
TMB(腫瘍遺伝子変異量)検査は、がん細胞に蓄積した遺伝子変異の数を数値化することで、免疫チェックポイント阻害薬の効果を事前に予測するバイオマーカーです。TMBが高い患者さんほど治療反応が得られやすいことが示されています。
本記事では、TMB検査の仕組みから測定方法、がん種別の傾向、代表的な臨床試験の成果まで、免疫療法を考えている患者さんが知っておきたい情報を丁寧に解説します。主治医との対話をより充実させるための知識としてお役立てください。
TMB検査(腫瘍遺伝子変異量)とは何か——免疫チェックポイント阻害薬を使う前に押さえたい基本
TMB検査とは、がん細胞の遺伝子に蓄積した変異の総数を定量化する検査です。この数値が高いほど免疫チェックポイント阻害薬が効きやすいと考えられており、治療方針の決定に活かされています。
がん細胞の「遺伝子の傷」の数を数える仕組み
私たちの細胞はDNAが傷ついたとき、通常は修復機能によってエラーを修正します。しかし、がん細胞ではこの修復機能が弱まったり、喫煙・紫外線などの外的要因でDNA損傷が積み重なったりすることがあります。
TMB(Tumor Mutational Burden:腫瘍遺伝子変異量)は、こうした「遺伝子の傷」がゲノム1メガベース(Mb)あたり何個あるかを数値化したものです。単位は「変異数/Mb」で表され、値が大きいほどがん細胞の変異数が多いことを意味します。
TMBが免疫チェックポイント阻害薬の効果予測に使われる科学的根拠
TMBが高いがん細胞は、変異から生まれた異常なたんぱく質(新抗原)を多く持ちます。この新抗原は免疫細胞が「異物」と認識しやすいため、免疫チェックポイント阻害薬でT細胞のブレーキを外したときに攻撃力が発揮されやすくなります。
Rizviらが2015年にScience誌で報告した研究では、非小細胞肺がん患者においてTMBが高いほどPD-1阻害薬への反応が良好であることが示されました。その後も複数の大規模臨床試験で同様の結果が積み重ねられ、TMBはがん種を超えた免疫療法の予測バイオマーカーとして広く認知されています。
TMBとがん細胞の特徴
| がん細胞の状態 | TMBとの関係 | 免疫療法への影響 |
|---|---|---|
| 高いTMB | 多くの新抗原を持つ | 免疫細胞に認識されやすい |
| 低いTMB | 新抗原が少ない | 免疫細胞に認識されにくい |
| DNA修復機能の異常 | TMBが上昇しやすい | MSI-Hと相関することが多い |
TMB検査はどのような状況で勧められるのか
TMB検査は主に、進行・再発がんで免疫チェックポイント阻害薬の使用を検討する段階で勧められます。標準治療での奏効が得られなかった患者さんや、がんの種類によっては一次治療の段階から実施する場合もあります。
ただし、すべてのがんに一律に行われるわけではありません。主治医ががんの種類・病期・治療歴などを総合的に評価したうえで、TMB検査の適否を判断します。疑問があれば遠慮なく担当医に確認してください。
免疫チェックポイント阻害薬がすべての患者に効かない本当の理由
免疫チェックポイント阻害薬はがん治療に革命をもたらしましたが、この治療が劇的に効く患者さんは全体の一部にとどまります。その背景にはTMBの違いがあり、効果を予測するバイオマーカーの必要性が早くから認識されてきました。
免疫チェックポイントとT細胞の働きをやさしく解説
免疫チェックポイントとは、T細胞(免疫の主役となる細胞)が過剰に働きすぎないよう調節するブレーキのような仕組みです。健康な体では、このブレーキが自己免疫疾患を防ぐために機能しています。
がん細胞はこのブレーキを悪用してT細胞の攻撃をかわします。免疫チェックポイント阻害薬はそのブレーキを解除し、T細胞を再び活性化させてがんへの攻撃力を取り戻させます。代表薬にはPD-1阻害薬・PD-L1阻害薬・CTLA-4阻害薬があります。
TMBが高いと免疫細胞が「敵」を認識しやすくなる仕組み
TMBが高いがん細胞は多くの新抗原を持ちます。新抗原とは変異したたんぱく質の断片で、免疫細胞が「敵」と識別するための目印になります。新抗原が多いほど、T細胞はがん細胞を「自己とは異なるもの」として認識しやすくなります。
ブレーキが解除された状態でT細胞が敵を明確に認識できれば、がんへの攻撃効率が高まります。「TMBが高い→免疫チェックポイント阻害薬が効きやすい」という関係が成り立つのはこの理由からです。
TMBが低くても免疫療法が選ばれるケースがある
