MCED検査(Galleri)とは?多がん早期発見検査の仕組みと実用化の現状

MCED検査(Galleri)とは?多がん早期発見検査の仕組みと実用化の現状

がんは早期に発見できれば治療の選択肢が広がり、生存率も高まります。しかし現在のがん検診で対象となるのは、ごく一部のがん種に限られています。

MCED検査(Multi-Cancer Early Detection)は、1回の採血で50種類以上のがんの兆候を調べられる血液検査です。なかでもGRAIL社が開発したGalleriは、臨床試験データが豊富な代表的MCED検査として注目されています。

この記事では、Galleriの仕組みや検出精度、主要な臨床試験の結果、実用化に向けた課題をわかりやすくお伝えします。

MCED検査(Galleri)は血液1本で50種類以上のがんを探せる

MCED検査とは、1回の血液検査で複数のがんの兆候を同時にスクリーニングできる検査の総称です。GRAIL社が開発したGalleriは50種類以上のがんに対応し、世界でもっとも研究が進んでいるMCED検査です。

そもそもMCED検査とは何を指すのか

MCED検査は「Multi-Cancer Early Detection」の略で、日本語に訳すと「多がん早期発見検査」です。従来のがん検診が1つの検査で1つのがん種を調べるのに対し、MCEDは1回の採血で複数のがん種をスクリーニングできます。

世界中で40種類以上のMCED検査が開発段階にありますが、大規模臨床試験を経て実用段階に近づいているのはまだ限られています。Galleriは38万人以上が参加する臨床試験プログラムを有し、研究の蓄積量で他をリードしています。

Galleriを開発したGRAIL社の概要

Galleriを開発・提供しているのは、米国カリフォルニア州メンロパークに本社を置くGRAIL社です。「がんを治療可能な段階で早期に発見する」というミッションのもと、血液中のセルフリーDNA(cfDNA)を解析するMCED検査の研究開発に取り組んでいます。

GRAIL社はNASDAQに上場しており、英国NHSとの大規模共同臨床試験も進行中です。2026年前半にFDA(米国食品医薬品局)への市販前承認申請を完了する予定です。

MCED検査と従来のがん検診の比較

項目従来のがん検診MCED検査(Galleri)
検査方法内視鏡・画像・細胞診など採血(血液検査)
対象がん種1検査につき1がん種1回で50種類以上
身体的負担検査により大きく異なる採血のみで低侵襲
発見しにくいがん膵臓・卵巣がんなどは対象外膵臓・卵巣がんも検出対象
位置づけ確立されたスクリーニング補完的スクリーニング

従来の検診と組み合わせて使う「補完的な」検査である

Galleriはあくまで従来のがん検診を補完するために設計された検査です。マンモグラフィーや大腸内視鏡検査に追加する形での活用が想定されています。

PATHFINDER 2試験では、標準検診にGalleriを加えることでがん検出数が7倍以上に増えました。膵臓がんや卵巣がんなど、従来の検診では見つけにくいがんも検出対象に含まれている点が期待を集めています。

Galleri検査はどうやってがんを見つけるのか|血中DNAメチル化解析が鍵になる

Galleriは、血液中を流れるごく微量のDNA断片のうち、がん細胞に由来するものを見分けることでがんの有無と発生部位を推定します。核となる技術は「DNAメチル化パターンの解析」と「機械学習アルゴリズム」の組み合わせです。

セルフリーDNA(cfDNA)とは何か

私たちの体内では、正常な細胞もがん細胞も、寿命を終えたり破壊されたりする際にDNAの断片を血液中に放出します。この血中を漂うDNA断片をセルフリーDNA(cfDNA)と呼びます。がん細胞由来のcfDNAには正常細胞とは異なる化学的な「しるし」が刻まれており、Galleriはこの違いを検出してがんの存在を評価します。

DNAメチル化パターンの分析で「がんの指紋」を読み取る

Galleriが着目しているのは、DNAメチル化と呼ばれるエピジェネティクス(後天的な遺伝子制御)のパターンです。メチル化とは、DNAの特定の塩基にメチル基という小さな化学構造が付加される現象で、がん細胞では正常細胞と大きく異なるパターンを示します。

