がん検診の精度と限界|「異常なし」でも安心しすぎないための注意点と心構え

がん検診の精度と限界|「異常なし」でも安心しすぎないための注意点と心構え

がん検診の「異常なし」は、受けた検査でがんを疑う異常が見つからなかったという意味です。ほっとしてよい結果ですが、今あるがんをすべて否定したり、次の検診までの健康を約束したりするものではありません。

症状がなければ予定どおり検診を続け、気になる変化が出たら結果にかかわらず受診しましょう。検診と診療のこの分担を知っておくと、通知の受け止め方も決めやすくなります。

この記事では、がん検診の精度が検査によって違う理由、見逃しや中間期がんの特徴、「異常なし」のあとに症状が出たときの対応を解説します。

がん検診の精度は検査と対象で変わる

がんを見つけられる割合は、検査の仕組みや調べる病変、受ける人の条件で変わります。「精度が高い」という言葉だけで選ぶより、何を見つける検査で、どのような見逃しが残るかを確かめるほうが、結果を受け止めやすくなります。

見つける力を表す「感度」の読み方

感度は、実際にがんなどの対象の病変がある人のうち、検査で陽性と判定できる割合を指します。陽性とは、さらに詳しく調べる対象になったという結果です。一方の特異度は、対象の病変がない人を陰性と判定できる割合で、精度を読むときは両方を見ておきましょう。

感度の数値と、「異常なしだった自分にがんがない確率」は分けて考えます。どの年齢の人を調べたか、何を陽性としたかによって成績が動くため、別々の研究の数字を並べるだけでは検査の優劣を決められないのです。

乳房の検査を加えると判定も変わる

マンモグラフィは、乳房をエックス線で撮影して異常を探す検査で、これだけでは見つからない乳がんもあります。日本の無症状の女性を対象とした比較では、超音波を加えると発見できるがんが増える一方、がんがなくても異常ありと判定される人が増えました。

ただし、がんを多く見つけたという結果だけで、追加した検査が乳がんによる死亡を減らすとまでは判断できません。乳がん検診で用いるマンモグラフィに別の検査を加えるか迷ったら、見逃しへの不安だけで決めず、追加する検査の利益と負担を検診を行う医療機関で確認しましょう。

子宮の入り口では細胞とウイルスを調べる

子宮頸部は子宮の入り口にあたり、細胞診ではそこから採った細胞の形の変化を調べます。HPV検査が調べるのは、子宮頸がんの発生に関わるヒトパピローマウイルスの感染で、細胞そのものを観察する検査とは着目する対象が違います。

HPV検査は、がんになる前の細胞の変化である前がん病変を細胞診より見逃しにくい反面、異常ありと判定される人が増える傾向があります。この比較は前がん病変を探す力についての結果であり、他の臓器のがんを見つける割合と同じ意味で比べるのは適切ではないでしょう。

便潜血検査は便に混じる血液が手がかり

便潜血検査は、目には見えないほど少量の血液が便に混じっていないかを調べます。大腸がんを見つける助けになりますが、がんの手前にあるポリープの多くは、単回の検査では見つからないという限界があります。

検査調べるもの精度を読む際の注意
マンモグラフィ乳房の画像上の異常検査を加えると発見数も異常の判定も変化
細胞診・HPV検査細胞の変化・ウイルス感染前がん病変を探す力と、がんを探す力の区別
便潜血検査便に混じる血液陰性でも大腸全体の異常を否定した意味にはならない

また、1回の便潜血検査の成績は、決められた間隔で繰り返した検診全体の成績とは別物です。陰性を「腸の中を直接見て異常がなかった」と読み替えず、その検査で分かった範囲を受け止めます。

「異常なし」でも見つからないがんがある

「異常なし」とがんの存在は、両立する場合があります。検査が捉える変化に限りがあるうえ、採った試料の状態も判定に関わるため、結果の言葉だけで体の異常を打ち消さないようにしましょう。

