がん検診の「過剰診断」とは?早期発見のメリットと不必要な治療のリスクを正しく知る

がん検診の「過剰診断」とは?早期発見のメリットと不必要な治療のリスクを正しく知る

がん検診の過剰診断とは、見つけなくても一生のうちに命に関わらなかったがんまで発見することです。市区町村から案内が届き、「小さながんまで探すほど安心なのか」と迷うなら、この不利益と早期発見の利益を並べてみると判断しやすくなります。

検診には、がんによる死亡を減らす利益があります。その一方で、健康上の利益につながらない診断を受け、治療の負担を負う人も生じます。ただし、過剰診断があるという理由だけで検診を避けたり、見つかったがんを自分で放置したりする判断にはつながりません。

この記事では、過剰診断の意味、問題になりやすいがんや検査、治療の負担、早期発見の利益と比べて受診を決めるための相談内容を解説します。

がん検診の過剰診断は、命に関わらないがんの発見

過剰診断は、がんではないものを誤ってがんと呼ぶ意味ではありません。診断そのものはがんでも、その発見が本人の寿命を延ばす利益につながらない点が問題です。

がんの診断と、命への影響は一致しない

がんという名前が付く病変でも、進む速さや一生のうちに及ぼす影響には幅があります。病変とは、検査で見つかる、正常な組織とは異なる部分を指す言葉です。

検診で見つかるがんの中には、進行して死亡に至る経過を取らず、生命予後、つまり今後どれほど生きられるかに関係しないものも含まれます。

「がんを見つけた」という結果だけでは、その人が発見によって助かったかまでは分かりません。治療が必要な病変の発見と、生涯困らなかった病変の発見が、同じ検診の成果として数えられ得るためです。

進行の遅さと、ほかの病気が影響する

過剰診断には、がんがほとんど進まずに一生を終える場合と、がんが問題になる前に別の原因で亡くなる場合があります。

前者では、病変が存在していても、生活の中で症状を起こすほどには育たないまま経過します。後者では、がん自体に進む性質があっても、重い持病などの影響が先に表れ、見つけて治療しても寿命への利益が得られない場合があります。

そのため、同じ種類のがんを同じ検査で探しても、健康状態や今後の見通しが違えば、利益と負担の釣り合いは変わります。高齢という理由だけで一律に決めず、日常生活の状態や治療に耐えられるかまで含めて判断しましょう。

個人の検査結果だけでは判定できない

見つかった時点で「このがんは確実に過剰診断だ」と個人ごとに判定するのは困難です。大きさが小さい、進行が遅そうという特徴だけで、一生害を及ぼさないと断定はできません。

過剰診断の割合は、検診を受けた集団でがんの診断がどれだけ増え、その増加が長い期間を経ても残るかなどから間接的に推定します。治療せずに過ごした場合の一生と、治療した場合の一生を、同じ人で両方確かめられないためです。

偽陽性は、がんがないのに疑いがあると判定される状態で、偽陰性は、がんがあるのに疑いがあると判定されない状態です。過剰診断は実際にがんが存在するため、こうした誤判定とは区別されます。

過剰診断が問題になるがんと検査

小さく進行の遅い病変まで見つかる検査では、過剰診断が問題になります。乳房や前立腺のほか、甲状腺や肺などで検討されており、状況はがんの種類だけでなく検査を受ける集団によっても変わります。

乳房の非浸潤がんには進み方の幅がある

乳がん検診では、乳房をエックス線で撮影するマンモグラフィによって、非浸潤がんが見つかります。乳管内にとどまる非浸潤がんは、乳汁の通り道である乳管の内側にがん細胞があり、周囲の組織へ広がっていない状態で、DCIS とも呼ばれます。

こうした病変の中には、治療を受けなくても一生のうちに命に関わらないものが含まれると考えられています。検診で見つかった非浸潤がんをすべて同じように治療すると、利益を得にくい人にも治療の負担が生じる点が課題です。

ただし、非浸潤がんという名前だけで治療が不要とは決まりません。周囲へ広がる危険を病変ごとに評価する必要があり、過剰診断に関する一般的な説明を、自分の治療を中断する根拠にはできないためです。

前立腺と甲状腺では、見つけすぎが問題になる

前立腺がんと甲状腺がんは、検査が広がると、命に関わらないがんまで診断される問題が指摘されてきた代表例です。前立腺は膀胱の下で尿道を囲む臓器、甲状腺は首の前側にある臓器を指します。

