を整える工夫があり、声をかければ調整してもらえます。
治療当日に意識しておきたい体調管理
照射を終えた当日は、体に大きな負担がかからないことがほとんどです。それでも長時間の安静や絶食の影響で、疲れやふらつきを感じることがあります。
水分をとり、無理のない範囲で過ごすことが回復の助けになります。帰宅後に気になる症状が出たときの連絡先を、あらかじめ確かめておくと安心です。
安心して治療に臨むための準備
治療の前には、飲んでいる薬やアレルギーの有無を担当医に伝えておきましょう。持病がある場合は、その管理の方法も合わせて相談しておくと安心です。
当日の流れや所要時間を前もって把握しておくと、心の準備がしやすくなります。付き添いの人や帰宅の手段も、あらかじめ整えておくとよいでしょう。
治療後に現れるBNCTの副作用は急性期と晩期で違います
BNCTの副作用は、時期によって性質が変わります。治療直後から数週間で出る急性期の症状と、数か月以上たってから現れる晩期の症状に分けられます。
治療後すぐに出やすい急性期の症状
照射からおよそ2週間前後にかけて、皮膚の赤みやヒリつき、口の中やのどの粘膜炎が出やすくなります。頭頸部の治療では、だ液腺がはれて痛む唾液腺炎もみられます。
髪を照射する範囲に含む場合、その部分だけ毛が抜けることがあります。これらは正常な組織が一時的に反応したもので、時間とともに回復へ向かうことが多いといえます。
症状が出ても、それは体が治療に反応している自然な経過の一部です。むやみに怖がらず、ケアを続けながら様子を見ていきましょう。
数か月後にあらわれる晩期の症状
晩期には、皮膚がかたくなる、口が渇きやすくなる、飲み込みにくさが残るといった変化が出ることがあります。脳の治療では、まれに照射した部分のむくみが問題になります。
晩期の症状は、出る人と出ない人がはっきり分かれる傾向があります。照射した範囲や量、もともとの体の状態が関わるため、長い目での観察が役立つでしょう。
気になる変化に早く気づくほど、対処の幅も広がります。違和感が続くときは、次の診察を待たずに相談しておくと安心です。
症状のピークと回復までのめやす
急性期の症状は照射後2〜4週ごろにピークを迎え、その後ゆるやかに引いていくのが一般的な経過です。多くは数週間から数か月で、日常生活に支障のない状態へ戻ります。
回復のスピードには個人差があります。焦らず、担当医と相談しながら少しずつ体を慣らしていくことが大切です。
回復の途中で、一時的に症状が戻ったように感じることもあります。心配なときは経過を記録しておき、診察で伝えると判断の助けになります。
急性期と晩期にみられる主な症状の時期
| 時期 | あらわれやすい症状 | おおよそのめやす |
|---|---|---|
| 急性期 | 皮膚炎・粘膜炎・唾液腺炎・脱毛 | 照射後〜数週間 |
| 回復期 | 症状が徐々に軽くなる | 数週間〜数か月 |
| 晩期 | 皮膚のかたさ・口の渇き・むくみ | 数か月以降 |
表のとおり、症状の多くは時間の経過とともに移り変わっていきます。今どの時期にいるのかを意識すると、目の前の症状に必要以上に動揺せずにすむでしょう。
BNCTの安全性は臨床試験でどう示されてきたのか?