TMBが低い患者さんでも免疫療法がまったく無効とはいえません。マイクロサテライト不安定性(MSI-H)が認められる場合はTMBとは独立して高い反応性を示すことがあり、PD-L1の発現状況や腫瘍浸潤リンパ球の多寡なども治療効果を左右します。
複数の指標を組み合わせることで、より精度の高い治療選択が実現できます。TMBだけを見て治療の可否を判断するのではなく、主治医と包括的に相談することが大切です。
主な免疫療法関連バイオマーカーの比較
| バイオマーカー | 測定対象 | 主な用途 |
|---|---|---|
| TMB | ゲノム変異の総数 | 免疫療法候補の選定 |
| PD-L1 | タンパク質の発現量 | 抗PD-1/L1薬の選択 |
| MSI | DNA修復機能の状態 | 免疫療法適応の判断 |
TMBはどうやって測るのか——NGS検査の流れと基準値の読み方
TMBを測定するには次世代シークエンシング(NGS)という技術を使って腫瘍組織の遺伝子を解析します。測定には一定の時間が必要ですが、その結果は免疫療法の適否を判断する重要な情報源になります。
次世代シークエンシング(NGS)でTMBを測定する流れ
TMBの測定は、手術や生検で採取したがん組織からDNAを抽出することから始まります。次に、NGSと呼ばれる技術で大量の遺伝子情報を一度に読み取り、がん細胞と正常細胞の遺伝子を比較します。後天的に生じた体細胞変異の数を算出し、TMBの値(変異数/Mb)として数値化します。
全エクソームシークエンシング(WES)は最も包括的な方法ですが、コストと時間の面からパネル型NGS検査が臨床で広く使われています。適切に検証されたパネル型検査でもWESと同等のTMB評価が可能とされています。
10 mut/Mbという基準値はなぜ設けられたのか
米国食品医薬品局(FDA)は2020年、TMBが10変異/Mb以上(TMB-High)の固形がん患者に対してペムブロリズマブの組織横断的な使用を承認しました。この閾値は、KEYNOTE-158試験の解析結果に基づいています。
TMBが10 mut/Mb以上の患者群では客観的奏効率が有意に高いことが示されました。ただし、10 mut/Mbはひとつの参考値にすぎず、がんの種類ごとに最適なカットオフ値が異なる可能性がある点は忘れてはなりません。
TMB値の分類目安
| TMB値(mut/Mb) | 分類 | 免疫療法の目安 |
|---|---|---|
| 10以上 | TMB高値(TMB-H) | 有効性が期待されやすい |
| 1〜9 | TMB中等値 | 個別評価が必要 |
| 1未満 | TMB低値(TMB-L) | 有効性が低い傾向がある |
測定プラットフォームによるばらつきと標準化への取り組み
TMBの測定値は、使用する遺伝子パネルや解析アルゴリズムによってばらつきが生じることが知られています。異なる施設・機器で測定した値を単純比較することは難しく、臨床適用を複雑にしてきた課題のひとつです。
この問題に対応するためFriends of Cancer ResearchとQuIPが協力し、国際的なTMB標準化プロジェクトが進められています。Stenzingらの報告(2019年)では複数施設・プラットフォーム間での整合性を高めるための推奨事項が示され、一定の標準化が進んでいます。
がんの種類によってTMBの傾向はこれだけ違う——患者さんが知っておきたいがん種別の実態
TMBはすべてのがんで同じ高さを示すわけではありません。がんの種類によって分布は大きく異なり、免疫チェックポイント阻害薬が特に期待されるがんとそうでないがんに分かれます。自分のがんがどのカテゴリーにあたるかを知ることが、治療の見通しを立てる一歩になります。
TMBが高くなりやすいがんと、その背景にある原因
TMBが高くなりやすいがんとして知られているのは、メラノーマ(皮膚悪性黒色腫)、非小細胞肺がん(とりわけ喫煙者)、膀胱がん、頭頸部がん、大腸がん(MSI-H型)などです。喫煙由来の変異、紫外線暴露、DNA修復機能の異常(ミスマッチ修復欠損)が高いTMBをもたらす主な原因と考えられています。
逆に、甲状腺がんや膵がん、前立腺がん(一部例外を除く)などはTMBが比較的低い傾向にあります。「なぜ自分のがんはTMBが低いのか」と感じた方も、それぞれのがんの性質によるものであり、患者さんの生活習慣や個人的な責任を意味するものではありません。
肺がん・メラノーマにおけるTMBと免疫療法の実績
