
ステボロニンは、BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)で使うホウ素剤の商品名です。一般名をボロファラン(10B)といい、がん細胞に取り込まれたホウ素と中性子の核反応を利用して、がんを内側から攻撃します。
この治療で得られる効果は、薬剤ががん細胞へどれだけ多く集まるかによって大きく変わります。だからこそ、ステボロニンの集まり方がBNCTの成否を左右する鍵になります。
本記事では、ステボロニンがどのような薬剤で、BNCTのなかでどんな役目を担うのかをやさしく整理します。頭頸部がんでの使われ方や治療の流れ、知っておきたい副作用まで、検索で疑問を持った方の知りたい順に解説していきます。
ステボロニンはBNCTのために生まれたホウ素剤です
ステボロニンは、がん治療のひとつであるBNCTのためにつくられたホウ素剤です。一般名をボロファラン(10B)といい、静脈から点滴で体に入れて使います。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 一般名 | ボロファラン(10B) |
| 商品名 | ステボロニン |
| 形 | 点滴用の薬剤(9000mg/300mL) |
| 使い方 | 静脈から点滴で投与する |
| 特徴 | 中性子と反応して初めて働く |
ボロファランという成分はアミノ酸の仲間
ステボロニンの中身であるボロファランは、ホウ素を含むアミノ酸の一種です。もとになっているのはフェニルアラニンという、体のなかでたんぱく質をつくる材料になる物質です。
このフェニルアラニンにホウ素をくっつけ、さらにホウ素のうち中性子と反応しやすい「ホウ素10(10B)」の割合を高めてあります。こうした工夫が、あとで説明する中性子との反応につながっていきます。
がん細胞の表面には、アミノ酸を取り込む入り口が数多くそなわっています。アミノ酸の形をしたボロファランは、この入り口を通って細胞の内側へと運び込まれていきます。
薬そのものにがんを攻撃する力はありません
意外に思われるかもしれませんが、ステボロニンを点滴しただけではがんは攻撃されません。薬剤そのものには、がん細胞を殺す作用がそなわっていないからです。
ホウ素が中性子という別の要素と出会って初めて、がんを攻撃する力が生まれます。薬と中性子の組み合わせがそろって、ようやく治療として働きはじめるといえます。
つまりステボロニンは、中性子という相棒がそろって初めて意味をもつ薬剤だといえます。
ステラファーマが開発したホウ素剤
ステボロニンは、ステラファーマ社が開発したホウ素剤で、9000mgを300mLの点滴液に溶かした形で届けられます。日本では、BNCT専用の薬剤として初めて承認を受けました。
中性子を出す装置「ニューキュア」や、当てる量を計算する専用プログラムとセットで使う点も大きな特徴です。薬剤と機器がたがいに補い合って、一つの治療を組み立てます。
国内では原子炉を使わずに中性子をつくる装置が整い、病院での治療が現実のものになりました。薬剤と装置の両輪がそろったことで、新しいがん治療として歩み出しています。
BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)はがん細胞だけを狙い撃つ治療
BNCTは、がん細胞だけを狙い撃つ治療です。集めたホウ素に中性子を当て、ホウ素を取り込んだ細胞のなかだけで攻撃が起こるため、まわりの正常な組織を傷つけにくいといえます。
ホウ素と中性子が出会うと何が起きるのか
がん細胞にたまったホウ素10に中性子が当たると、核反応が起きてアルファ線とリチウムの粒が飛び出します。この2つの粒が、すぐ近くのがん細胞を内側から壊していきます。
反応で生まれる2種類の粒
- アルファ線(ヘリウムの原子核)
- リチウム7の原子核
- ごく短い距離で止まる高エネルギー
これらの粒が進む距離はとても短く、細胞およそ1個分ほどしかありません。だからこそ、ホウ素をためた細胞の内側だけに効き目が集中します。
この反応は、ホウ素10が中性子を捕まえることをきっかけに起こります。捕まえたあとすぐに2つの粒へ分かれ、ごく狭い範囲にエネルギーを置いていきます。
アルファ線が届くのは細胞およそ1個分
