WES(全エクソーム)とWGS(全ゲノム)の違い|コストと精度のバランスを解説

WES(全エクソーム)とWGS(全ゲノム)の違い|コストと精度のバランスを解説

WES(全エクソーム解析)とWGS(全ゲノム解析)は、どちらも次世代シーケンシング技術を活用したがんゲノム検査ですが、解析する範囲やコストが大きく異なります。

WESはタンパク質をコードするエクソーム領域に絞り込み、費用を抑えながら臨床的に重要な変異の大部分を捉えられます。一方でWGSはゲノム全体を網羅し、非コード領域の変異や構造変異まで検出できます。

この記事では、両者の技術的な違いをわかりやすく整理し、がん検査やがんワクチン開発においてどちらを選ぶべきかを丁寧に解説します。

遺伝子解析の「窓の広さ」が違う|WESとWGSが調べる領域を比較する

WESとWGSの最も根本的な違いは、ゲノムのどの範囲を解析するかです。エクソームだけを深く調べるか、ゲノム全体を広く見渡すか——この選択が、コストと検出できる変異の種類を大きく左右します。

WES(全エクソーム解析)が調べるDNAの範囲は密度が高い

ヒトのゲノムは約30億塩基対から成ります。その中でタンパク質の設計図となる「エクソン」と呼ばれる領域は、全体のわずか約1〜2%です。WES(全エクソーム解析)はこのエクソーム領域だけを標的にして解析を行います。

エクソームに集中することで、現在知られているがん関連の遺伝子変異の約85〜90%をカバーできると言われています。コストを抑えながら臨床的に意義のある変異を拾いやすい点がWESの強みですが、非コード領域(イントロン、プロモーターなど)の変異は調べられず、こうした「見えない場所」を見落とすリスクもあります。

WGS(全ゲノム解析)が調べるDNAは文字通り全体に及ぶ

WGS(全ゲノム解析)は、エクソームを含むゲノム全体の約30億塩基対を一括して解析します。コーディング領域だけでなく、プロモーター、イントロン、エンハンサー、反復配列まで、文字通りDNA全体が対象です。

ゲノム全体を見渡すため、WESでは検出が難しい構造変異(大きな欠失・挿入・転座)やコピー数変化を精度よく捉えることができます。がんの進行や薬剤耐性を引き起こす変異の中には、コーディング領域の外に存在するものも少なくありません。

WESとWGSの解析対象・基本特徴の比較

項目WES(全エクソーム)WGS(全ゲノム)
解析対象エクソーム領域(ゲノムの約1〜2%)ゲノム全体(約30億塩基対)
カバレッジ(深度)高い(100×前後が一般的)中程度(30〜50×前後)
データ量少ない(約5〜10 GB/サンプル)多い(約90〜150 GB/サンプル)

エクソームと非コード領域、がん変異はどちらに多く潜んでいるか

よく誤解されることですが、がん関連の変異はエクソームだけに集中しているわけではありません。非コード領域に位置するTERT遺伝子プロモーターの変異は、脳腫瘍や悪性黒色腫などで高頻度に見られます。

腫瘍の複雑な構造変異(クロモスリプシスと呼ばれる染色体の大規模再構成など)は、コーディング・非コード両領域にまたがって生じます。こうした変異を漏れなく把握するにはWGSが必要ですが、多くの臨床的に重要な変異はエクソームに存在するため、目的によってはWESで十分なケースも多くあります。

WESとWGSのコスト差|価格だけで決めると後から後悔する理由

WESはWGSよりもデータ量が少なく、解析コストを大幅に抑えられます。しかし費用だけを基準に選択してしまうと、後から追加検査が必要になるケースもあり、トータルの費用対効果を考えることが大切です。

WESにかかる費用と解析ターンアラウンドタイムの実態

臨床研究や診断目的のWESにかかる費用は、使用するプラットフォームや施設によって異なります。現在の一般的な目安として、1サンプルあたり数万円〜十数万円程度となっています。

シーケンシング自体は1〜2週間程度で完了し、変異解析・レポート作成を含めると3〜4週間前後が目安です。WESの解析に必要なデータ量はWGSと比べて少ないため、ストレージや計算資源のコストも抑えられます。