陰性はがんの不在を保証する判定ではない

国の検診の基準を示す厚生労働省「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」では、がんがあるのに疑いありと判定されない結果を偽陰性、がんがないのにあるかもしれないと判定される結果を偽陽性としています。検診には、この両方向の判定のずれがあるという意味です。

陰性の通知を受け取った時点で、見逃されたがんがあると決まったわけでもありません。通知は受けた検査の結果として保管し、その後の症状は結果とは切り分けて受診の判断に使います。

採った細胞が判定に適さない場合もある

細胞を採って調べる検査では、検査に使う細胞を載せた標本が、十分に判定できる状態かどうかも結果に関わります。子宮頸部の細胞診では、採取の器具や方式によって、判定に適さない標本が生じる割合に差があります。

「判定不能」や「再採取」の通知は、がんを疑う所見がなかったという陰性の通知とは意味が違います。検査を受けた事実だけで完了したと判断せず、検診を行った医療機関に、再び試料を採る必要があるかを確かめましょう。

便を採ってから提出するまでの扱い

採った便を暑い場所に置くなどすると、検査で捉える血液の成分が壊れ、結果が正しく出にくくなるおそれがあります。検査の性能は機器だけで決まるわけではなく、採取後の扱いも結果に関わります。

保管や提出は、渡された採便容器の説明書に従うのが基本です。採取後に車内へ置いた、指定された提出時期を過ぎたなどの心当たりがあるなら、提出先の医療機関に状況を伝え、採り直しが必要かを確認します。自己判断で試料を使えると決めないほうが、検査を受け直す手間も避けやすくなります。

がん検診のあとに見つかる中間期がん

検診のあと、予定された次の検診までの間に見つかるがんを「中間期がん」と呼びます。前回に見つからなかったがんに加え、その後に進んだがんも含まれ、前の検査結果だけではその間の体調の変化を判断できない理由の1つです。

見つかった時期だけで見逃しと決めない

中間期がんという言葉は、検診との時間的な関係で、がんが見つかった時期を表します。前回の検査の段階で捉えられたはずか、その後に変化したのかは、経過や過去の検査内容を振り返って評価します。

時点分かる範囲受け止め方
前回の検診その検査で捉えた異常の有無結果は受診時の情報として保管
次回までの期間新しく現れた症状や変化前回の結果にかかわらず相談
期間中にがんを診断診断時点の病状見逃しかどうかは時期だけでは判断しない

「前回は陰性だった」という情報も、診療では役に立ちます。受けた検査の種類や受診日が分かる結果通知を示せると、今の症状がいつから現れたかと合わせて経過を伝えられます。

乳がんでは進みの速いがんも含まれる

乳がんの中間期がんには、検診で見つかった乳がんより進みの速いものが多いという報告があります。これはカナダの組織的な乳がん検診に参加した女性でみられた傾向で、日本の検診後にどのくらいの割合で起こるかを示す数字には置き換えられない結果です。

そのため、検診後に乳房のしこりなどに気づいた際は、次回の予定が先でも診療を受けてください。中間期がんを怖がって毎日異常を探し続ける必要はなく、変化を感じたときに「検診を受けたから大丈夫」と片づけない姿勢が役立ちます。

大腸がんも陰性のあとに見つかる

便潜血検査が陰性でも、次の検診までに大腸がんが見つかる人がいます。台湾の検診参加者でも確認されていますが、検診の間隔や制度が日本と異なるため、発生の割合をそのまま自分の受ける検診に当てはめるのは適切ではないでしょう。

日本の地域の検診でも、前年に陰性だった人が翌年に進んだ大腸がんと診断された報告があります。限られた地域の結果から全国の頻度は示せなくても、前回の陰性だけを理由に、その後の受診を省いてよいとは言えません。

症状がある人は診療へつなぎ、症状がない人は次回の検診を続けるという使い分けになります。

症状が出たら次の検診を待たずに受診を

血便やしこりなどに気づいたら、前回の検診結果にかかわらず医療機関を受診してください。症状のない人から異常を探す検診と、現れている症状の原因を調べる診療では、受診の目的が違います。