非小細胞肺がんは免疫チェックポイント阻害薬の恩恵を最も受けてきたがん種のひとつです。Hellmannらが2018年にNew England Journal of Medicineに報告した試験では、TMB高値の非小細胞肺がん患者においてニボルマブ+イピリムマブ併用療法が化学療法を上回る無増悪生存期間を示しました。
メラノーマでも、高いTMBが免疫療法への良好な反応と結びついていることが多数の研究で確認されています。これらの知見がTMBを治療選択の指標として世界的に活用する動きを加速させました。
TMBが低い傾向のあるがんにおける免疫療法の現状
膵がんや肝細胞がんなどもともとTMBが低いがんでは、免疫チェックポイント阻害薬単独での有効性は限定的なことが多いです。こうしたがんでは化学療法や分子標的薬との組み合わせ、あるいはTMB以外のバイオマーカーを用いた患者選択の研究が進んでいます。
TMBが低い患者さんでもあきらめる必要はありません。治療の選択肢は日々進化しています。定期的に主治医と情報を共有し、最新の治療方針について確認することが大切です。
がん種別TMBの傾向と免疫療法の実績
| がんの種類 | TMBの傾向 | 免疫療法の実績 |
|---|---|---|
| メラノーマ | 高い | 多数の試験で有効性確認 |
| 非小細胞肺がん | 中〜高い | 複数の治療法で承認済み |
| 大腸がん(MSI-H型) | 高い | 免疫療法への反応良好 |
| 膵がん | 低い傾向 | 単独使用は限定的 |
TMBとPD-L1検査——それぞれが測るものの違いと、組み合わせて使う意味
TMBとPD-L1はともに免疫チェックポイント阻害薬の効果を予測するバイオマーカーですが、測定するものがまったく異なります。両者は独立した情報を提供するため、組み合わせることでより精度の高い患者選択が期待できます。
PD-L1発現検査でわかること、わからないこと
PD-L1(プログラム死リガンド1)は、がん細胞や免疫細胞の表面に発現するたんぱく質で、T細胞の活動を抑制します。PD-L1発現検査は、腫瘍組織の免疫組織化学染色(IHC)によってPD-L1がどの程度発現しているかを評価するものです。
PD-L1の発現が高い患者さんでは抗PD-1/PD-L1薬への反応が期待されますが、PD-L1が陰性でも一定割合の患者さんが免疫療法に反応することがあります。「陰性=無効」と単純に結論づけることはできない点が、この検査の限界のひとつです。
TMBとPD-L1を組み合わせると予測精度が上がる場合
TMBはゲノムの変異数を反映し、PD-L1は腫瘍微小環境の免疫状態を反映します。それぞれが異なる生物学的情報を提供するため、両者を組み合わせることで単独よりも効果予測の精度が高まることがあります。
Hellmannらの研究では、TMB高値かつPD-L1高発現の肺がん患者で特に高い奏効率が得られたことが報告されています。一方、TMBとPD-L1のどちらが低い場合でも一定の反応が見られることがあり、組み合わせの解釈はがん種や治療法ごとに異なります。
TMB検査とPD-L1検査の比較
| 比較項目 | TMB検査 | PD-L1検査 |
|---|---|---|
| 測定対象 | ゲノム変異の総数 | タンパク質の発現量 |
| 測定方法 | NGS(遺伝子解析) | 免疫組織化学染色(IHC) |
| 反映する情報 | ゲノムの変異特性 | 腫瘍微小環境の状態 |
二つの指標だけで治療効果のすべてを予測できるわけではない
TMBとPD-L1は有用な指標ですが、これら二つだけで免疫チェックポイント阻害薬の効果のすべてを予測することはできません。腫瘍浸潤リンパ球の状態やMSI-Hの有無、腫瘍微小環境の複雑な相互作用など、多くの因子が治療効果に影響するからです。
研究者たちはTMBやPD-L1に複数の指標を加えた統合的な予測モデルの開発を進めています。より精度の高いバイオマーカー体系が確立されることで、患者さん一人ひとりに合った治療選択が実現すると期待されています。
臨床試験が証明したTMBと免疫チェックポイント阻害薬の効果——患者さんが知るべきデータ
世界各地で行われた大規模な臨床試験が、TMBと免疫チェックポイント阻害薬の効果の関係を科学的に裏付けてきました。患者さんにとってこれらのデータは、治療の根拠を理解するうえで重要な意味を持ちます。
KEYNOTE-158試験——がん種を超えた承認を実現したデータの力
KEYNOTE-158試験は複数のがん種を対象にペムブロリズマブの有効性を評価した大規模な第2相臨床試験です。Marabelleらが2020年にLancet Oncologyに報告した解析では、TMBが10 mut/Mb以上の患者群における客観的奏効率が21.1%に上り、有意な有効性が確認されました。