BNCTの効き目がせまい範囲に限られるのは、飛び出す粒の進む距離が5〜9マイクロメートルと短いためです。これはがん細胞ほぼ1個分の長さにあたります。
ホウ素を取り込んでいない隣の正常な細胞には、攻撃がほとんど届きません。細胞を1個ずつ見分けるような効き方が、この治療ならではの持ち味といえるでしょう。
正常な組織を守りながらがんをたたく
ふつうの放射線治療は、がんとそのまわりの組織をまとめて照らします。BNCTはホウ素をためた細胞をねらうため、正常な組織への負担を抑えやすい治療です。
ただし、ホウ素がまったくたまらないがんには効き目が出にくくなります。どんながんにも同じように使えるわけではない点には、注意が必要かもしれません。
がんと正常な組織のどちらにもホウ素がたまると、ねらい撃ちの効き目は弱まってしまいます。だからこそ、がんにだけ多く集める薬剤の工夫が治療の土台を支えています。
BNCTの効果を左右するのはステボロニンの集まり方
がん細胞にステボロニンが多く集まるほど、BNCTの効き目は高まります。逆に集まりが少ないと効果が出にくいため、薬剤の集まり方こそが治療の鍵をにぎります。
がん細胞はホウ素剤を多く取り込む性質がある
がん細胞は、さかんに増えるためにアミノ酸を大量に取り込もうとします。ボロファランはアミノ酸の仲間なので、この性質を利用してがん細胞へと運ばれていきます。
正常な細胞よりもがん細胞のほうがホウ素をためやすいため、がんを選んでねらう土台ができあがります。薬剤の設計そのものが、狙い撃ちの出発点になっています。
増えるいきおいが強いがんほど、アミノ酸を取り込む力も大きくなる傾向があります。この性質の差が、がんと正常な細胞を見分ける手がかりになっていきます。
腫瘍と正常組織のホウ素濃度の差が決め手
治療の効き目は、がんと正常な組織にたまるホウ素の量の差で決まります。がんのほうに多くたまるほど、正常な組織を守りながら強く攻撃できるからです。
臨床の場では、がんのホウ素濃度が正常組織のおよそ3倍前後になることを目安にしています。この差をしっかり確かめてから照射へ進みます。
濃度の差が小さいと、正常な組織まで巻き込んで攻撃するおそれが出てきます。逆に差が大きいほど、がんをねらって安全に治療を進めやすくなるでしょう。
治療前にPET検査で取り込みを確かめる
ステボロニンと似た物質を使ったPET検査で、がんがホウ素をどれくらい取り込むかを前もって調べます。取り込みがよければ、BNCTの効果が期待しやすくなります。
この事前の確認は、治療が向いている人を見分けるための大切な手がかりです。効きにくいと分かれば、別の治療を考える判断にもつながります。
効き目を左右する要素
| 要素 | 望ましい状態 |
|---|---|
| がんへのホウ素の集まり | 多いほどよい |
| 正常組織のホウ素 | 少ないほどよい |
| 両者の濃度の差 | 大きいほどよい |
ステボロニンを使ったBNCT治療の流れと点滴のしかた
ステボロニンによるBNCTは、点滴と中性子の照射を同じ日に行い、多くの場合1回で終わります。点滴の速さや照射の時間は、血液中のホウ素の量を見ながら細かく調整します。
まず点滴でホウ素を体に行きわたらせる
治療の日は、はじめにステボロニンを2時間かけて点滴します。このとき、1時間あたり体重1kgにつき200mgというペースで入れていきます。
点滴のあとは血液を採って、ホウ素の濃さを測ります。十分な量がたまっているかを確かめてから、いよいよ照射へ進みます。
点滴の速さは、血液中のホウ素の量を見ながらこまやかに調整します。体格や体の状態に合わせて、一人ひとりに見合った量を入れていく流れです。
治療当日の流れ
| 時点 | 行うこと |
|---|---|
| 最初の2時間 | ステボロニンを多めの速さで点滴する |
| 2時間後 | 血液のホウ素濃度を測る |
| 照射中 | 点滴を続けながら中性子を当てる |
| 照射後 | 点滴を止めて経過をみる |
中性子は加速器でつくり出す
中性子は、かつて原子炉でつくっていましたが、いまは加速器という装置でつくり出せるようになりました。そのおかげで、街なかの病院でも治療を行える道がひらけています。
照射に使う中性子は、体の奥およそ6cmで半分に減る性質をもっています。そのため、比較的表面に近い場所のがんに向いた治療といえるでしょう。
