NTRK融合遺伝子のコンパニオン診断|がん種を問わず使える臓器横断的治療薬

NTRK融合遺伝子のコンパニオン診断|がん種を問わず使える臓器横断的治療薬

NTRK融合遺伝子は、がん種を超えて幅広い固形がんで見つかる希少な遺伝子異常です。この変異を持つがんに対し、ラロトレクチニブやエヌトレクチニブといった「臓器横断的治療薬」が75%を超える奏効率を示すことが複数の臨床試験で証明されました。

ただし、NTRK融合遺伝子は通常の病理検査では見落とされることが多く、コンパニオン診断を用いた専門的な遺伝子検査との連携が必要です。この記事では、検査の仕組みから2種類の治療薬の特徴、耐性への対処まで、潜在患者が知っておくべき情報を丁寧に解説します。

NTRK融合遺伝子とは、がん細胞に「増殖をやめるな」と命令する異常なスイッチだった

NTRK融合遺伝子とは、NTRK1・NTRK2・NTRK3という3種類の遺伝子が、別の遺伝子と誤ってつながることで生まれる異常な融合遺伝子です。この融合が起きると、正常なコントロールを失ったがん細胞が際限なく増え続けるための「スイッチ」が常にオンになります。幸いなことに、このスイッチを薬で切ることができれば、がん種に関わらず治療効果が期待できます。

NTRK1・NTRK2・NTRK3の3種類がある——それぞれが生み出すタンパク質の役割

NTRK遺伝子はもともと、神経細胞の成長や生存に関わる「TRK(トロポミオシン受容体キナーゼ)」というタンパク質を作る遺伝子です。NTRK1からはTRKA、NTRK2からはTRKB、NTRK3からはTRKCがそれぞれ作られます。

正常な状態では、これらのTRKタンパク質は細胞外からの特定の信号(神経成長因子など)を受け取ったときだけ働きます。ところがNTRK遺伝子が他の遺伝子と融合すると、信号がなくても常にオンになり続け、細胞の増殖を止める機能が失われてしまうのです。

融合遺伝子ができることで、細胞は増殖をやめられなくなる

NTRK融合遺伝子は、染色体の並べ替えや再配列によって2つの遺伝子が結合することで生まれます。この融合により、TRKタンパク質の「スイッチをオフにする」ブレーキ機能が失われ、常に活性化した状態(構成的活性化)が続きます。

この異常な活性化はがん細胞の生存・増殖・転移を促進します。逆に言えば、この過剰なTRKの活性化を薬で抑えられれば、がん細胞への効果的な打撃が期待できるということです。現在までに100種類以上の融合パターンが報告されており、融合相手の遺伝子(パートナー遺伝子)の種類によらず、治療への反応性は同程度に維持されることもわかっています。

遺伝子タンパク質頻度の高い腫瘍タイプ
NTRK1TRKA甲状腺がん、大腸がん、肺がん(低頻度)
NTRK2TRKB神経芽腫、グリオブラストーマ(希少)
NTRK3TRKC乳児型線維肉腫、唾液腺分泌がん(高頻度)

成人の一般的ながんでは稀、特定の希少がんでは際立って高頻度で見つかる

NTRK融合遺伝子はすべてのがんで同じ頻度で見つかるわけではありません。肺がん・大腸がん・乳がんなど成人に多い代表的ながんでは、検出率は0.1〜1%程度にとどまります。日常的ながん診療でNTRK融合に遭遇する機会は決して多くありませんが、だからこそ見落としが生じやすいとも言えます。

一方、乳腺分泌がん・唾液腺分泌がん・乳児型線維肉腫などの希少な腫瘍では、70〜90%以上という非常に高い頻度でNTRK融合遺伝子が見つかります。稀な組織型のがんと診断された場合や、一般的なドライバー変異が見つからない場合には、NTRK融合遺伝子を調べることが強く推奨されます。

なぜ「がん種を問わない」臓器横断的治療という発想が生まれたのか

臓器横断的治療(腫瘍非依存的治療)とは、がんが「どの臓器」で発生したかではなく、がん細胞が持つ「遺伝子異常の種類」に基づいて治療薬を選ぶ考え方です。NTRK融合遺伝子という共通のドライバー変異を持つがんであれば、肺がんも唾液腺がんも同じ薬で治療できるという発想は、従来のがん医学の枠組みを根本から変えました。