日本では2020年にBNCTが頭頸部がんの治療として承認を受け、臨床試験や使用後の調査を通じて安全性が確かめられてきました。命に関わるほど重い副作用は限られ、多くは管理できる範囲にとどまっています。
臨床試験で報告された有害事象
頭頸部がんを対象にした試験では、血液中のアミラーゼという酵素の上昇や口内炎、唾液腺の炎症、脱毛などが多く報告されました。一方で、最も重い段階の副作用は確認されていません。
これらの多くは軽度から中程度にとどまりました。過去に放射線治療を受けた再発がんの人でも、比較的受け入れやすい治療だったという報告があります。
頭頸部がんの治療で報告された主な急性期症状
| 症状 | 内容 | 程度のめやす |
|---|---|---|
| 高アミラーゼ血症 | 唾液腺の反応による血液検査の数値変化 | 多くは軽度 |
| 口内炎 | 口の中の粘膜の炎症 | 軽度〜中程度 |
| 唾液腺炎 | だ液腺のはれや痛み | 軽度〜中程度 |
| 脱毛 | 照射部位の毛が抜ける | 一時的なことが多い |
数値の上では多くの人に何らかの反応が出ますが、その大半は経過観察や対症的なケアで落ち着きます。検査の数値が動くこと自体は、想定された範囲内のことも少なくありません。
重い副作用が起こる場合のリスク要因
まれにではありますが、注意したい重い合併症もあります。頭頸部の太い血管の近くを治療した場合、過去の放射線の影響と重なって血管が傷つくことがあります。
こうしたリスクは、治療前の画像で血管との位置関係を調べることで、ある程度見積もれます。担当医はリスクと効果を見比べたうえで、治療の可否を判断していきます。
不安をあおる情報に振り回されないことも大切です。まれな合併症の話と、実際に自分に起こりやすいことは、分けて考える必要があります。
事実にもとづいて安全性をとらえる視点
BNCTは有望な治療ですが、すべてのがんや誰にでも向く万能の方法ではありません。効果と副作用の両面を正しく理解することが、納得して治療を選ぶ土台になります。
安全性のデータは、あくまで臨床試験や調査という限られた条件で得られたものです。自分の場合にどう当てはまるかは、担当医とよく話し合って確かめましょう。
医療広告ではなく、確かなデータと担当医の説明をよりどころにしましょう。冷静に情報を読みとく姿勢が、納得のいく判断を支えます。
副作用を和らげるBNCT治療後のケアと過ごし方
副作用が出ても、適切なケアを早めに始めれば多くは和らげられます。皮膚や口の中を清潔に保ち、症状が出たら早めに相談することが回復への近道です。
皮膚と粘膜のセルフケア
照射した皮膚は乾燥しやすく、こすれに弱くなります。やさしく洗ってよく保湿し、強い日ざしや締めつける衣類を避けると負担を減らせます。
口内炎があるときは、刺激の強い食べ物や熱いものを控えめにしましょう。うがいで口の中を清潔に保つことも、痛みの悪化を防ぐ助けになります。
市販の塗り薬やケア用品を使いたいときは、自己判断の前に担当医へ確かめましょう。照射した皮膚には合わないものもあるためです。
食事と栄養のとり方
粘膜炎や口の渇きがあると食事がつらくなり、栄養が不足しがちです。やわらかく飲み込みやすいものを選び、少量をこまめにとる工夫が役立ちます。
水分の補給も忘れずに行いましょう。食べづらさが続くときは、栄養の専門スタッフに相談すると、無理のない方法を一緒に考えてもらえます。
飲み込みやすいゼリーや栄養補助の飲み物を取り入れると、少ない量でも必要な栄養を補いやすくなります。市販品を使う前には、自分の体に合うかを担当医や栄養スタッフへ確かめておくと安心です。
- 十分な睡眠と休息
- こまめな水分補給
- 照射部位の保湿と保護
- 禁煙と節酒
- 気になる症状の早めの相談
どれも特別なことではありませんが、積み重ねが回復の土台になります。できることから少しずつ取り入れていくとよいでしょう。
つらいときに頼れる支え
痛みやだるさが強いときは、我慢せず担当医や看護師に伝えてください。痛み止めや口内炎の薬など、症状に合わせた手当てを受けられます。
気持ちの落ち込みを感じることもあるかもしれません。家族や医療スタッフ、相談の窓口など、頼れる先を持っておくことが心の負担を軽くします。
同じ治療を経験した人の体験談が、気持ちの支えになることもあります。ただ症状の出方は人それぞれなので、自分の状態は医療者と確かめましょう。
経過観察でBNCT後に見落としたくない体のサイン
治療が終わればすべて安心、というわけではありません。BNCTの後は定期的な経過観察を続け、晩期の副作用や再発の兆しを早めにつかむことが大切です。
