
がん治療を受けている間は、抗がん剤や放射線の影響で肌が乾燥したり、ヒリつき・赤み・色素沈着が出たりすることが少なくありません。肌の変化は、けっして珍しいことではないのです。
うれしいことに、こうした肌荒れの多くは、毎日のちょっとした工夫でやわらげられます。鍵になるのは、刺激を抑えて洗い、たっぷり潤し、紫外線や摩擦から守るという土台づくりでしょう。
この記事では、放射線皮膚炎や手足症候群へのケア、化粧品の選び方、相談したいサインまで、自宅でできる低刺激スキンケアのコツをやさしくまとめました。読み終えるころには、今日からの一歩が見えてくるはずです。
抗がん剤や放射線で肌が敏感になるのには理由があります
放射線治療を受ける人の多くが、治療の途中で皮膚の変化を経験します。原因は、がんを攻撃する治療が、入れ替わりの早い肌の細胞にも影響を与えるためです。
つまり肌荒れは「ケアをサボった結果」ではなく、治療に伴って起こりうる体の反応といえます。仕組みを知れば、必要以上に落ち込まずに備えられるでしょう。
| 治療 | 出やすい肌の変化 | 気をつける場所 |
|---|---|---|
| 抗がん剤(点滴・内服) | 乾燥、かゆみ、色素沈着、爪のもろさ | 全身、手足、爪 |
| 分子標的薬 | ニキビに似た発疹、爪のまわりの炎症 | 顔、胸、爪まわり |
| 放射線 | 赤み、ほてり、皮むけ | 照射された部分のみ |
同じ「肌荒れ」でも、治療によって出方や場所はずいぶん違います。自分が受けている治療と照らし合わせて読み進めると、対策が立てやすくなります。
抗がん剤が肌のうるおいを奪うわけ
抗がん剤は、がん細胞のように分裂の盛んな細胞をねらって働きます。ところが肌の表面の細胞も生まれ変わりが速いため、巻き込まれてダメージを受けやすいのです。
その結果、肌を守るバリアの力が落ち、水分が逃げやすくなります。乾燥が進むと、わずかな刺激でもかゆみや赤みが出やすくなるでしょう。
色素沈着や爪の変化も、同じ理由でゆっくり現れることがあります。いずれも治療中にはよく見られる変化で、過度に心配しすぎる必要はありません。
放射線が当たった皮膚で起きていること
放射線は、照射された部分の細胞にだけ作用します。回数を重ねるうちに皮膚の再生が追いつかなくなり、赤みやほてり、軽い皮むけが出てきます。これが放射線皮膚炎です。
多くは治療開始から2〜3週ごろに目立ち始め、終了後しばらくでやわらいでいきます。日焼けに似た反応をイメージするとわかりやすいかもしれません。
照射の範囲外の肌は影響を受けないため、ケアの力点は当たっている部分に絞れます。範囲がよくわからないときは、当たっている場所を担当のスタッフに確認しておくと、毎日のケアに迷いがなくなります。
もともと乾燥肌の人ほど早めの備えを
治療前から肌が乾きやすい人や、過去に肌トラブルが多かった人は、変化が強めに出ることがあります。だからこそ、症状が出てからではなく、治療の始まりと同時にケアを整えておきたいところです。
持病で使っている塗り薬がある場合は、自己判断で中断せず、担当の医師や薬剤師に相談してください。治療と肌ケアの両立は、思っているより難しくありません。
不安なときは、治療が始まる前に肌の状態を写真に残しておくのもおすすめです。後から変化を見比べやすくなり、相談のときにも役立ちます。
がん治療中のスキンケアは「落とす・潤す・守る」が土台です
むずかしい道具や高価な化粧品はいりません。やさしく落とし、しっかり潤し、刺激から守る。この3つを毎日くり返すことが、いちばんの近道です。
順番に整えていけば、肌の調子はぐっと安定します。
肌をこすらない洗い方が安定への近道
洗うときは、ぬるま湯を使い、よく泡立てた洗浄料をのせるだけにします。ゴシゴシこすらず、泡で包んで流すイメージを持つと、摩擦による負担を減らせます。
熱いお湯や長湯は、うるおいを奪うので控えめにしましょう。洗い終えたら、タオルでこすらず、押さえるようにそっと水気を取るのがコツです。
洗顔やシャワーのたびに「やさしく」を意識するだけで、肌の負担は確実に変わってきます。
保湿剤はたっぷり、一日に数回が目安
保湿は、入浴後の肌がしっとりしているうちに行うと効果が高まります。乾く前に塗ることで、水分を肌に閉じ込められるからです。
量はケチらず、塗った部分が少しテカるくらいをめやすにしてください。朝・入浴後・寝る前など、一日に数回に分けて重ねると、乾燥に追いつかれにくくなります。
香料や色素の少ない、低刺激タイプを選ぶと安心でしょう。迷ったら、薬局で「敏感肌向け」と表示されたものから試すのも一つの手です。
テクスチャーは、乾燥が強い部位には軟膏やクリーム、べたつきが気になる場所には乳液タイプと使い分けると続けやすくなります。好みに合わせて選んで大丈夫です。
衣類とお風呂で見直したい毎日の習慣
肌に直接ふれる衣類は、やわらかい綿などの素材を選ぶと摩擦を抑えられます。締めつけの強い下着や、チクチクする素材は避けたいところです。
入浴は、ぬるめのお湯で短めに。ナイロンタオルや軽石でこする習慣があるなら、この機会にやめておきましょう。手のひらでやさしく洗うだけでも、肌は十分にきれいになります。