「どの臓器のがんか」で治療薬が決まっていた時代の限界

従来のがん治療では、まず「肺がん」「乳がん」「大腸がん」などのように発生した臓器を診断し、その臓器のがんに対して承認された治療薬を選ぶのが一般的でした。たとえ患者が自分のがんに最も有効な薬を持っていても、承認の枠組み上では使えない状況が続いていたのです。

この「臓器で薬を選ぶ」アプローチには大きな制約があります。稀な遺伝子異常を持つ患者が効果的な治療につながるためには、従来の枠組みを超えた新しい承認モデルが必要でした。

2018年のFDA承認が告げた「がん治療の歴史的な転換点」

2018年11月、米国食品医薬品局(FDA)はラロトレクチニブ(ヴァイトラクタ)を、がんの種類を問わず「NTRK融合遺伝子を持つ固形がん」に対して承認しました。特定のバイオマーカーの有無だけを承認条件とした、歴史上2番目の「組織非依存的承認(Tissue-agnostic approval)」です。

この承認は、「がんをどの臓器に起きたかで分類する時代から、がん細胞の遺伝子異常の種類で分類する時代へ」という精密医療(プレシジョンメディシン)の到達点を示すものとして、世界的に大きな注目を集めました。

日本でもNTRK融合遺伝子陽性のがんに適応される治療薬がある

日本においても、ラロトレクチニブおよびエヌトレクチニブ(ロズリートレク)が、NTRK融合遺伝子陽性の固形がんを適応対象として承認されています。対象となるのは、NTRK融合遺伝子が確認された局所進行または転移性の固形がんで、標準治療後に増悪したか、標準治療が存在しない場合とされています。

項目ラロトレクチニブエヌトレクチニブ
FDA承認年2018年(初のTissue-agnostic)2019年(ROS1 NSCLC等)
主な標的TRKA・TRKB・TRKCTRK・ROS1・ALK
脳移行性限定的高い(BBB通過)

コンパニオン診断がなければ、NTRK陽性のがんは気づかれないまま見過ごされる

コンパニオン診断(CDx:Companion Diagnostics)とは、特定の治療薬の投与対象かどうかを判断するために用いる体外診断用医薬品のことです。NTRK融合遺伝子は通常の病理検査だけでは見落とされやすく、専用の遺伝子検査と組み合わせたコンパニオン診断なしには、適切な治療の入り口に立てません。

治療薬とセットで機能する「コンパニオン診断」のしくみ

コンパニオン診断とは、薬を使う前に「この患者には、この薬が効く遺伝子の変化があるか」を確認する検査です。治療薬と診断薬が一体的に開発・承認されるのが特徴で、効果が期待できる患者に薬を届け、効果が見込めない患者への不要な投与を避けるために設計されています。

抗HER2薬のトラスツズマブにHER2検査が必須なように、TRK阻害薬にはNTRK融合遺伝子の検査が対になります。検査結果が陽性であれば治療の対象となり、陰性であれば別の治療法を探ることになります。

IHCスクリーニングとNGS確定診断を組み合わせる2段階戦略

NTRK融合遺伝子を検出する主な方法には、免疫組織化学(IHC)・FISH(蛍光in situハイブリダイゼーション)・RT-PCR・NGS(次世代シーケンシング)という4種類があります。それぞれ感度・特異度・コスト・利用可能な環境が異なります。

検査法特徴主な用途
IHC低コスト・導入しやすい一次スクリーニング
FISH染色体再配列を直接確認既知融合の確定診断
RT-PCR既知融合を高精度検出特定融合の確定
RNA-NGS未知融合も網羅・感度最高網羅的探索・確定診断

RNAベースのNGSが最も信頼性の高い検出法として推奨される理由

DNAベースのNGSは遺伝子の再配列(ゲノムレベルの変化)を調べますが、NTRK遺伝子はイントロン(非コード領域)が大きく、融合のつなぎ目が解読領域の外に位置してしまい見落とすことがあります。一方、RNAベースのNGSは実際に転写されたmRNAを解読するため、融合タンパク質が実際に作られているかどうかを直接確認できます。

ESMOのガイドラインでは、スクリーニングには免疫組織化学を用い、陽性例にはRNAベースのNGSで確定するという2段階戦略が推奨されています。この組み合わせにより、コストを抑えながら偽陰性を減らすことができます。

検査を受けるのに適したタイミングと対象となる患者像

一般的には、局所進行または転移性の固形がんと診断され、標準治療の選択肢が限られている患者が検査の対象となります。特に、稀な組織型のがんや、KRAS・EGFRなど既知のドライバー変異が検出されない場合にはNTRK融合遺伝子の確認が強く推奨されます。