この結果を受けてFDAは「TMBが高ければがん種を問わずペムブロリズマブが使用できる」という歴史上初の組織横断的承認を行いました。TMBがバイオマーカーとして実臨床に定着する大きな転換点となった試験です。
CheckMate試験——肺がんでのニボルマブ+イピリムマブとTMBの関係
CheckMate 227試験は非小細胞肺がん患者を対象にした第3相臨床試験です。TMBが10 mut/Mb以上の患者群において、ニボルマブ+イピリムマブ併用療法は化学療法と比較して無増悪生存期間を有意に延長させることが示されました。
Hellmannらが2018年に報告したこの結果は、TMBが実臨床での治療選択を変えるバイオマーカーとして機能しうることを示した重要なエビデンスのひとつです。免疫チェックポイント阻害薬の組み合わせとTMBの関係を論じるうえで欠かせない試験として今も引用され続けています。
パンキャンサー解析が明かした「TMB高値と生存期間延長」の関係
Samsteinらは2019年、免疫チェックポイント阻害薬で治療された1,662人の進行がん患者のゲノムデータを解析し、TMBが高い群(各がん種の上位20%)で全生存期間が有意に延長することをNature Geneticsに報告しました。解析対象は肺がん・メラノーマ・泌尿器がん・頭頸部がんなど多様ながん種にわたります。
この結果はTMBが単一がん種に限らない「がん種横断的な予測バイオマーカー」であることを強く支持するものでした。ただし、TMBのカットオフ値はがん種によって大きく異なることも同時に示されており、一律の閾値を当てはめることには慎重さが求められます。
主要臨床試験でのTMBと免疫療法の関係
- KEYNOTE-158試験:TMB高値(10 mut/Mb以上)の固形がん患者でペムブロリズマブの客観的奏効率21.1%を確認。FDA組織横断的承認の根拠に。
- CheckMate 227試験:TMB高値の非小細胞肺がん患者でニボルマブ+イピリムマブが化学療法を上回る無増悪生存期間を達成。
- MSK-IMPACTパンキャンサー解析:1,662人の多様ながん種患者でTMB高値群の全生存期間が有意に延長することを確認(Samsteinら、2019年)。
- Goodmanらの解析:1,638人のデータをもとに、TMB高値が多様ながん種で免疫療法の反応率・生存期間と独立した相関を持つことを報告。
TMB検査を受ける前に患者さんが確認しておきたいこと
TMB検査を受けるにあたって、患者さんが事前に把握しておきたいことがいくつかあります。検査の準備から結果の解釈まで、主治医とのコミュニケーションを密にすることが治療をスムーズに進める鍵になります。
検査に必要な組織検体とその採取方法
TMB検査にはがん組織のサンプルが必要です。多くの場合、過去の手術や生検で採取・保存されたパラフィン包埋ホルマリン固定標本(FFPE検体)を使用します。保存検体の量が不十分な場合や、がんの状態が変化した可能性がある場合は、あらためて生検を行うことがあります。
検査前に準備・確認しておきたいこと
- 過去の手術・生検で採取した組織検体が保存されているかどうか。
- 保存検体の量や品質が検査に十分かどうか(主治医に確認)。
- 血液を使ったリキッドバイオプシーが適応となる場合があるかどうか。
- 検査結果が出るまでの目安の期間(施設によって異なる)。
結果が出るまでの期間と主治医との相談の進め方
NGSを用いたTMB検査の結果が出るまでには、一般的に数日から数週間かかることがあります。検体の状態や検査機関によって期間は異なりますが、結果待ちの時間は患者さんにとって不安を感じやすい時間帯です。
結果が届いたら、主治医から数値の意味と次のステップについて丁寧に説明を受けましょう。TMBが高値であっても低値であっても、それだけで治療方針が即座に確定するわけではなく、他の検査結果や全身状態を踏まえた総合的な判断が行われます。
TMBの結果だけで治療の最終決定はしない
TMBは治療選択を支援する重要な情報ですが、それ単独で治療の最終決定を行うものではありません。患者さんの全身状態、臓器機能、既往症、他のバイオマーカーの結果など、多くの要因を総合したうえで医師が治療方針を判断します。
検査結果に疑問や不安を感じたときは、遠慮せず担当医に質問してください。セカンドオピニオンを求めることも患者さんの正当な権利です。自分自身の治療に積極的に関わる姿勢が、よりよい医療につながります。
TMB検査を受けるにはどのような検体が必要ですか?