低刺激ケアで避けたい刺激
- 熱いお湯での長湯やサウナ
- ナイロンタオル・軽石でのこすり洗い
- アルコールや香料の強い化粧品
- 締めつけの強い衣類や粗い素材
- かきむしり、無理な角質ケア
こうした刺激を一つずつ減らしていくと、肌が落ち着く時間が増えていきます。すべてを完璧にする必要はなく、できるところから手放していけば十分です。
放射線皮膚炎を防ぐ自宅でできる低刺激ケア
照射部位を洗ってよいのか迷う人は多いのですが、答えは「やさしく洗ってよい」です。実際、水やマイルドな洗浄料での洗浄を続けたほうが、皮膚炎が悪化しにくいことが複数の研究で示されています。
清潔と保湿を保ちながら、こすらず守ることが基本になります。
照射部位はやさしく洗ってしっかり乾かす
照射された部分も、ぬるま湯と泡でそっと洗ってかまいません。汗や汚れを残すほうが、かゆみやムレの原因になります。
洗った後は、やわらかいタオルで押さえるように水気を取り、自然に乾かします。マーキングの線は自分で消さず、消え方が気になるときは担当のスタッフに伝えてください。
制汗剤の使用は、以前は禁止と説明されることもありましたが、近年はマイルドなものなら使ってよいとする見方が広がっています。
保湿剤を塗るタイミングと選び方
保湿は、皮膚炎を和らげる助けになります。照射の直前は薄く塗るか控え、治療の後や就寝前にしっかり塗るとよいでしょう。
選ぶときは、香料・アルコールの少ない、のびのよいタイプが向いています。担当の医療機関ですすめられた保湿剤があれば、それを優先してください。
赤みやかゆみが強いときは、自己判断で市販のステロイドを使う前に、まず相談を。治療の内容によって、すすめられる薬が変わるためです。
かゆみや赤み、皮むけが出たときの手当て
軽い赤みやかゆみなら、保湿を続けながら様子を見られることが多いものです。冷たいタオルを軽く当てると、ほてりが少し落ち着きます。
皮がむけてジクジクしてきた場合は、自己流で対処せず、早めに医療スタッフへ伝えてください。傷の手当てには、専用の被覆材が使われることもあります。
かいてしまうと、傷口から雑菌が入りやすくなります。爪を短く整えておく、寝るときに薄い手袋をするなど、無意識のかき壊しを防ぐ工夫も助けになります。
放射線皮膚炎の段階別の見え方とケアの目安
| 段階 | 見え方 | 家でのケア |
|---|---|---|
| ごく軽い | うっすら赤み、軽いかゆみ | 保湿を続け、こすらない |
| 中くらい | はっきりした赤み、乾いた皮むけ | 保湿を強化し、早めに相談 |
| 強い | 湿った皮むけ、痛み | 自己処置せず受診する |
段階が進むほど、家で抱え込まず専門家の手を借りることが大切になります。早めの相談が、治療を予定どおり続けるための支えになります。
抗がん剤で起こる手足症候群の毎日のセルフケア
「手足症候群は防ぎようがない」と思われがちですが、それは誤解です。保湿や摩擦を避ける工夫で、つらさをやわらげられることがわかっています。
毎日の小さな積み重ねが、症状の重さを左右します。
| サイン | 感じ方 | 心がけたいこと |
|---|---|---|
| 初期 | 手のひら・足の裏のヒリつき、赤み | 保湿を増やし、刺激を避ける |
| 進んだとき | 痛み、水ぶくれ、皮むけ | 歩行や作業を無理せず相談 |
| 日常の負担 | 歩く・つかむがつらい | 休息と用具の工夫を取り入れる |
サインに早く気づくほど、対策の選択肢は広がります。気になる変化は、こまめに記録しておくと相談のときに役立ちます。
手足症候群は手のひらと足の裏のヒリつきから
手足症候群は、手のひらや足の裏に赤みやヒリつきが出るところから始まることが多い症状です。ある種の抗がん剤や分子標的薬で起こりやすいとされています。
進むと、痛みや水ぶくれ、皮むけにつながり、歩く・物をつかむといった動作がつらくなります。早い段階で気づき、負担を減らすことがやわらげる鍵になります。
手のひらと足の裏を守る毎日の工夫
こまめな保湿が、手足症候群のケアの中心です。尿素入りの保湿剤などが使われることもありますが、製品の選択は担当の医療者と相談すると安心でしょう。
熱いお湯に長くつかる、強く握る、長時間歩くといった負担は、できる範囲で減らします。クッション性のある靴やインソールを使うと、足裏の負担がやわらぎます。
家事のときにやわらかい手袋を使うのも、手のひらを守る助けになります。洗剤や熱いお湯にふれる回数が減るだけでも、ヒリつきが起こりにくくなるでしょう。
爪や指先のトラブルを防ぐ習慣
治療中は爪がもろくなったり、爪のまわりが炎症を起こしたりすることがあります。爪は短く切りすぎず、深爪を避けるのが基本です。
水仕事や掃除のときは手袋を使い、刺激や乾燥から指先を守りましょう。痛みや腫れ、膿が出るような変化があれば、早めに医療スタッフへ伝えてください。
靴下はやわらかい綿素材を選び、足を圧迫しない靴を合わせると、足裏と爪への負担をまとめて減らせます。新しい靴をおろす時期も、治療中は慎重にしたいところです。
日焼け止めや化粧品は使ってもいいの?
