
がんの在宅介護にかかるお金は、介護サービスの自己負担だけでなく、医療費や日用品代、家族の収入減まで合わせて見積もります。全国一律の月額はなく、誰に何を頼むかで金額が変わります。
退院を前に「自宅で過ごしたいけれど、毎月いくら用意すればよいのか」と迷うときは、利用予定のサービスと生活費を分けて書き出しましょう。相談すべき金額と、使える軽減制度が見えてきます。40歳未満の患者さんは介護保険を使えないため、自治体の在宅療養の支援が相談先になります。
この記事では、在宅介護で積み上がる費用、介護保険の自己負担、おむつ・食事・交通の実費、負担を軽くする制度、40歳未満の患者さんへの支援、家族が仕事を減らす前の確認点を解説します。
がんの在宅介護は毎月の支出と収入減を合わせて見積もる
自宅に戻ると病院への支払いの一部が減る一方で、在宅サービスの負担が増え、家族が介護のために仕事を減らせば収入も減ります。痛みなどのつらさを和らげる緩和ケアを病院で受けるか自宅で受けるかで負担のかかり方が違うことは、カナダの在宅療養の研究でも報告されています。
介護費・医療費・生活費を分けて書き出す
最初に、療養のために増える支出を種類ごとに分けます。同じ月に支払っていても、介護の利用料と医療費では負担を軽くする制度の窓口が異なるため、合計額だけでは使える支援を探しにくくなります。
| 費用の区分 | 主な内容 | 見積もりの相談先 |
|---|---|---|
| 介護サービス | 訪問介護、訪問入浴、福祉用具の貸与 | ケアマネジャー、利用事業所 |
| 医療 | 自宅での診察、薬、訪問看護 | 医療機関、訪問看護事業所 |
| 生活に伴う実費 | おむつ、食事、交通、光熱費 | 購入先、利用事業所、市区町村 |
家賃など従来からの固定費も残るため、表の費用に加えて予算に入れておきましょう。請求先ごとに支払日も添えると、同じ時期に出費が重なる月を把握できます。
自宅に来る人と頼む内容から利用料を確認する
介護の見積もりは、困っている動作を具体的に伝えると作りやすくなります。訪問介護はホームヘルパーが着替えや排せつなどを助け、訪問入浴は介護職や看護職が浴槽を持参して入浴を支えます。
訪問看護では看護師などが体調の確認や医療上の処置を行い、福祉用具の貸与では担当者が用具を届けて調整します。訪問看護は、要介護認定を受けた人なら介護保険で受けるのが原則ですが、末期のがんの人は認定を受けていても医療保険の扱いです。どちらで請求されるかで負担額が変わるため、見積もりでは担当事業所に確かめます。
回数や所要時間に加え、夜間の対応などに伴う加算も費用に影響するため、予定する利用内容をそろえて月額を出してもらいましょう。
初月の支払いと続けて払う金額を分ける
退院直後は物品の購入などが重なり、翌月以降と支出の内訳が変わります。最初にそろえる介護用品などの購入代と、毎月続けて払う利用料は、分けて書き出します。月の途中から使うサービスは、利用開始日を伝え、初月に請求される利用料と翌月以降の月額を利用事業所に確認します。
介護保険の自己負担は割合と月の利用量で決まる
介護保険の対象となるサービスは、原則として費用の1〜3割を負担します。月額を出すには、負担割合に加え、保険の範囲で利用できる上限と実際の利用量を確かめます。
年齢・病状と負担割合を確かめる
65歳以上では介護が必要な状態の認定を受けた人、40〜64歳では医療保険に加入し、特定疾病によって介護が必要になった人が対象です。特定疾病とは制度で指定された病気です。40〜64歳のがんの患者さんは、治療中かどうかだけでは対象になるかを判断できないため、病状が条件に当たるか主治医へ確認します。
病状に関する条件には、読むこと自体がつらく感じられる表現もあります。厚生労働省の特定疾病の診断基準では、がんについて医学的に回復の見込みがない状態に至ったとの判断が条件です。
この条件に当たる場合は、症状を和らげるなど、直接治癒を目的としない治療を受けていても対象になり得ます。抗がん剤などの治療を受けていることだけを理由に、対象外と考える必要はありません。認定は住んでいる市区町村へ申請し、結果は法律で原則として申請から30日以内に出すと決められていますが、令和6年度の申請分の全国平均は39.9日でした。
自己負担は40〜64歳では原則1割、65歳以上では所得などに応じて1〜3割です。ご自身の割合は「介護保険負担割合証」という割合を記した書類で確認でき、年齢による扱いは厚生労働省の介護保険の説明に掲載されています。
月の支給限度額から支払いの目安を出す