前立腺由来の物質を血液で測る PSA 検査が広がった国では、増えた診断の相当部分が過剰診断に当たると推定されています。甲状腺でも、小さな病変を探す検査が広がると、治療しなくても命に影響しなかったがんの発見が増えると考えられています。

がん・検査過剰診断で問題になる点市区町村の検診との関係
乳がん・マンモグラフィ進行しない病変も含めて発見国の指針に含まれる検査
前立腺がん・PSA 検査生涯問題にならないがんの診断国の指針に含まれない検査
甲状腺がん・超音波検査小さながんの見つけすぎ国の指針に含まれない検査

自治体や検査施設で受けられる検査でも、国の指針に沿う検診と同じ根拠で勧められているとは限らず、追加する前に期待できる利益を確かめましょう。

肺の低線量CTは、対象者で利益が変わる

低線量CTは、放射線の量を抑えて胸部の断面を撮影し、肺の小さな影を調べる検査です。喫煙歴の多い人を中心とした海外の試験では、肺がんによる死亡を減らす利益と、過剰診断を含む不利益の両方が示されています。

この結果を自分に当てはめるときは、試験の対象者と自分の喫煙歴を比べてみましょう。検査を受ける集団の肺がんの危険が違えば、発見で助かる人数と不利益を受ける人数の関係も変わるからです。

市区町村の肺がん検診は、国の指針では胸部エックス線検査などで行い、低線量CTは標準の方法には含まれない検査です。CTによる追加検査を検討するときは、検診を行う医療機関に、どのような人を対象に利益が確かめられた検査なのかを尋ねると、自分との違いを整理できます。

不必要な治療が体と生活に残す負担

過剰診断によって、本来は健康を損なわずに済んだ人にも治療や通院の負担が生じます。診断を受けた時点の不安に加え、その後の生活に及ぶ影響まで含めて検診の不利益を捉えておきましょう。

手術や放射線治療の負担だけを負う場合がある

過剰診断から、本来必要のなかった治療へ進むのが過剰治療です。命に関わるがんへの治療では受け入れる理由のある負担も、生涯害を及ぼさないがんなら、得られる健康上の利益がないまま負う結果になります。

乳房の非浸潤がんでは、手術や、放射線を当てて病変を治療する方法が選択肢になります。治療の範囲や内容に応じて体への影響は変わり、受ける前には、どのような利益を目指し、どの程度の負担を受け入れるのかという説明が必要です。

ただし、治療後に再発がなかったという結果だけで、その治療が不必要だったとは言えません。治療が効いて問題を防いだのか、もともと進まない病変だったのかを、後から個人ごとに区別するのも難しいためです。

通院と診断後の不安も判断に含める

治療を受ける負担は、処置を受ける日の前後にも及びます。検査や通院の予定が入り、仕事や家事の調整が必要になれば、診断前にはなかった時間的な負担が続くためです。

がんと告げられて不安になるのは自然な反応です。不安を抱えたまま結論を急ぐ必要はなく、診断がどこまで確定しているか、治療を決めるまでに説明を聞く余地があるかを、診療を担当する医師に尋ねられます。

負担の種類生活に及ぶ影響説明を受けたい内容
体への負担検査や治療に伴う体の変化見込まれる利益と治療の影響
時間の負担通院、仕事や家事の調整予定される通院の見通し
心理的な負担病名や今後の経過への不安確定した情報と未確定の情報

負担の受け止め方は、通院を支える家族の有無や仕事の状況でも変わるため、医学的な説明に加えて自分の暮らしの事情を伝える意味があります。

経過観察は、自己判断の放置とは異なる

経過観察とは、病変の変化を診察や検査で追い、治療が必要かを判断し続ける対応です。過剰治療への懸念があっても、どの病変でも直ちに選べる方法ではなく、病気の種類や状態に応じた判断になります。

経過を見る方針が示された場合には、次の診察で何を確かめるか、どのような変化が治療を検討する理由になるかを説明してもらえます。自分が通院を続けられるかという生活上の条件も、方針を決める際の相談内容です。

過剰診断の一般論を理由に、予定された検査や治療を自分で取りやめる判断は避けてください。

がん検診が勧められる利益は死亡の減少

過剰診断があっても、対象者や方法を選ぶと、がんによる死亡を減らす利益が期待できます。検診の評価では、不利益が存在するかだけでなく、その負担に見合う利益が得られるかが問われます。