解析パイプラインが確立されており、変異の解釈における標準化が進んでいる点も、WESが臨床で広く採用されている理由のひとつです。

WGSにかかる費用と解析時間の現在地

WGSはゲノム全体を解析するため、シーケンシングのコストはWESより高くなります。1サンプルあたり十数万円〜数十万円程度が現在の目安で、膨大なデータ量のためバイオインフォマティクス解析にも時間がかかります。

ただし、シーケンシング技術の進歩によってWGSのコストは急速に低下しています。「100ドルゲノム」と呼ばれる目標に向けた技術開発が世界で進んでおり、WGSとWESのコスト差は中長期的に縮まっていくと考えられています。

コストだけで比較してはいけない3つの視点

「安いからWES」「精密だからWGS」という二択は、実際の選択を単純化しすぎています。重要なのは、何を目的として検査を行うか、使用できるサンプルの質と量がどの程度かを事前に確認することです。

たとえば、遺伝性のがんリスクを調べる場合や特定の遺伝子変異の有無を確認するだけであれば、WESで十分な情報が得られます。腫瘍の全体像をつかみたい、あるいは複雑な構造変異を調べたい場合は、WGSの出番です。

コスト比較で見落とされがちなポイント

  • WESで検出できなかった変異が後から見つかった場合、追加でWGSを実施することになりトータルコストが増える
  • WGSのデータは将来の再解析に対応しやすく、新たな知見が出た際に再び価値を持つ情報資産になりうる
  • バイオインフォマティクスの人件費・ストレージ費用を含めたトータルコストで両者を比較することが大切

精度の差はどこに現れるか|WESとWGSの変異検出力を科学的に比べる

WGSはWESよりも多くの変異を検出できます——ただし「多く検出できる」ことが必ずしも「臨床的に有用」とイコールではありません。何を検出したいかという目的によって、精度の評価は変わってきます。

WESで検出できる変異の種類と、隠れた限界

WESは一塩基変異(SNV)や小さな挿入・欠失(インデル)の検出において、ターゲット領域内では高いカバレッジ(深度)を確保できます。コーディング領域内の変異については感度・特異度ともに高い水準を維持できます。

一方で、コピー数変異(CNV)や大規模な構造変異の検出はWESの苦手とするところです。エクソームのキャプチャ技術では、ターゲット外の領域にまたがる変異を見落とす可能性があります。Belkadi et al.(2015)の研究では、WGSはWES対象領域においてもWESより多くの高品質な一塩基変異を検出することが示されています。

WGSが捉える「コーディング領域外」の変異とその意味

WGSの最大の強みは、エクソームの外にある変異まで検出できることです。プロモーター領域の変異、エンハンサーの変化、スプライスサイト(遺伝子の読み取り開始・終了点)への影響なども明らかにできます。

Bailey et al.(2020)のPan-Cancer Analysis of Whole Genomes研究では、WGSはWESと比べてエクソーム領域の変異検出において約50%多くの情報を提供し、GCコンテンツが偏ったゲノム領域でのカバレッジも安定していることが報告されています。

WESとWGSの変異検出力の違い一覧

変異の種類WESWGS
一塩基変異(SNV)コーディング領域内で高精度全領域で均一に高精度
コピー数変異(CNV)検出が困難なケースが多い高精度で検出可能
構造変異(SV・転座など)ほぼ検出不可得意とする分野

研究データが示す変異検出率の差と臨床的な意義

Imperial et al.(2019)の研究では、乳がん・消化器がん・肺がんなど64例の腫瘍組織においてWGSとWESのデータを比較しました。ドライバー変異・ホットスポット変異・治療標的となりうる変異の一致率は58%であり、両技術が互いを補完する関係にあることが示されています。

これは、どちらか一方だけでは全体像を掴みきれないことを示唆しています。とはいえ、WESで得られた変異情報だけで治療方針を決定できるケースが多いことも同研究は示しており、どこまでの情報が必要かを事前に整理することが、検査選択の鍵です。

がん検査でWESが選ばれる3つの場面|コスト効率が実力を発揮するとき

WESはすべての場面で「劣る」わけではありません。目的とコストのバランスを取る観点から、WESが合理的な選択になるシーンが確かに存在します。どこで使えばWESが真価を発揮するか、具体的に見ていきましょう。