在宅サービスには、保険の範囲で使える月の支給限度額があります。要支援は生活の一部に支援が必要な状態、要介護は継続した介護が必要な状態の区分で、介護の必要性を表す要介護度に応じて上限が変わります。
次は、全国共通の支給限度額を基に、公的な介護報酬の計算に使う「単位」を1単位10円として換算した例です。上限まで利用した場合の1割負担を示しています。出典は高槻市の介護保険サービス利用者負担の説明ですが、この支給限度額は同市だけに適用されるものではありません。
| 認定区分 | 月の支給限度額の換算例 | 1割負担の月額目安 |
|---|---|---|
| 要支援1 | 50,320円 | 5,032円 |
| 要支援2 | 105,310円 | 10,531円 |
| 要介護1 | 167,650円 | 16,765円 |
| 要介護2 | 197,050円 | 19,705円 |
| 要介護3 | 270,480円 | 27,048円 |
| 要介護4 | 309,380円 | 30,938円 |
| 要介護5 | 362,170円 | 36,217円 |
地域やサービスにより1単位の金額が異なり、限度額に含まれない加算もあるため、表は請求額そのものではありません。利用が少なければ支払いも少なくなり、2割・3割負担では同じ利用内容でも負担額が増えます。
上限を超える利用は契約前に金額を確認する
支給限度額を超えて利用する部分は全額自己負担となり、通常の負担割合だけで計算すると予算が不足します。サービスの計画を調整する専門職であるケアマネジャーに、限度額内の負担と超過分を分けた見積もりを求めます。
たとえば、退院前に訪問介護などの利用回数は分かっていても月額が分からなければ、ご本人か家族からケアマネジャーへ、予定するサービス名と回数を伝え、追加料金も含む支払額を尋ねます。
おむつ・食事・交通の実費を予算に入れる
サービスの見積もりに入らない実費は、家庭での使用量や移動手段を基に別に計算します。毎日の小さな支払いも、月単位で見ると継続して用意する額が分かります。
おむつや衛生用品は使う量から計算する
排せつの介助が必要な患者さんと、ご自身でトイレに行ける患者さんでは、購入する物品も使用量も変わります。おむつや尿取りパッド、使い捨て手袋などは、商品代と必要な量を掛け合わせて見積もりましょう。
退院時に物品をまとめて買う前に、訪問看護師などへ使い方や必要量を相談すると、サイズの違う製品や不要な在庫を抱えるのを避けられます。肌の状態や排せつの様子に合う品を選び、単価の安さだけで交換回数を減らさないようにします。
また、市区町村によって紙おむつなどの支援を設けている場合があるため、年齢や所得などの条件、現物支給か費用助成かを担当課に確認できます。
食事と移動は追加で必要になる分を把握する
食費は従来の支出に、配食や調理済み食品などで増える額を加えると、療養に伴う変化を把握しやすくなります。食事の準備を頼める家族がいるか、体調に合う食品を別に用意するかによっても、予算は変わります。
通院にタクシーなどを使う場合は、運賃に加えて介助料や待機料がかかるかを利用先に尋ねます。車いすのまま移動する必要があるときは、移動中の安全を確保できる車両を前提に、往復と付き添いを含む総額で確認します。
契約書で見積もり外の料金を確認する
利用を始める前に、見積書に含まれる内容と、追加で請求される内容を区別します。予定外の対応にかかる料金やキャンセル料は、発生する条件も分かる形で説明を受けると、体調が変わったときに判断しやすくなります。
医療費と介護費の負担軽減は月単位と年単位で確認する
医療費には高額療養費制度による月ごとの上限があり、令和8年8月からの制度では、70歳未満で年収約370万〜約510万円の人が医療費100万円の治療を受けても、自己負担は約9.3万円までに抑えられます。介護サービスの自己負担にも月ごとの上限があり、医療費と介護費には年単位で合算する制度もあります。月単位の払い戻しを受けた場合も、年単位の合算の対象になるかを確認しましょう。
高額介護サービス費で月の負担を抑える
高額介護サービス費は、対象となる介護サービスの自己負担が月の上限を超えたとき、申請によって超過分が払い戻される制度です。上限は所得などで決まり、同じ世帯に介護サービスを使う人がいる場合は、対象の負担を合計して判定します。
| 主な所得区分 | 月の上限額 | 確認する点 |
|---|---|---|
| 世帯全員が市町村民税非課税 | 世帯24,600円 | 所得などにより個人15,000円の上限も適用 |