Galleriは10万か所以上のゲノム領域のメチル化状態を次世代シーケンシング技術で読み取り、機械学習アルゴリズムで「がんの信号」の有無を判定します。がん種ごとにも固有の特徴があるため、どの臓器のがんなのかも推測できる仕組みです。

がんの発生部位を92%以上の精度で予測できる

Galleriのもう1つの大きな特長は、がん信号の発生元となっている臓器や組織を高い精度で予測できる点です。この予測を「Cancer Signal Origin(CSO)」と呼び、医師はCSOをもとに適切な精密検査を素早く決定できます。

PATHFINDER 2試験では、CSO予測精度は92%に達しました。不必要な検査を減らしながら効率的にがんの確定診断へたどり着ける可能性が高まるでしょう。

Galleriの解析フローの概要

段階内容用いる技術
採血約10mLの血液を採取一般的な静脈採血
cfDNA抽出血漿からcfDNAを分離専用キットによる抽出
メチル化解析10万以上の領域を読み取り次世代シーケンシング
がん信号判定がんの有無を判定機械学習アルゴリズム
CSO予測発生部位を予測パターン認識アルゴリズム

Galleriの感度と特異度|50種類以上のがんを対象にした臨床データ

がん検査の精度を測る指標に、感度と特異度があります。感度はがんがある人を正しく陽性と判定する割合、特異度はがんがない人を正しく陰性と判定する割合です。Galleriは特異度の高さに定評がある一方、感度にはがん種やステージによる差も報告されています。

死亡率の高い12がん種で73.7%の感度を実現した

米国のがん死亡の約3分の2を占める12種類のがんに対し、PATHFINDER 2試験ではエピソード感度73.7%が報告されました。膵臓がん・卵巣がん・肝臓がんなど、従来のスクリーニングが存在しない悪性度の高いがんで感度が高い傾向にあります。

特異度99.5%が示す「偽陽性の少なさ」

Galleriの特異度はCCGA試験で99.5%、PATHFINDER 2試験でも偽陽性率0.4%と、非常に低い水準を維持しています。がんがないのに陽性と判定されるリスクが極めて小さい点が強みです。

CCGA試験における主ながん種別の感度

がん種全ステージ感度特記事項
膵臓がん約83.7%従来スクリーニング検査なし
卵巣がん約83.1%従来スクリーニング検査なし
食道がん約85.0%悪性度の高いがん種
肺がん約70%台低線量CTとの補完が期待
大腸がん約80%台便潜血検査との併用が有用

早期がん(ステージI)に対する感度には課題が残る

一方で、Galleriにはまだ克服すべき課題もあります。CCGA検証試験におけるステージIの感度は16.8%にとどまり、ステージが上がるほど感度も高くなる傾向がみられました。ステージIIで40.4%、ステージIIIで77.0%、ステージIVで90.1%です。

早期がんはcfDNAの放出量が少ないため、血液検査での検出が難しいという生物学的な背景があります。とはいえ、PATHFINDER 2試験ではGalleriで検出された新規がんの半数以上がステージI-IIであり、技術の改善は着実に進んでいます。

PATHFINDER試験が証明したGalleri検査の実力|がん検出率が7倍以上に増えた

Galleriの有用性を実際のスクリーニング集団で検証したのがPATHFINDERシリーズです。PATHFINDER 2試験は約3万5000人が参加した米国史上最大のMCED介入試験で、標準検診にGalleriを加えるとがん検出率が大幅に向上することを示しました。

PATHFINDER 2試験の概要と参加者

PATHFINDER 2試験(NCT05155605)は、50歳以上でがんの疑いがない成人を対象とした前向き・多施設・介入試験です。米国とカナダで3万5878人が登録され、標準的な推奨がん検診に加えてGalleri検査を受けました。

がん検出数が7倍以上に増加した結果は大きなインパクトを与えた

12か月の追跡データによると、推奨検診にGalleriを追加した結果、がん検出数は7倍以上に増加しました。検出されたがんの約4分の3は、現在の推奨検診の対象外となっているがん種です。

53.5%がステージIまたはIIで発見されており、早期発見につながった例も少なくありません。Galleriが既存の検診体制に大きな付加価値を提供できることを示す結果といえるでしょう。