血便や便通の変化を陰性で片づけない

便に血が混じる、これまでと便通が変わったという症状は、便潜血検査が陰性でも診療で評価する対象です。便潜血検査だけを繰り返して安心を確かめようとすると、症状の原因を調べる時期が遅れるおそれがあります。

たとえば、検診で異常なしだった人が、自宅のトイレで便に赤い血が付いていると気づいた場面です。「この前調べたばかり」と次の案内を待たず、消化器内科などに症状を伝えて受診します。出血に気づいた時期や便通の変化も伝えれば、診察で経過を説明しやすくなります。

出血や乳房の変化は症状として相談する

月経以外の出血や血の混じったたんがあるときは、次の検診を待たずに医療機関を受診してください。検診の結果を確かめるだけで済ませず、症状として相談します。

気づいた変化相談する診療科の例伝える内容
血便・便通の変化消化器内科出血の見え方、便通が変わった時期
乳房のしこり乳腺外科気づいた場所、前回検診の時期
月経以外の出血婦人科月経との関係、出血の経過
血の混じったたん呼吸器内科出た時期、繰り返しているか

受診先を決めにくいときは、かかりつけ医に症状を伝えて相談できます。がんかどうかを自分で判定してから予約する必要はなく、がん以外も含めて原因を調べるための受診です。

予約時には検診ではなく症状を伝える

受診を申し込むときは、「がん検診を受けたい」だけでなく、血便などの症状があると伝えてください。検診の枠で予約する前に症状を伝えると、原因を調べる診療として受診方法を確認できます。

前回が陰性だった人も、同じように相談できます。いつから何が変わったかを先に話し、続いて受けた検査の内容と結果を示せば、今の困りごとを中心に説明できます。症状の強さだけでなく、いったん治まってまた出たという経過も伝えましょう。

結果通知を次の行動につなげる

結果通知が届いたら、判定だけでなく、受けた検査の名前と次回の指示を一緒に確認します。通知をしまう前に予定と保管先を決めておけば、体調が変わった際にも前の結果を探しやすくなります。

「何の検査が異常なしだったか」を確かめる

検診の結果は、受けた項目ごとに読みます。乳房の検査が異常なしでも大腸を調べた意味にはならず、便潜血検査が陰性でも婦人科の症状への答えにはならないためです。複数の結果がまとめて届いたら、全体をひとまとめにせず、検査名と判定を対応させます。

通知で見る欄確かめる内容後で役立つ場面
検査名・受診日何をいつ調べたか症状が出た時期との照合
判定・注記異常なしの対象、再採取などの指示結果の読み違いの防止
次回の案内次に受ける時期予定への記入

判定欄の言葉が分からない場合は、検診を行った医療機関にその表現を伝えて確認しましょう。「要精密検査」とあれば、詳しい検査で診断を確かめる必要がある結果なので、通知に沿って受診します。

症状がなければ案内された次回を予定する

異常なしで症状もないときは、決められた間隔で次の検診を受けるのが基本です。国の指針では種類に応じて受診間隔が定められているため、通知にある検査名に対応する次回の時期を確認します。前回問題がなかった人も、対象に当てはまる間は継続して受ける検診です。

次回の案内が見当たらないときは、受けた日と検査名を添えて、検診を行った医療機関に通常の受診時期を尋ねると具体的に確認できます。予約日がまだ決まらなくても、案内を確認する月をカレンダーに記しておけば、通知を受け取った後の行動につながります。

過去の結果と相談したい変化を残す

結果通知は、以前の分も合わせて保管すると、受診時の説明に使えます。検査の正式な名前を覚えていなくても、通知があれば何を受けたかを確認しやすくなり、異なる検査を同じものと思い込む行き違いも減らせます。