| 確かめること | 見ておきたいサイン | 対応のめやす |
|---|---|---|
| 照射部位の皮膚 | 治りにくい傷・強い赤みや痛み | 早めに受診 |
| 口やのど | 飲み込みにくさ・出血・はれ | 早めに受診 |
| 全身の状態 | 続く発熱・急なだるさ | 担当医へ連絡 |
| 定期検査 | 画像や血液検査の予定 | 案内どおりに受診 |
上の内容は、日常で意識しておくと役立つめやすです。判断に迷うときは自己判断で済ませず、医療機関に問い合わせるのが安全だといえます。
定期検診で確かめること
経過観察では、画像検査や血液検査でがんの状態と体の回復を確かめます。治療した部位だけでなく、全身の様子も合わせて見ていきます。
検査の間隔は治療からの経過で変わり、初めはこまめに、安定すれば少しずつ広がります。案内された予定を守ることが、早期発見につながります。
検査の結果はその場で質問し、わからないままにしないことが大切です。数字や画像の意味を理解しておくと、次の行動を考えやすくなります。
自宅で気づきたい変化
自宅では、照射部位の皮膚の様子や食事ののみ込みやすさ、体重の変化などに目を向けておくとよいでしょう。小さな変化でもメモしておくと、受診のときに伝えやすくなります。
ご家族など身近な人にも様子を見てもらうと、自分では気づきにくいサインを早めにつかめます。顔色や食欲、元気のなさといった変化は、毎日接する人だからこそ気づける点もあるでしょう。
治りにくい傷や続く出血、急な体調の崩れは、早めの受診が必要なサインです。気になることは次の検診を待たずに相談してかまいません。
担当医と続ける長い付き合い
BNCTの後の体は、年単位でゆっくり変化していきます。だからこそ、担当医との続いた関わりが心強い支えになります。
不安や疑問は、その都度たずねて解消していきましょう。納得しながら経過を見守ることが、安心して暮らしを取り戻すことにつながります。
通院が負担に感じるときは、その気持ちも率直に伝えてよいものです。無理なく続けられる方法を、医療者と一緒に探していけます。
よくある質問
BNCTの副作用はどのくらいの期間で治まりますか?
BNCTの副作用の多くは一過性で、急性期の皮膚炎や粘膜炎は照射後の数週間でピークを迎え、その後ゆるやかに和らいでいきます。多くの方は数週間から数か月で、日常生活に支障のない状態へ戻ります。
ただし回復のはやさには個人差があり、晩期の症状が長く残る場合もあります。経過が気になるときは、担当医に確かめながら進めると安心です。
BNCTは従来の放射線治療より副作用が少ないのですか?
BNCTはがん細胞を狙って攻撃しやすいため、正常な組織への負担を抑えやすいと考えられています。臨床試験でも、命に関わる最も重い副作用は限られていました。
とはいえ皮膚炎や粘膜炎などは起こりますし、少ないかどうかは部位や状況で変わります。一概にどちらが優れていると言い切れるものではありません。
BNCTの治療中に強い痛みを感じることはありますか?
中性子の照射そのものに痛みはなく、横になって受ける検査のような時間です。痛みの心配は、ほとんどいりません。
一方で、ホウ素薬剤の点滴中に軽い吐き気や違和感が出る方や、同じ姿勢を保つつらさを感じる方はいます。気になる症状は、すぐに医療スタッフへ伝えてください。
BNCTの後はどのくらい経過観察を続ける必要がありますか?
BNCTの後は、再発の兆しや晩期の副作用を見逃さないために、年単位で定期的な経過観察を続けるのが一般的です。初めはこまめに、状態が安定すれば検査の間隔は少しずつ広がります。
具体的な期間や間隔は、がんの種類や治療後の経過によって変わります。担当医の案内に沿って通院を続けることが、早期発見につながります。
BNCTの副作用が出たとき自宅でできることはありますか?
照射した皮膚はやさしく洗ってよく保湿し、こすれや強い日ざしを避けると負担を減らせます。口内炎があるときは刺激の強い食べ物を控え、うがいで口の中を清潔に保つとよいでしょう。
痛みやだるさが強いときは我慢せず、担当医や看護師に相談してください。症状に合わせた薬やケアで、つらさを和らげられることが多くあります。
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この記事を書いた人 Wrote this article
前田 祐助 医学博士 / 医師
慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医