陽性適中率と診断確定までの流れ

PATHFINDER 2試験における陽性適中率(PPV)は約61.6%で、Galleriで「がん信号あり」と判定された人のうち約6割に実際にがんが確認されました。診断確定までの中央値は46日で、重篤な試験関連有害事象はゼロでした。

PATHFINDER試験シリーズの比較

項目PATHFINDERPATHFINDER 2
参加者数6,662人35,878人
対象年齢50歳以上50歳以上
陽性適中率約43%約61.6%
CSO予測精度約88%約92%
発表時期2023年(Lancet)2025年(ESMO)

英国14万人規模のNHS-Galleri試験は2026年に結果を公表予定

MCED検査が「がん死亡率の低下」に本当につながるかを検証するのが、英国NHSとGRAIL社の共同で進められているNHS-Galleri試験です。約14万人が参加する世界初のMCED大規模ランダム化比較試験(RCT)として注目されています。

試験デザインと規模は世界で初めてのMCED大規模RCT

NHS-Galleri試験(NCT05611632)は、イングランドの8つのCancer Alliance地域で50歳から77歳の無症状の成人を対象に実施されています。参加者は介入群(年1回・3年間のGalleri検査)と対照群にランダムに割り付けられました。

2021年から2022年にかけて14万人以上が登録され、社会経済的に不利な地域からの参加者も適切に含まれています。がん検診における公平性を重視した試験設計も特徴の1つです。

主要評価項目は「進行がん診断の減少」に設定されている

主要評価項目は、ステージIII-IVの進行がん診断が介入群で有意に減少するかどうかです。早期発見が進行がんの割合を減らし、がん死亡率改善につながるかを評価します。

NHS-Galleri試験の主なデータポイント

項目内容
登録人数約14万人
対象年齢50~77歳
試験デザインランダム化比較試験
主要評価項目進行がん診断の減少
結果公表予定2026年

結果次第で各国のがん検診方針が大きく変わりうる

主要評価項目が達成された場合、MCED検査を国レベルのスクリーニングに組み込む科学的根拠が確立されます。英国だけでなく米国や日本のがん検診方針にも影響を与えるでしょう。

ただし、がん死亡率そのものの変化を追跡するにはさらに長期のフォローアップが必要です。結果の解釈には慎重さが求められますが、MCED検査の実用化に向けた重要な一歩であることは間違いありません。

MCED検査を受ける前に押さえておきたい注意点と限界

Galleriは革新的な技術ですが万能ではありません。検査を正しく活用するためには、注意点と限界を事前に理解しておきましょう。

Galleriはスクリーニング検査であり確定診断ではない

Galleriの結果は「がん信号あり」または「がん信号なし」として報告されますが、確定診断ではありません。がん信号が検出された場合は、CT検査や内視鏡検査などの精密検査で確認が必要です。

「がん信号なし」でも、がんが100%ないことを保証するものではありません。PATHFINDER 2試験の陰性適中率は99.1%と高い数値ですが、わずかに偽陰性が生じる可能性はあります。

偽陰性の可能性があるため従来の検診も並行して受けることが大切

Galleriは従来の推奨検診に取って代わるものではなく、追加で受ける検査です。マンモグラフィーや大腸内視鏡検査など、推奨されている個別のがん検診はこれまでどおり受けてください。

脳腫瘍や皮膚がんなど、血中へのcfDNA放出が少ないがん種はGalleriでは検出しにくいと考えられています。気になる症状がある場合は速やかに医療機関を受診しましょう。

50歳以上が推奨対象で、FDA承認は2026年中に申請予定

Galleriはがんリスクが高まる50歳以上の成人への使用が推奨されています。21歳以下、妊娠中、がん治療中の方は対象外です。現時点でFDA承認は受けておらず、CLIA認証を受けたGRAIL社の臨床検査室でLDT(ラボ開発検査)として提供されています。

  • Galleriはスクリーニング検査であり、確定診断には精密検査が必要
  • 「がん信号なし」でもがんが存在しないことの完全な保証にはならない
  • 脳腫瘍・皮膚がんなどcfDNA放出が少ないがん種は検出が難しい
  • 推奨される従来のがん検診は今後も並行して受け続けることが重要
  • 50歳以上が主な推奨対象で、医師の処方が必要