加速器でつくる中性子は、エネルギーをほどよくおさえた中性子へと整えてから体に当てます。やわらかな中性子のほうが、ホウ素との反応に向いているためです。
1回の照射で完了する治療スケジュール
照射は、口やのどの粘膜が受ける量を目安に、決められた量に達するまで続けます。多くの場合、この1回の照射で治療そのものは完了します。
通院して何度も放射線を当てる治療に比べ、体への負担や通院の回数を抑えやすい点が利点です。ただし照射の前後には、入念な準備とていねいな経過の観察が必要になります。
頭頸部がんでステボロニンが選ばれる場面
ステボロニンによるBNCTは、どんながんにも使えるわけではありません。いまのところ、標準的な治療が難しくなった頭頸部がんが、おもな対象になっています。
標準治療が難しい再発・局所進行のがん
対象になるのは、手術で取りきれない、再発した、あるいは進行した頭頸部がんです。ほかの治療をやり尽くした人にとって、新しい選択肢のひとつになりえます。
対象として検討されやすいケース
- 手術で取りきれない頭頸部がん
- 放射線治療のあとに再発したがん
- 進行して標準治療が届きにくいがん
頭頸部は、食べる・話す・呼吸するといった大切な働きが集まる場所です。がんをおさえることで、こうした働きを守りやすくなる点に大きな意味があります。
過去に放射線を受けた部位への再照射
一度放射線を当てた部位にがんが再発すると、同じ場所へもう一度照射するのは難しいことが多くなります。まわりの正常な組織が、すでに負担を受けているからです。
BNCTはがん細胞をねらって攻撃するため、再照射が必要な場面でも検討されることがあります。過去の治療歴がある人にとって、考えられる手立てのひとつです。
もう一度照射できるかどうかは、前の治療からの時間や受けた量によっても変わります。担当の医師が過去の記録をふまえ、慎重に向き不向きを見定めていきます。
臨床試験で報告された奏効率
頭頸部がんを対象にした臨床試験では、がんが小さくなった人の割合がおよそ7割と報告されています。なかでも扁平上皮がんでは、がんが消えた人も一定数みられました。
ただし、これは限られた人数での結果であり、すべての人に同じ効果が出るわけではありません。効果や安全性の見きわめには、今後のデータの積み重ねが求められます。
承認後に行われた大きな調査でも、再発した扁平上皮がんで一定の効き目が確かめられています。実際の医療の場でも、治療の手立てとして役立つことが示されつつあります。
ステボロニンによるBNCTで知っておきたい副作用
治療を考えるなら、効き目だけでなく副作用も知っておきたいところでしょう。ステボロニンによるBNCTでは、口やのどの炎症や脱毛などが起こりやすいと報告されています。
治療後に起こりやすい口内炎や脱毛
照射を受けた部位では、口内炎やのどの痛み、だるさなどが出やすくなります。実際の調査では、口内炎がおよそ半数、脱毛がおよそ半数の人にみられました。
唾液をつくる組織が影響を受け、血液の検査値が変わることもよくあります。多くは時間とともに落ち着きますが、つらい症状には早めの手当てが大切です。
おもな副作用と現れ方
| 症状 | 現れ方 |
|---|---|
| 口内炎・のどの痛み | 照射した部位に出やすい |
| 脱毛 | 照射した範囲に起こる |
| 唾液腺の炎症 | 検査値の変化を伴うことがある |
| 結晶尿 | 薬剤そのものに関係する |
薬剤そのものに関係する症状
ステボロニンは、その多くが尿として体の外へ出ていきます。このとき、尿のなかで成分が結晶になって出てくることがあります。
薬剤が直接の原因となる症状は多くありませんが、まれに尿の異常などがみられます。水分をしっかりとるなどの対応で、体への負担を和らげる工夫がとられます。
注意が必要な重い症状への備え
頻度は高くないものの、飲み込みにくさや皮膚のトラブル、まれに重い出血などには注意が必要です。とくに首の太い血管の近くを治療した場合は、慎重な観察が求められます。
こうした症状に気づいて早く対応するため、治療は経験を積んだ医師と、設備のそろった施設で行います。気になる変化があればすぐ相談できる体制が、安心につながるでしょう。