遺伝性がんリスクを調べるときにWESが力を発揮する

家族性乳がん・卵巣がん症候群(BRCA1/2変異)、リンチ症候群(大腸がん・子宮内膜がんなど)といった遺伝性のがんリスクを調べる場合、変異はほとんどがエクソーム領域に存在します。この場合はWESで十分な情報が得られます。

Rotunno et al.(2020)の系統的レビューでは、がん感受性遺伝子の同定研究の多くがWESを主要プラットフォームとして採用しており、186本の関連論文のうちWESを用いた研究が過半数を占めていたことが報告されています。遺伝性がんの研究・診断においてWESの実績が確立されている証拠といえます。

体細胞変異の解析においてWESが有利な条件

腫瘍に後天的に生じる体細胞変異の解析では、高いカバレッジ(深度)が求められます。WESはターゲット領域を絞っているため、同じシーケンシングコストであればWGSよりも深くカバレッジをかけることができます。

腫瘍内で少数の細胞だけが持つ変異(低頻度変異)を検出したい場合、深いカバレッジが有利に働きます。サンプルの腫瘍純度(腫瘍細胞の割合)が低い検体では、WESの深いカバレッジが変異検出の感度を高めるうえで重要な役割を果たします。

腫瘍遺伝子パネル検査・WES・WGSの適切な使い分け

現在の臨床現場には、腫瘍遺伝子パネル検査(数十〜数百遺伝子を対象)、WES、WGSという3つの選択肢があります。パネル検査は臨床的に重要な遺伝子だけを深くカバーする手法で、ターンアラウンドタイムが短い点が強みです。

検査目的が特定の遺伝子変異の確認であればパネル検査、広範ながん遺伝子変異の全体像が必要であればWES、さらに非コード領域や構造変異まで網羅したい場合はWGSという使い分けが基本的な考え方です。この整理を理解しておくことで、過剰な検査も見落としも防げます。

WESが有効に機能する検査シーン

  • 遺伝性のがんリスク(BRCA1/2、TP53変異など)を幅広く調べたい場合
  • 腫瘍純度が低いサンプルで低頻度変異を拾いたい場合(高カバレッジが優位に働く)
  • コストを抑えながら臨床的に意義のある変異を優先して探索したい場合
  • WGSのデータ量・解析時間を許容できない研究・臨床環境である場合

WGSが必要になる局面|「もっと深く見たい」ときの強力な選択肢

WESで変異が見つからない、あるいは見つかった変異では腫瘍の全体像が説明できないとき——そのような局面でWGSは真価を発揮します。通常の検査では辿り着けない変異の世界に、WGSはアクセスできます。

構造変異・コピー数変化はWGSでなければ正確に把握できない

染色体の大規模な再構成(転座、逆位、欠失、増幅)や遺伝子コピー数の変化(CNV)は、がんの進行や薬剤耐性と深く関わっています。乳がんにおけるHER2遺伝子の増幅や、慢性骨髄性白血病のBCR-ABL1融合遺伝子などがその代表例です。

こうした変異の全体像は、WESでは拾えない情報が多く含まれています。Roepman et al.(2021)の研究では、WGSがFISH法や免疫組織化学染色などの従来の診断技術と比較して95%以上の感度と精度を持つことが臨床検証で示されています。

腫瘍ネオアンチゲンの探索にWGSが選ばれる背景

個別化がん免疫療法の開発において、腫瘍に特異的な変異由来のペプチド「ネオアンチゲン」の同定は重要なステップです。ネオアンチゲンはエクソーム領域の変異から生じることが多いため、WESがこれまで解析の主流とされてきました。

近年、WGSはWESよりも広い範囲での変異情報を提供するため、WESでは捉えられない融合抗原(遺伝子の転座・融合により生じる新規ペプチド)の探索にも有用と注目されています。個別化がんワクチンの精度向上においてWGSの貢献が期待されています。

WGSが特に有効な場面と代表的な例

場面WGSが有効な理由代表例
構造変異の検出転座・逆位・増幅を全ゲノムで検出HER2増幅、BCR-ABL1融合
融合抗原探索転座由来の新規ペプチドを同定個別化がんワクチン
変異シグネチャー解析全ゲノムで変異パターンを精密解析HRD(相同組換え修復欠損)

非コード領域に潜むドライバー変異を見逃さないために

がんを引き起こすドライバー変異の一部は、タンパク質をコードしない非コード領域に存在します。TERT遺伝子プロモーターの変異は、黒色腫・膀胱がん・肝細胞がんなど多くの腫瘍タイプで確認されており、WESでは検出できません。