がんと診断された後、できるだけ早い段階でがんゲノムプロファイリング検査を実施することで、NTRK融合遺伝子を含む複数の遺伝子異常を一度に調べることが可能です。治療選択の幅を最大化するためにも、タイミングを逃さないことが大切です。

ラロトレクチニブ(ヴァイトラクタ)が75%超の奏効率を示した、3つの臨床試験の衝撃

ラロトレクチニブは、TRKキナーゼに対して高い選択性を持つ経口の第1世代TRK阻害薬です。3つの独立した臨床試験から合算した55例のデータで、がんの種類に関わらず75%超の奏効率が示されました。これは従来のがん薬物療法の常識を大きく塗り替える結果でした。

3試験合算の55例が示した、がんの種類を選ばない高い奏効率

ラロトレクチニブの有効性は、成人対象の第I相試験(LOXO-TRK-14001)・小児対象の第I/II相試験(SCOUT)・青年・成人対象の第II相試験(NAVIGATE)という3つの臨床試験のデータを合算して評価されました。

55例の解析では、独立評価委員会による奏効率が75%(95%信頼区間:61〜85%)という高い数値が示されました。奏効した患者の多くで12カ月以上の奏効持続が確認されており、一時的な効果にとどまらない持続的な腫瘍縮小が実現していることも明らかになっています。

乳児型線維肉腫など、小児の希少がんでも同様の効果が確認された

ラロトレクチニブが注目される理由の一つに、小児への有効性があります。乳児型線維肉腫や先天性中胚葉性腎腫などの小児希少がんでは、NTRK3融合遺伝子の陽性率が極めて高く、ラロトレクチニブへの反応も良好であることが複数の試験で確認されています。小児がんは治療の選択肢が大人以上に限られることが多く、この薬の登場が患者と家族にとって大きな希望になっています。

副作用は比較的軽度——多くの患者が長期にわたって治療を続けられる理由

ラロトレクチニブの副作用は、多くの場合軽度から中等度です。よく報告される副作用として、疲労感・悪心・めまい・体重増加・肝機能検査値の上昇などがあります。重篤な有害事象の発生率は低く、投与を継続できる患者の割合が高いことが特徴のひとつです。

これは、TRKというタンパク質が成熟した神経以外の多くの正常組織への依存度が低いため、副作用として現れるオン・ターゲット毒性が限定的であることが主な理由と考えられています。副作用が軽ければ、治療を中断せずに長く続けられる可能性が高まります。

試験名対象主な結果
LOXO-TRK-14001成人・第I相安全性確認・奏効例あり
SCOUT小児・第I/II相小児でも高い奏効率を確認
NAVIGATE青年・成人・第II相合算奏効率75%(55例)

エヌトレクチニブ(ロズリートレク)が加えた脳転移への有効性——TRK阻害薬に新たな一面

エヌトレクチニブはTRK阻害作用に加え、ROS1やALKも阻害する多標的キナーゼ阻害薬です。ラロトレクチニブと同様にNTRK融合陽性がんに有効ですが、最大の特徴は脳神経系への高い移行性にあります。脳転移を合併するがん患者にとって、この特性は治療における重要な利点となっています。

ラロトレクチニブとの共通点と、臨床上重要な違い

両薬はともにTRKA・TRKB・TRKCを阻害する点で共通します。しかしエヌトレクチニブはより広いキナーゼ阻害プロファイルを持ち、ROS1再配列陽性の非小細胞肺がんにも適応があります。また、血液脳関門(BBB)を越えて脳内に移行しやすい分子構造を持つのがエヌトレクチニブの最大の特徴です。

3試験の統合解析が示した奏効率と、更新データが明かした奏効の長さ

  • 2018年データカットオフ時点の54例分析では奏効率57%、奏効持続期間の中央値10.4カ月
  • 2020年の更新解析(121例)では奏効率61.2%、奏効持続期間の中央値20.0カ月に延長
  • 脳内病変を有する患者での頭蓋内奏効率は63.6%と報告され、脳転移合併例にも有効性を確認

3つの第I/II相試験(ALKA-372-001・STARTRK-1・STARTRK-2)の統合解析では、時間の経過とともにより長期のデータがまとまるにつれ、安定した効果と持続性が確認されています。奏効持続期間が20カ月を超えることは、この薬が慢性疾患的な管理に活用できる可能性を示唆しています。