| 課税世帯で下記の高所得区分に該当しない | 世帯44,400円 | 同一世帯の課税状況 |
| 65歳以上の人の課税所得が380万円以上690万円未満の世帯 | 世帯93,000円 | 給与の額面と課税所得は異なる |
| 65歳以上の人の課税所得が690万円以上の世帯 | 世帯140,100円 | 該当する人が世帯にいるか |
金額は厚生労働省の高額介護サービス費の概要に基づきます。食費や日常生活費、支給限度額を超えた全額自己負担分などは対象外なので、介護に関する出費すべてが表の金額に収まるとは限りません。
医療と介護の自己負担を年単位でも合算する
高額医療・高額介護合算制度は、同じ医療保険に加入する世帯の医療費と介護費を、毎年8月から翌年7月までの期間で合算する仕組みです。それぞれの月の負担軽減を受けた後の対象額が、年齢や所得別の上限を超えると支給の対象になります。
たとえば、70歳以上で一般の所得区分に当たる世帯の上限は年56万円です。70歳未満の世帯では、厚生労働省の介護サービス情報公表システムの表で、年収約370万円までなら年60万円、年収約370万〜約770万円なら年67万円とされています。金額と対象費用の条件は公的医療保険を運営する協会けんぽの高額介護合算の説明で確認でき、年齢が混在する世帯では計算方法も加入先に確かめます。
ただし、家族でも加入する医療保険が異なれば、単に同居しているだけでは合算できません。加入先の健康保険組合や市区町村などに、誰のどの支払いが対象になるかを尋ねましょう。
払い戻しまでに必要なお金も相談する
先に費用を払い、後から払い戻しを受ける方法を「償還払い」といいます。払い戻し後の負担が小さくても、振り込みまでの支払資金が必要です。市区町村の介護保険担当課に申請方法と支給時期を確認し、当面の家計のやりくりを決めておきます。
費用への不安があると、自宅で過ごしたい希望まで遠慮してしまうかもしれません。病院で生活や経済面の相談を受ける医療ソーシャルワーカーには、医療費と生活費を含む家計全体を相談できます。希望する過ごし方と支払える額を一緒に伝え、申請先や利用内容の相談につないでもらいましょう。
日本の遺族を対象とした治療費の調査でも、経済的負担が療養の選択に関わる点が報告されています。支払いが苦しくなる前から相談先を持っておきましょう。
支払明細と領収書を同じ場所に保管し、本人の体調が優れない日にも家族が確認できるようにしておくと、問い合わせや助成の請求を進めやすくなります。
40歳未満のがんの患者さんは自治体の在宅療養支援を確認する
40歳未満では介護保険を利用できないため、自治体の「若年がん患者在宅療養支援事業」などが相談先になります。実施の有無や助成内容は全国一律ではなく、住民票のある市区町村で確かめましょう。
支援事業の有無と病状の条件を尋ねる
自治体へは、年齢と自宅で介助が必要な状況を伝え、若年のがんの患者さん向け助成を実施しているか尋ねます。対象年齢だけでなく、病状について医師の判断を必要とする事業もあるため、がんと診断されていれば一律に使えるとは限りません。
例として、横浜市の若年のがんの患者さん向け在宅療養支援助成では、市内に住民票がある40歳未満で、定められた病状の条件を満たす人の在宅サービス利用料などを助成しています。これは横浜市の制度であり、別の市区町村に住む人には、その自治体の条件が適用されます。
助成対象のサービスと自己負担を並べて確かめる
助成があると分かったら、ご自身が使いたいサービス名を伝え、対象範囲と残る負担額を確認します。訪問介護や訪問入浴、福祉用具などの扱いに加え、用品の購入費を含むかどうかも自治体ごとの確認事項です。
| 確かめる項目 | 担当課へ伝える内容 | 予算に関わる点 |
|---|---|---|
| 利用サービス | 頼みたい介助、借りたい用具 | 助成対象と対象外の区別 |
| 助成率と上限 | 月の利用予定額 | 上限超過後に残る負担 |
| 利用開始日 | 退院日、サービスを始めたい日 | 申請前の利用を対象にできるか |
| 請求方法 | 一時的な立て替えが難しい状況 | 必要な領収書と振込時期 |
制度名が似ていても助成率や上限が同じとは限らないため、インターネット上の別地域の金額で契約を決めないようにします。
窓口が分からないときは病院の相談員につないでもらう
担当課を探すだけで負担になるときは、医療ソーシャルワーカーに居住地と利用したい支援を伝え、問い合わせ先の確認を頼めます。日本の若い成人の患者さんを対象とした調査でも、日常生活や情報について満たされていない支援の必要が報告されています。