Rosenquist et al.(2022)の総説によれば、WGSは精密腫瘍学における最も包括的な単一アッセイとして評価されており、複数の技術プラットフォームを組み合わせる代わりに、一つの解析で広範な情報が得られる点が強みです。Kim et al.(2024)の前向き試験でも、120例の固形がん患者の72%のWGSレポートが臨床的に有用な知見を提供したことが示されています。

WESかWGSかを決める4つの判断軸|後悔しない検査選びのヒント

「どちらが優れているか」という比較よりも、「自分の目的にどちらが合っているか」を考えることが賢い検査選択につながります。以下の4つの観点から整理してみましょう。

検査目的と知りたい変異の種類が最初の判断基準

遺伝性がんリスクの評価、特定の治療標的変異の確認、腫瘍変異量(TMB)の算出、マイクロサテライト不安定性(MSI)の検出が主な目的であれば、WESで十分対応できます。

腫瘍全体の変異シグネチャーを解析したい、構造変異を網羅的に調べたい、あるいはWESで変異が見つからなかったサンプルをさらに精査したい場合は、WGSへの移行が選択肢に入ります。目的の明確化が最初の一歩です。

サンプルの質と量が検査の選択を変えることがある

生検組織の量が限られている場合や、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)サンプルのようにDNA品質が低下しているケースでは、WGSよりもWESのほうが安定した結果を得やすいことがあります。WGSは膨大なカバレッジが必要なため、DNA量が不足していると結果の質が下がるリスクがあります。

新鮮凍結サンプルや液体生検(血中循環腫瘍DNA)を用いる場合は、WGSの強みを引き出しやすくなります。検体の状態と利用可能なDNA量を事前に確認することが、検査選択の土台です。

解析にかけられる時間とコストの現実的な兼ね合い

WGSはデータ量が多く、バイオインフォマティクス解析に時間とリソースがかかります。臨床現場でのターンアラウンドタイム(検体受領から結果報告までの時間)は、治療方針決定のタイミングに直結するため、非常に重要な要素です。

治療判断を急ぐ場合や限られた予算の中での研究目的であれば、WESの方が現実的な選択肢となりえます。コスト・時間・解析目的の3要素を天秤にかけた上で判断することが大切です。

WES・WGS選択の判断フレームワーク

判断基準WESが有利な条件WGSが有利な条件
検査目的遺伝性変異・コーディング変異の確認構造変異・非コード変異の網羅
サンプルDNA量が少ない・FFPE組織新鮮凍結・DNA量が十分
コスト・時間コスト重視・迅速な結果が必要包括的な情報が求められる

がんワクチン開発とWES・WGSの深い関係|個別化がん免疫療法を支えるゲノム解析

がんゲノム解析の応用先として注目を集めているのが、個別化がんワクチンをはじめとする免疫療法です。WESとWGSは、それぞれ異なる切り口でこの分野に貢献しています。

ネオアンチゲン同定にWESが使われてきた理由

ネオアンチゲンとは、がん細胞の変異によって生じる、正常組織には存在しないペプチドのことです。免疫細胞(T細胞)にがんを認識させ、攻撃を誘導するためのワクチン抗原として研究が進んでいます。

ネオアンチゲンの大部分はエクソーム領域の変異に由来するため、WESは個別化がんワクチンの設計における標準的なゲノム解析プラットフォームとして採用されてきました。コストが抑えられる点も、研究の広がりに寄与しています。

ネオアンチゲン探索でのWES・WGSの役割比較

比較項目WESWGS
主なネオアンチゲン源エクソーム変異由来が中心融合抗原・非コード変異も探索
抗原候補の数標準的な数を同定より多くの候補を同定できる可能性
解析コスト低コストで研究展開しやすい高コストだが精密性が高い

より精密なワクチン設計にWGSが貢献するケース

WGSは、遺伝子の転座・融合により生じる「融合抗原」と呼ばれる新規ペプチドの探索において力を発揮します。融合抗原はエクソームシーケンシングだけでは捉えられない変異を起源とするため、WGSの情報が重要になります。