脳転移巣にも届く——血液脳関門を越えられる理由

通常の分子標的薬は、脳の毛細血管が物質の通過を厳密に制限する血液脳関門(BBB)により脳内に届きにくいという課題があります。エヌトレクチニブはP糖タンパク質による排出を受けにくい分子構造を持つため、脳内への移行性が高く維持されます。

脳転移は多くのがん患者にとって大きな脅威です。エヌトレクチニブがBBBを越えて脳内病変に有効性を発揮できるという特性は、患者の生活の質(QOL)を守るうえでも、治療戦略を考えるうえでも大きな意味を持ちます。

TRK阻害薬に耐性が生じたとき——次の打ち手はあるのか

分子標的薬による治療は一定の期間を経ると、がん細胞が薬の効かない耐性を獲得することがあります。TRK阻害薬も例外ではなく、NTRK遺伝子のキナーゼドメインに新たな変異が生じることが主な耐性の原因です。しかし、この耐性に対処する第2世代TRK阻害薬の開発が確実に前進しています。

キナーゼドメイン変異が耐性を引き起こす仕組み

TRK阻害薬への耐性の多くは、NTRK遺伝子のキナーゼドメインに新たな点変異が加わることで起きます。この変異により、薬がTRKタンパク質の「結合ポケット」にうまく入り込めなくなり、阻害効果が薄れます。代表的な耐性変異として「溶媒フロント変異(xDFG変異)」や「ゲートキーパー変異」と呼ばれるパターンが報告されています。

さらに、NTRK遺伝子の変化だけでなく、MAPキナーゼ経路の別の部分が活性化されてTRKを迂回する「バイパス経路」が生じることも確認されています。耐性の仕組みは複数あるため、再生検によって耐性の種類を特定することが次の治療方針を決める鍵になります。

第2世代TRK阻害薬が、第1世代の限界を乗り越えようとしている

第1世代TRK阻害薬への耐性を克服するために開発されたのが、第2世代TRK阻害薬です。レポトレクチニブ(TRIDENT-1試験で評価)やセリプロチニブなどが代表例で、第1世代薬では抑えられなかった溶媒フロント変異などの耐性変異を持つがん細胞にも有効性を示すよう設計されています。

2024年には、レポトレクチニブがNTRK融合陽性固形がんに対してFDAの迅速承認を受けています。第1世代薬に耐性が生じた場合でも、次の選択肢への橋渡しが現実のものになってきました。

耐性を想定した治療の組み立てが、長期の病状管理につながる

NTRK融合遺伝子陽性のがんを抱える患者は、TRK阻害薬による治療開始後も定期的なモニタリングと遺伝子再検査の機会を持つことが重要です。進行が確認された段階で、血液や組織の再生検を行い耐性変異の種類を確認したうえで次の治療方針を決めるという流れが推奨されます。

項目第1世代(ラロトレクチニブ等)第2世代(レポトレクチニブ等)
主な対象未治療・NTRK野生型第1世代耐性獲得後
克服できる耐性該当なし(耐性は克服しない)溶媒フロント変異など
承認状況承認済み(日米欧)米国で一部承認済み

NTRK融合遺伝子の検査を実際に受けるには——がんゲノム医療との連携がカギ

NTRK融合遺伝子の検査は、日本のがんゲノム医療の体制のもとで受けることができます。主治医と相談しながら適切な検査機関を選び、がんゲノムプロファイリング検査やコンパニオン診断を活用することが、治療選択の幅を広げる第一歩です。

がんゲノム医療の体制と、相談から検査までの流れ

日本では、がんゲノム医療中核拠点病院・がんゲノム医療拠点病院・がんゲノム医療連携病院のいずれかで、がんゲノムプロファイリング検査(多遺伝子同時検査)を受けることができます。NTRK融合遺伝子もこの検査パネルに含まれている場合が多く、まずは担当医または近くのがん診療連携拠点病院に相談することが出発点となります。

がんゲノム医療を受ける主な流れ

  • 担当医にがんゲノムプロファイリング検査の適応について相談する
  • 採取済みの腫瘍組織サンプル(過去の生検・手術検体)の有無を確認する
  • がんゲノム医療連携病院または中核拠点病院で検査を実施する
  • 結果をもとにエキスパートパネル(多職種専門家チーム)で治療方針を検討する
  • NTRK融合陽性の場合、TRK阻害薬の適応について専門家と相談する