日本でMCED検査(Galleri)を受けたい方へ|いま知っておくべき情報

日本国内でのMCED検査(Galleri)の受検環境は、海外と比較するとまだ限定的です。ただし、がん検診の選択肢について正しい知識を持つことは将来の健康管理に役立ちます。

海外での利用状況と医師の処方が必要な仕組み

米国では、Galleriは医師の処方のもとで受検可能です。費用は1回あたり約749~900ドル程度で、多くの場合は自費負担となっています。一部の保険会社がカバーし始めていますが、広範な適用はまだ実現していません。

  • 米国ではGRAIL社を通じて医師の処方で受検が可能
  • 費用は1回あたり約749~900ドル(自費負担が中心)
  • 英国ではNHS-Galleri試験として臨床研究の枠組みで実施中
  • デジタルヘルスプラットフォームを通じた提供も始まっている

日本国内でのGalleri導入はまだこれからの段階

現時点では、日本国内でGalleri検査を受けられる医療機関は一般的ではありません。GRAIL社のサービスは主に米国を中心に展開されており、日本を含むアジア太平洋地域への本格展開の公式発表はまだなされていません。

ただし、リキッドバイオプシー(液体生検)技術は日本でも研究が進んでおり、将来的にMCED検査が日本のがん検診に組み込まれる可能性はあります。NHS-Galleri試験の結果公表後は各国の規制当局の動きが加速するかもしれません。

MCED検査に関心がある方が今できること

現時点でMCED検査の受検が難しくても、がんの早期発見のためにできることはあります。自治体や職場の既存のがん検診を定期的に受けることが、もっとも確実な手段です。

がん家族歴やリスク因子を持つ方は、かかりつけ医に相談して自分に合った検診スケジュールを立てましょう。MCED検査に関する情報は日々更新されていますので、信頼できる情報源から継続的に収集することをおすすめします。

よくある質問

MCED検査(Galleri)は1回の採血でどのくらいの種類のがんを検出できますか?

Galleriは1回の採血で50種類以上のがんの兆候をスクリーニングできます。膵臓がん・卵巣がん・肝臓がんなど、従来の検診では見つけにくいがん種も対象に含まれています。

ただし、脳腫瘍や皮膚がんなど血中へのDNA放出が少ないがんは検出が難しいとされています。Galleriの結果にかかわらず、推奨される従来のがん検診も継続して受けてください。

Galleri検査で「がん信号なし」と判定されたらがんの心配はなくなりますか?

「がん信号なし」は、検査時点でGalleriが検出できる範囲のがん信号が見つからなかったことを意味しますが、がんが存在しない完全な保証にはなりません。陰性適中率は99.1%と高いものの、偽陰性の可能性はわずかに残ります。

陰性の結果を受け取った場合でも、年齢やリスク因子に応じた定期検診を続けてください。気になる症状がある場合は結果にかかわらず医師にご相談ください。

Galleri検査の偽陽性率はどのくらいですか?

Galleriの偽陽性率はCCGA試験で0.5%、PATHFINDER 2試験で0.4%と、市販MCED検査のなかでも低い水準です。

偽陽性率が低いということは、がんがないのに「がん信号あり」と誤判定される確率が極めて小さいことを意味します。不必要な精密検査や心理的負担を抑えるうえで重要な指標です。

Galleri検査は何歳から受けることが推奨されていますか?

Galleriはがんリスクが高まる50歳以上の成人への使用が推奨されています。がんの家族歴や喫煙・肥満などのリスク因子を持つ方には、特に有用な選択肢になりうるでしょう。

21歳以下、妊娠中、がん治療中の方は対象外です。受検には医師の処方が必要で、結果も医師と一緒に解釈することが推奨されます。

MCED検査(Galleri)はFDA(米国食品医薬品局)の承認を受けていますか?

2025年末時点で、GalleriはFDAの正式な承認をまだ取得していません。CLIA認証を受けたGRAIL社の臨床検査室でラボ開発検査(LDT)として、医師の処方のもとで利用可能です。

GRAIL社は2026年前半に市販前承認(PMA)の申請を完了する予定です。FDAの審査を経て承認が得られれば、より広範な普及につながるでしょう。

References

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この記事を書いた人 Wrote this article

前田 祐助

前田 祐助 医学博士 / 医師

慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医