体調の変化があるなら、気づいた日や症状の内容を短く記録する程度で十分です。記録を完成させてから受診する必要はなく、続いている症状や出血があれば相談を先に進めてください。

がん検診と普段の体調への気づきを両立する

検診に限界があると知っても、日々がんの有無を自分で判定し続ける必要はありません。症状のない時期には検診を活用し、変化に気づいたときには診療を受けるという分担が、過度な心配を抱えずに受診を続ける助けになります。

普段の状態を知って変化に気づく

乳房や便通など、普段の状態を知っておくと、いつもと違う変化を受診時に伝えやすくなります。入浴や着替え、排便といった日常の場面で気づいた違和感を無視しない、という姿勢で十分です。

ただし、自分で触れて異常がないと感じても、検診の代わりにはなりません。逆に、変化に気づいたからといってがんと決まるわけでもなく、自分で答えを出さずに症状として相談するのが適切です。

不安は検査を増やす前に具体的にする

「異常なしでも見逃しがある」と聞くと、安心できなくなるのは自然な反応です。何度も検査を受けたくなったときは、実際に気になる症状があるのか、結果の意味が分からないのかを分けて、かかりつけ医に相談しましょう。

相談の前に、何を確かめたいかを言葉にしておくと話が進みます。症状があればその原因を調べる診療が必要で、結果への疑問が中心なら、検査で分かった範囲と次の予定を説明してもらうと整理できます。乳房の検査でみたように、調べる方法を加えれば見つかる異常も増えるため、追加検査を重ねるだけでは不安は消えにくいものです。

家族とは結果だけでなく次の予定も共有する

家族に結果を伝えるなら、「異常なしだった」に加えて、何の検査を受けたか、次はいつ受ける予定かも共有すると具体的です。家族に毎日異常を探してもらうのではなく、結果通知の保管先や、症状が出たときの相談先を一緒に確かめておくと役立ちます。

検診後に変化を感じた際は、家族から「この前問題なかったから」と言われても、症状を理由に受診できます。検診の結果を尊重しながら、その後の変化も診療へつなげていきましょう。

よくある質問

異常なしなら、次の検診まで受診しなくてもよいですか?

症状がなく、通知にも追加の指示がなければ、通常は予定された次の検診を受けます。結果通知に書かれた検査名と次回の時期を確認し、予定を残しておくと受け忘れを防ぎやすくなります。

ただし、血便や血の混じったたん、乳房のしこり、月経以外の出血などがあれば、次回を待たず医療機関を受診してください。前回の結果は参考になりますが、新しく現れた症状の原因を否定する根拠にはなりません。

血便があっても、便潜血検査が陰性なら様子を見てよいですか?

血便があるなら、陰性でも消化器内科などで診療を受ける必要があります。便潜血検査の結果だけでは出血の原因は判断できず、検診で再び便を調べるだけでは十分な評価にならないためです。

予約時には血便があると伝え、診察では出血に気づいた時期や便通の変化を説明してください。前回の検査結果が手元にあれば持参すると、これまでの経過を共有しやすくなります。

中間期がんは、前回の検診の見落としという意味ですか?

中間期がんは見つかった時期を表す言葉で、見落としと決まるわけではありません。前の検査で捉えられなかったがんや、その後に進んだがんが含まれるため、原因を判断するには過去の検査内容と経過の確認が必要です。

見逃しが心配なら、検査を追加したほうがよいですか?

見逃しへの心配だけで一律に検査を追加するのではなく、気になる症状と前回の検査内容を伝えて相談するのが適切です。検査を加えると、がんを見つける機会が増える一方で、がんがなくても異常と判定される人が増える場合もあります。

症状があるなら診療で原因を調べ、症状がなく追加検査を迷っているなら、何を調べるための検査かを検診を行う医療機関で確認しましょう。受けた検査の結果通知を示しながら尋ねると、追加する理由や負担を具体的に相談できます。

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この記事を書いた人 Wrote this article

前田 祐助

前田 祐助 医学博士 / 医師

慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医