早期治療で救えるがんを見つける

検診には、症状が出る前にがんを発見し、治療によって死亡の危険を下げる狙いがあります。早い段階で治療できれば、体への負担が比較的軽い治療で済むのも利益の一つです。

こうした早期発見・早期治療の利益に加え、異常なしと判定された場合の安心感も検診の利益に含まれます。過剰診断はその利益と併せて説明すべき不利益であり、検診全体の価値を否定する言葉ではないのです。

乳がんのマンモグラフィについても、海外の複数の試験をまとめた評価では、乳がんによる死亡を減らす利益と、一定の過剰診断が生じる不利益が示されています。両方が同時に存在するという点を押さえると、「有効なら害はない」という誤解を避けられます。

発見数や早期がんの割合だけでは評価できない

がんを多く発見する検査の評価には、死亡を減らす効果の確認が必要です。検査によって増えた発見の中に、命に関わらなかったがんが含まれ得るためです。

早い段階のがんが見つかる割合は、検査の特徴を示します。利益を判断する軸は、発見数よりも死亡の減少にあります。病期、つまりがんの広がり具合が早い側へ変わったかに加えて、対象となる人の死亡が実際に減ったかまで確かめる必要があります。

早期がんの発見を強調した説明を読むときは、その数字が何を示すのかを分けて読みましょう。「多く見つかる」と「受けた人が助かる」の間には、治療による利益を確かめる評価が必要です。

診断後の生存期間には、早く見つけた分も含まれる

検診で早くがんと診断されると、亡くなる時点が変わらなくても、診断から生きた期間は長くなります。この見かけの延長をリードタイムによる偏りと呼びます。診断後の生存率だけで検診の利益を比べるときは気をつけましょう。

さらに、もともと進みが遅く、生涯命に関わらないがんまで発見されると、診断された人全体の経過が良く見えます。過剰診断された人が「長く生きている人」に加わっても、その人の寿命が検診で延びたとは限らないのです。

検診の説明では、診断された人の生存率と、検診の対象となる集団の死亡率を区別して受け取ると、利益を大きく見積もりすぎずに済みます。

がん検診の利益と過剰診断を同じ条件で比べる

利益と不利益の数字は、対象者、期間、分母をそろえて比べる必要があります。海外で推定された割合を読むときも、日本で自分が受ける検査と条件が合うかの確認が先です。

割合を読む前に、誰を何人として数えたかを見る

同じ過剰診断の割合でも、検診を受けた人全員に占める割合と、がんと診断された人に占める割合では意味が違います。分母とは、割合を出すときの基準となる人数で、負担の大きさを比べるには、この基準をそろえる必要があります。

比較する条件確かめる内容そろえたい理由
対象者年齢、健康状態、喫煙歴もともとのがんの危険が変わるため
分母受診者全員か、診断された人か同じ割合でも人数の意味が変わるため
期間検診期間中か、その後も含むか後から見つかるがんの数が変わるため
比較相手受けない人か、別の検査を受ける人か何に対する利益かが変わるため

説明を受けるなら、「同じ人数が同じ期間受けた場合、亡くなる人と、不必要な治療につながる人はそれぞれどの程度か」という形にすると比較しやすくなります。

推定値の幅は、検査や追跡期間の違いを含む

過剰診断の数字が資料ごとに異なるのは、検査方法や対象者に加え、推定の方法も違うためです。個人の結果から直接数えられる現象ではなく、集団の経過から間接的に見積もるので、幅を伴って示されます。

検診を始めた直後は、将来見つかるはずだったがんが前倒しで発見され、その分だけ診断数が増えます。その後の経過を十分に追わないと、前倒しされた発見と、一生見つからなかったはずの発見を分けにくくなります。

日本の検診とは異なる検査や年齢層で得られた割合なら、自分への当てはまりには限界があります。数値の大小だけで結論を出さず、どの集団で、どの方法から得られた見積もりかまで読みましょう。

治療を受けられる体の状態かも判断に入れる

見つかったがんへの治療が難しいほど重い持病がある場合は、検診から得られる利益が小さくなる場合があります。検査そのものを受けられるかだけでなく、発見後にどのような対応を選べるかが判断に関わります。

たとえば、日常生活を自立して送れている人と、持病の治療や介助に大きな負担がかかっている人では、同じ年齢でも受診後の選択肢が違います。がんが症状を起こすまでの時間と、ほかの病気の見通しを合わせると、発見の意味も変わります。