Ganatra et al.(2024)の乳がんを対象とした総説では、WGSとWESを組み合わせることで腫瘍微小環境(TME)の解析や希少な遺伝子変異の発見が可能になり、将来の個別化治療に向けた候補遺伝子の同定に貢献していると述べられています。

精密医療の実践とゲノム解析が担う役割

がんゲノム解析の臨床実装は世界各国で加速しています。英国の100,000 Genomes Projectでは1万3,000例以上の固形腫瘍にWGSが実施され、精密腫瘍学の基盤データが構築されました。腫瘍の組織型(どの臓器のがんか)に依存した従来の治療から、変異型(どの遺伝子が変異しているか)に基づく治療への転換が加速しています。

WESとWGSはどちらもその実践のための重要なツールです。どちらを選ぶかは目的次第ですが、がんゲノム情報を活用した治療の可能性は、WESとWGSの両方が医療の現場に存在することで確実に広がっています。

よくある質問

WES(全エクソーム解析)とWGS(全ゲノム解析)は、がん検査でどちらを選べばよいでしょうか?

目的によって選択が変わります。遺伝性のがんリスク(BRCA1/2変異など)を調べたい場合や、コーディング領域の変異を優先的に確認したい場合は、WESが費用対効果の観点から合理的な選択です。

一方で、腫瘍の構造変異や非コード領域の変異まで網羅的に調べたい場合、あるいはWESでドライバー変異が見つからなかったサンプルをさらに精査したい場合は、WGSへの移行が検討されます。

どちらが「正解」かではなく、検査の目的・サンプルの状態・コストと時間の制約の3点を整理した上で、担当医や専門家と相談しながら決めることが大切です。

WES(全エクソーム解析)の費用はどのくらいかかりますか?

WESの費用は施設やプラットフォームによって異なりますが、現在の一般的な目安として1サンプルあたり数万円〜十数万円程度とされています。解析するサンプル数や、腫瘍・正常の対比解析(ペア解析)を行うかどうかによっても費用は変動します。

WGSと比べると費用・データ量ともに抑えられるため、臨床研究や遺伝性がん診断の領域では依然としてWESが広く採用されています。ただし、施設によってはパネル検査の方が安価で迅速な場合もあるため、目的に合わせた比較検討が助けになります。

WGS(全ゲノム解析)がWESより優れている点は何でしょうか?

WGSの最大の強みは、ゲノム全体を網羅して解析できることです。具体的には、構造変異(染色体の転座・逆位・欠失・増幅)、コピー数変異、非コード領域のプロモーター変異、スプライスサイトへの影響など、WESでは見逃されやすい変異を一度に検出できます。

また、腫瘍変異シグネチャー(変異パターンの解析)も全ゲノムデータの方が精度よく算出でき、がんの原因を推定する手がかりになります。個別化がんワクチンの開発においても、WGSは融合抗原などWESでは捉えにくいネオアンチゲン候補の探索に役立ちます。

WES(全エクソーム解析)でがんの遺伝子変異は十分に把握できますか?

多くの臨床場面においてはWESで十分な変異情報が得られます。現在知られているがん関連の遺伝子変異の約85〜90%はコーディング領域(エクソーム)に存在するとされており、治療標的の探索や遺伝性がんリスクの評価においてWESは高い実用性を持ちます。

ただし、構造変異やプロモーター変異、融合遺伝子といった一部の変異はWESでは検出が難しく、それらが疾患に深く関与していると考えられる場合は、WGSへの移行や追加検査が検討されます。「十分かどうか」は変異の種類と検査目的によって変わるため、専門家との相談が助けになります。

WGS(全ゲノム解析)のコストは今後も低下していくのでしょうか?

シーケンシング技術の進歩によりWGSのコストは過去10年間で劇的に低下してきました。「100ドルゲノム」と呼ばれる目標に向けた技術開発が世界各地で進んでおり、Ganatra et al.(2024)の総説でもAIを活用した超高スループットシーケンサーの登場によるWGSコストのさらなる低下が報告されています。

コストが下がるにつれてWGSとWESの価格差は縮まりつつあります。WGSが臨床でのルーティン検査として普及する流れは世界のがんゲノム医療の潮流と一致しており、より多くの患者さんへのゲノム医療の恩恵につながることが期待されています。

References

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この記事を書いた人 Wrote this article

前田 祐助

前田 祐助 医学博士 / 医師

慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医