治療の前には、起こりうる症状とその備えについて医師からくわしい説明があります。不安に思うことは遠慮なくたずね、納得してから治療へ進むことが大切だといえます。
ステボロニンによるBNCTはほかの放射線治療と仕組みが違う
BNCTは、薬剤と中性子を組み合わせて細胞単位でがんをねらう点が、ほかの放射線治療と大きく異なります。だからこそ、薬剤であるステボロニンの働きが治療の中心になります。
ふつうの放射線治療とのちがい
X線などを使うふつうの放射線治療は、外から狙いを定めて広い範囲を照らします。一方でBNCTは、がん細胞にためたホウ素を手がかりに、細胞の内側から攻撃をしかけます。
同じ放射線を使う治療でも、ねらいの定め方が根本から異なります。薬剤が効き目の入り口になるところが、BNCTならではの特徴です。
重粒子線や陽子線治療とのちがい
重粒子線や陽子線の治療は、ビームの当たる場所を立体的に絞り込んでがんをねらいます。これに対しBNCTは、薬剤の集まりによって細胞ごとにねらいを定めます。
どの治療が向くかは、がんの場所や広がり、これまでの治療歴によって変わります。それぞれの持ち味を見比べながら、担当の医師と相談して選んでいくことになります。
治療を受けるまでの相談の進め方
BNCTを受けられる施設はまだ限られており、対応できる病院はそれほど多くありません。受けられるかどうかは、まず担当の医師に相談するところから始まります。
紹介を受けた専門の施設で、がんの状態やホウ素の取り込みを調べ、向き不向きを見定めます。納得して選べるよう、疑問は遠慮なく医師へたずねることが大切です。
施設までの距離や治療の日程など、暮らしに関わる点も前もって確かめておきたいところです。家族とも話し合いながら、無理のない形で治療を選んでいけるとよいでしょう。
治療法ごとのねらい方
| 治療法 | がんのねらい方 |
|---|---|
| ふつうの放射線治療 | 外から広い範囲を照らす |
| 陽子線・重粒子線 | ビームを立体的に絞る |
| BNCT | 薬剤の集まりで細胞ごとにねらう |
よくある質問
ステボロニンとはどのような薬剤ですか?
ステボロニンは、BNCTという治療のために使うホウ素剤の商品名です。一般名をボロファラン(10B)といい、点滴で体に入れて使います。
この薬剤はホウ素を含むアミノ酸の仲間で、がん細胞に集まりやすい性質をもっています。中性子と反応して初めて、がんを攻撃する力が生まれます。
ステボロニンはBNCTの効果にどのように関わりますか?
BNCTの効き目は、ステボロニンががん細胞へどれだけ集まるかで大きく変わります。多く集まるほど、正常な組織を守りながら強く攻撃できます。
だからこそ、薬剤の集まり方が治療の成否を左右します。治療の前には、PET検査で取り込みの程度を確かめておきます。
ステボロニンによるBNCTはどのようながんに使われますか?
いまのところ、おもな対象は標準的な治療が難しくなった頭頸部がんです。手術で取りきれない場合や、再発・進行したがんが検討の対象になります。
どんながんにも使えるわけではなく、がんの場所や大きさ、これまでの治療歴によって向き不向きが変わります。担当の医師とよく相談することが大切です。
ステボロニンを使ったBNCTにはどんな副作用がありますか?
照射した部位を中心に、口内炎やのどの痛み、脱毛などが起こりやすいと報告されています。唾液腺の炎症や検査値の変化がみられることもあります。
薬剤そのものに関係する症状として、尿の異常などがまれにみられます。重い症状に備え、経験を積んだ医師のもとで治療と経過観察が行われます。
ステボロニンによる治療は1回で終わりますか?
多くの場合、ステボロニンの点滴と中性子の照射を同じ日に行い、1回で治療そのものは完了します。何度も通って放射線を当てる治療に比べ、回数を抑えやすい点が利点です。
ただし、治療の前後には入念な準備と経過の観察が必要です。体の状態やがんの様子によって進め方は変わるため、詳しくは担当の医師に確認してください。
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この記事を書いた人 Wrote this article
前田 祐助 医学博士 / 医師
慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医