持病がある人は、かかりつけ医に、検診で病変が見つかった場合に検査や治療をどこまで受けられるか相談しましょう。

受診前の相談で、自分の希望を選択につなげる

受診を決めるときは、検査で得られる利益と起こり得る負担を聞いたうえで、自分が何を重く受け止めるかを伝えられます。説明を理解して選ぶための相談は、検診を受ける前から始められます。

案内の検査名と、追加検査の根拠を確認する

受診を検討するときの出発点は、自分に案内された検査が、どの人への利益を期待して用意されているかを把握することです。市区町村のがん検診では、対象者や検査方法が定められています。

自宅で案内を開いたとき、追加できる検査の欄が気になったなら、まず検査名と説明をメモに残し、予約前に検診を行う医療機関へ、追加によって死亡を減らす利益が期待できるか、命に関わらない病変の発見が増えるかを尋ねると、項目数だけに頼らず選べます。

検査が用意されている事実と、自分に受ける利益があるという判断は分けて扱えます。「受けられるものは全部」という選び方になる前に、各検査で何を期待するのかを確かめると、受診の理由がはっきりします。

利益と負担を並べた説明資料を使う

利益と不利益を整理した説明資料は、知識を補い、自分の希望に合う選択をしやすくする助けになります。こうした資料は意思決定支援ツールと呼ばれ、検査を受ける方向へ一律に誘導するためのものではないのです。

乳がん検診でも、過剰診断の説明を加えると、理解を深めたうえで受診について判断できると報告されています。同じ情報を読んでも、がんで亡くなる危険を減らしたい思いと、不必要な治療を避けたい思いの重みは、生活の状況や希望によって変わります。

相談したい内容医療機関へ伝える材料
期待できる利益検討中の検査名と年齢
不必要な診断や治療への不安特に避けたい負担
発見後に受けられる対応持病の状態と現在の治療
通院を続けられるか仕事や家族の支援の状況

情報が足りない点を残したまま賛否を決めるより、分からない点を具体的に尋ねると、自分が納得できる理由を持って選べます。

受診するかの相談と、発見後の治療の相談を分ける

検診を受ける前は、まだがんがあるか分からない集団の利益と不利益を比べます。診断された後は、自分の病変の性質に応じて、治療による利益と負担を比べる相談に変わります。

過剰診断の割合は集団についての見積もりであり、自分の病変に治療が必要かを判断するには、その病変についての情報が必要です。診断後には、病変の広がりや進行の見通しについて説明を受け、自分に提示された方針の理由を確認できます。

結果が要精密検査、つまり詳しい検査で確かめる必要があるという判定なら、過剰診断を心配して放置せず、指示された精密検査を受けてください。過剰な治療を避けたいという希望も、病変の状態を確かめたうえで相談するほうが、具体的な選択につながります。

よくある質問

過剰診断は、がんではないのにがんと診断される意味ですか?

いいえ、がんは実際に存在していても、発見しなければ一生のうちに命に関わらなかったものまで見つける意味です。診断名が間違っているという話ではなく、その発見が本人の健康上の利益につながるかという問題を指します。

過剰診断があるなら、検診は受けないほうがよいですか?

過剰診断があるという理由だけで、検診を受けないほうがよいとは決まりません。対象者と方法を選んだ検診には、がんによる死亡を減らす利益が期待できます。

迷うときは、検診を行う医療機関で、自分に案内された検査の利益と不利益を尋ねましょう。重い持病がある場合は、発見後の治療を受けられるかも、かかりつけ医との相談に含められます。

小さながんが見つかったら、治療せずに様子を見てもよいですか?

小さいという理由だけで、治療をせずに様子を見る判断はできません。病変の種類や性質によって今後の進み方が違い、大きさだけでは生涯害を及ぼさないかを判定できないためです。

治療への負担が心配なら、診療を担当する医師に、治療を勧める理由と、経過観察が選択肢になるかを尋ねられます。予定された診察を続けながら相談し、自分で検査や治療を中断しないでください。

追加の検査を勧められたときは、何を聞けばよいですか?

まず、追加する検査が自分にどのような健康上の利益をもたらすかを尋ねると、受ける理由を整理できます。「小さな病変が見つかる」という説明だけなら、それが死亡を減らす利益に結び付くかも確認が必要です。

検診を行う医療機関には、命に関わらない病変が見つかる不利益や、発見後に想定される対応も説明してもらえます。利益が確かめられた対象者と自分の条件を比べてから、追加を決められます。

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この記事を書いた人 Wrote this article

前田 祐助

前田 祐助 医学博士 / 医師

慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医