海外の聞き取り研究では、若い世代の家族の負担として、直接の支出に加えて将来のお金への心配や支援を探す手間も示されています。問い合わせ先だけでなく、生活全体の困りごとも相談員に伝えられます。
助成がない地域や条件に合わない場合も、その回答を相談員に共有し、利用予定のサービスと家計を一緒に整理しましょう。
がんの介護で家族が仕事を減らす前に家計を組み直す
家族の働く時間が減ると、サービス代を抑えても家計の不足が大きくなる場合があります。退職や勤務変更を決める前に、減る手取りと利用できる休業制度を確認し、外部の支援を使う場合の支出と比べます。
利用料と減る手取りを同じ月で比べる
家族が介助を担う案と、サービスを利用して勤務を続ける案は、同じ期間の家計で比べましょう。比べる軸は、支払う利用料と減る手取り収入。賞与や雇用条件にも影響するなら、月給の変化だけでは長く続けられるか判断しにくくなります。
がんの患者さんを介護する家族では、仕事や日常活動の負担も大きい点が日本の調査で報告されています。ご家庭の減収額は、実際の勤務条件を基に見積もります。
退職の前に介護休業と給付を照会する
家族が雇用されて働いているなら、勤務先の人事担当に介護休業や短時間勤務などを相談できます。雇用保険に加入して一定の条件を満たす人には介護休業給付があり、同じ家族の介護について93日を限度に、3回まで受け取れます。退職を決める前の確認が家計の選択肢を増やします。
介護休業給付の基本の計算は、休業開始時賃金日額に支給日数と67%を掛ける方法です。支給額には上限があり、休業中の賃金による調整もあるため、手取り給与の67%が必ず受け取れるという意味ではありません。計算方法は厚生労働省の介護休業給付の説明に掲載されています。
給付の対象や申請時期は勤務先とハローワークへ照会し、入金までに必要な生活費も見積もっておきましょう。
介助が増えたら予算と家族の分担を更新する
初めに作った予算は、夜間の介助や通院の付き添いが増えたときに見直します。必要な支援を削る前に、ケアマネジャーへ家族が担える時間と予算を伝え、利用内容を調整します。家族が仕事を休んだ日や追加で払った額を残しておくと、サービスの追加費用と家庭で抱える負担を具体的に比べられます。
費用の書類を整理する時間や、訪問を受け入れるために待つ時間も家庭の負担です。こうした時間と手間は米国で患者さんや家族などに聞き取った研究でも報告されています。
ご本人が希望する生活を中心に、家族の休息も確保できる利用内容を相談し、支出を減らす判断だけで介護の負担が集中しないように調整します。収入減や支払いの難しさが生じた場合は、医療ソーシャルワーカーにも伝え、家計の相談をします。
よくある質問
月にいくら用意すればよいか、誰に相談できますか?
サービスの利用料は、ケアマネジャーや各事業所へ相談できます。担当者がまだ決まっていない場合や家計全体を相談したい場合は、通院先の相談窓口へ費用の相談を希望していると伝えます。
使いたいサービスと月に用意できる額を伝え、最初の支払額と翌月以降の見込みを分けて出してもらいます。
40歳未満向けの助成は、利用してから申請してもよいですか?
申請前の利用まで助成できるかは自治体ごとに違うため、契約や利用開始の前に担当課へ問い合わせましょう。
退院が迫っている場合は、利用開始の希望日も伝え、申請日と対象になる利用日の関係を確かめます。すでに支払った費用があるなら、領収書を保管し、支払日とサービス内容を担当課に伝えます。
助成金が入る前の支払いが難しいときはどうすればよいですか?
支払期限の前に、請求元と自治体の担当課、病院の医療ソーシャルワーカーへ相談します。
請求額と期限、助成の申請状況をそろえて伝えると、支払い方法の相談や利用できる支援の確認を進めやすくなります。変更できる支払日や方法は請求元によるため、助成予定額だけを根拠に支払いを延期せず、事前に合意を得ます。
費用の相談では家族が減らす仕事の話もしてよいですか?
はい。家族の勤務時間や収入の変化も、費用の相談で伝えてよい内容です。休む予定の日や減る手取りの見込みを共有しましょう。
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この記事を書いた人 Wrote this article
前田 祐助 医学博士 / 医師
慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医