TMB検査では、がん組織のサンプルが必要です。多くの場合、過去の手術や生検で採取・保存されたパラフィン包埋ホルマリン固定標本(FFPE検体)を使用します。保存検体の量や品質が不十分な場合は、あらためて生検を行うことがあります。
また一部の施設では、血液中を循環する腫瘍DNA(ctDNA)を利用したリキッドバイオプシー(血液検査)も選択肢となっています。ただし組織検体に比べてより正確な結果が得られるとされており、まずは保存検体の有無を担当医に確認することが出発点になります。
TMB検査の結果が高値だった場合、免疫チェックポイント阻害薬は必ず効きますか?
TMBが高値であることは免疫チェックポイント阻害薬が効きやすい状況を示す根拠のひとつですが、「必ず効く」ということにはなりません。TMB高値でも効果が得られない患者さんがいる一方、TMBが中程度でも一定の効果が認められることがあります。
TMBはあくまでも確率的な予測指標であり、実際の治療効果は患者さんの全身状態・腫瘍の性質・免疫環境など多くの要因に左右されます。主治医と十分に話し合い、総合的な判断のもとで治療方針を決めることが大切です。
TMB検査はどのようながんに対して特に有用とされていますか?
現時点では、非小細胞肺がん・メラノーマ・膀胱がん・頭頸部がん・大腸がん(MSI-H型)などでTMBが比較的高くなりやすく、免疫チェックポイント阻害薬の効果予測としての有用性が複数の臨床試験で示されています。
また、FDAは2020年にTMBが10変異/Mb以上のすべての固形がん患者(成人・小児)へのペムブロリズマブ使用を承認しており、がん種を問わずに適用できる点が大きな特徴です。ただし、がんの種類によってカットオフ値の最適値が異なる可能性がある点も念頭に置いておくことが重要です。
TMB検査とMSI検査はどのように違いますか?
TMB検査はゲノム全体に存在する体細胞変異の総数を定量化するものです。一方、MSI(マイクロサテライト不安定性)検査は、DNA修復機能(ミスマッチ修復)の異常を評価するものです。MSI-H(高不安定性)はDNA修復異常の結果として高いTMBを示す場合が多いですが、両者は完全には一致しません。
MSI-Hの患者さんは、TMBとは独立して免疫チェックポイント阻害薬への高い反応性を示すことが知られており、それぞれ独立したバイオマーカーとして位置づけられています。どちらの検査を行うかは主治医が総合的に判断しますが、両方の情報を持つことでより精度の高い治療選択が可能になることもあります。
TMB検査の結果が低値だった場合、免疫チェックポイント阻害薬は選択肢から外れますか?
TMBが低値であっても、免疫チェックポイント阻害薬がまったく選択肢から外れるわけではありません。PD-L1の発現状況やMSI-H・dMMRの有無など他のバイオマーカーが陽性であれば免疫療法が有効な場合があります。
また、がんの種類によっては化学療法や分子標的薬との組み合わせで免疫療法の効果が高まることも報告されています。TMBの結果は総合的な判断の一部にすぎません。低値の場合でも主治医と他の治療選択肢についてしっかり相談することをお勧めします。
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前田 祐助 医学博士 / 医師
慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医