検査で陽性と判明したとき、主治医と確認しておきたいこと

NTRK融合遺伝子が陽性と判明した場合、主治医やがんゲノム医療の専門家(エキスパートパネル)と相談しながら治療方針を決めていきます。TRK阻害薬の適応があるか、現在受けている標準治療との兼ね合いをどうするか、脳転移の有無によって薬の選択が変わるかなど、一つひとつ丁寧に確認していくことになります。

「NTRK融合遺伝子の種類(NTRK1/2/3のどれか)と融合パートナーの遺伝子名」「これが初回治療なのか、既に標準治療を経た後なのか」「他の遺伝子異常が同時に見つかっているか」——これらの情報が、最終的な治療方針を決めるうえで重要な手がかりになります。

検査について、事前に知っておくと安心できること

NTRK融合遺伝子の検査は、通常の健康診断やがん検診では受けることができません。がんと診断された後に、主治医の判断のもとで実施される「がんゲノム検査」の一環として行われます。検査には、腫瘍から採取した組織サンプルまたは血液が必要です。

組織サンプルが入手困難な場合には、血液中の腫瘍由来DNA(ctDNA)を用いる液体生検という方法もあります。ただし液体生検の感度は組織検査と比べてやや低くなる場合があるため、結果の解釈は専門家と一緒に行うことが大切です。検査の詳細な手順や費用については、担当医または医療機関にお問い合わせください。

よくある質問

NTRK融合遺伝子が陽性と診断された場合、どのがん種でもTRK阻害薬の投与が検討されるのでしょうか?

NTRK融合遺伝子の陽性が確認されれば、原則としてがんの種類(発生した臓器の種類)に関わらず、TRK阻害薬の適応を検討することができます。これが「臓器横断的治療薬」と呼ばれる理由です。

ただし、実際に治療薬を使うかどうかは、がんの進行度・既往の治療歴・全身状態・脳転移の有無・他の遺伝子異常の有無などを総合的に判断したうえで決まります。主治医やがんゲノム医療の専門家との詳しい相談をお勧めします。

NTRK融合遺伝子の検査は、通常のがん検診で受けることができるのでしょうか?

通常の健康診断やがん検診では受けることができません。NTRK融合遺伝子の検査は、固形がんと診断された後に、主治医の判断のもとでがんゲノム検査として実施されるものです。

がんゲノム医療連携病院またはがんゲノム医療中核拠点病院で受けることができますので、まずは担当医にご相談ください。がんゲノムプロファイリング検査(多遺伝子同時検査)の一環として、NTRK融合遺伝子を含む多数の遺伝子を一度に調べることができます。

ラロトレクチニブとエヌトレクチニブは、どのような観点で使い分けられるのでしょうか?

両薬はともにNTRK融合遺伝子陽性の固形がんに有効ですが、いくつかの点で異なります。エヌトレクチニブは血液脳関門を越えやすい特性を持ち、脳転移を有する患者には特に適していると考えられています。また、エヌトレクチニブはROS1陽性の非小細胞肺がんにも適応があります。

どちらを使うかは、がんの種類・脳転移の有無・患者さんの全身状態などを踏まえて主治医が判断します。どちらが優れているというわけではなく、それぞれの特性を踏まえた個別の選択が行われます。

NTRK融合遺伝子の検査結果が陰性だった場合、TRK阻害薬を使う可能性はまったくなくなるのでしょうか?

検査結果が陰性だった場合、TRK阻害薬の適応は基本的にないと判断されます。ただし、検出方法によっては偽陰性(実際は陽性なのに検出されない)のリスクがある点に注意が必要です。

特にDNAベースのNGSのみを使用した場合、NTRK遺伝子のイントロンが大きいために融合が検出されないことがあります。陰性という結果が出ても疑問がある場合は、RNAベースのNGSなど別の検出法を追加で行うかどうか主治医に相談することも一つの方法です。

TRK阻害薬の服用中に耐性が生じた場合、その後の治療選択肢はなくなってしまうのでしょうか?

耐性が生じても、治療の選択肢がなくなるわけではありません。耐性が疑われる場合は、組織または血液の再生検を行い、耐性変異の種類を特定します。耐性変異の種類によっては、第2世代TRK阻害薬(レポトレクチニブなど)への切り替えが検討されることがあります。

また、臨床試験への参加も有力な選択肢の一つです。耐性を迎えた後の治療は個別性が高いため、がん専門医と具体的な方針を相談することが大切です。治療の道がなくなったわけではない、と知っておいていただきたいと思います。

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この記事を書いた人 Wrote this article

前田 祐助

前田 祐助 医学博士 / 医師

慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医