結論から言えば、多くの場合は使えます。治療で肌が敏感になっているからこそ、紫外線対策はむしろ大切になります。
ただし、選び方と使うタイミングには少しコツがあります。
紫外線対策はがん治療中こそ大切
治療中の肌は紫外線の影響を受けやすく、色素沈着が濃く残ることがあります。だからこそ、日中の紫外線対策はていねいに行いたいところです。
日焼け止めは、肌にやさしい紫外線散乱剤(酸化亜鉛や酸化チタン)を使ったタイプが向いています。帽子や日傘、長袖を合わせると、肌への負担をさらに減らせます。
放射線の照射部位に直接塗ってよいかは治療によって異なるため、その点だけは担当者に確認してください。
紫外線は、曇りの日や窓ごしにも届きます。短い外出でも塗る習慣をつけておくと、うっかり日焼けを防げます。
化粧品を選ぶときに確認したい点
化粧品は、香料・アルコール・色素ができるだけ少ないものを選ぶと安心です。新しい製品を使う前には、目立たない場所で試してから広げると、肌に合うか確かめられます。
「敏感肌向け」「低刺激」と書かれた製品が一つの目安になります。
治療中に選びたい化粧品の条件
- 香料・着色料が少ない
- アルコール(エタノール)控えめ
- 紫外線散乱剤タイプの日焼け止め
- のびがよく、こすらず塗れる
- パッチテスト済みの表示がある
これらを目安にすると、売り場で迷う時間がぐっと短くなります。完璧を求めず、今ある肌にやさしいものから取り入れていきましょう。
肌色の変化をメイクでカバーする工夫
色素沈着や赤みが気になるときは、無理に隠そうと厚塗りするより、薄づきの製品でやさしく整えるほうが肌にやさしいものです。メイクは気分を明るくする力もあります。
落とすときも専用のリムーバーでこすらず、洗顔と同じく「やさしく」を心がけてください。眉やまつげが薄くなったときの描き方は、専門の相談窓口がある医療機関も増えています。
こんな肌の症状が出たら医療スタッフへ早めの相談を
判断に迷ったら、相談してかまいません。とくに、痛みが強い・ジクジクする・膿が出る・発熱を伴うといった変化は、早めに伝えるべきサインです。
がまんは禁物だと覚えておいてください。
すぐに相談したほうがよいサイン
強い痛みやひどいかゆみ、皮膚が湿ってジクジクする、膿が出る、急に範囲が広がる。こうした変化は、自己流で様子を見るより早めの相談が安心です。
発熱を伴う場合は、感染が起きていることもあります。治療中は体の抵抗力が下がりやすいため、ためらわず医療機関へ連絡してください。
市販薬は自己判断で使ってもいい?
市販のステロイドや保湿薬を自己判断で使う前に、まず担当者に確認するのが安全です。治療の種類によっては、すすめられる薬や避けたい薬が変わるためです。
すでに処方された塗り薬があるなら、その使い方を守りましょう。気になる症状をメモして持参すると、短い診察でも的確に伝えられます。
治療が終わった後の肌の回復ケア
治療が一段落しても、肌のバリアはしばらく弱った状態が続きます。保湿と紫外線対策は、治療後もしばらく続けると回復を後押しできます。
色素沈着や乾燥は、時間とともに落ち着いていくことが多いものです。経過が気になるときは、定期の受診の際に遠慮なく見てもらいましょう。
頭皮や髪の変化が気になる人もいますが、これも時間とともに整っていくことがほとんどです。あせらず、やさしいケアを続けていけば大丈夫でしょう。
受診を急ぐ目安と様子を見てよい範囲
| 状態 | 見られる変化 | 対応の目安 |
|---|---|---|
| 様子を見てよい | 軽い乾燥・うっすら赤み | 保湿を続け経過を観察 |
| 早めに相談 | 強い赤み・乾いた皮むけ・痛み | 次の受診を待たず連絡 |
| 急いで受診 | 湿った皮むけ・膿・発熱 | すぐ医療機関へ |
この目安はあくまで一般的なものです。最後は自分の感覚を大切にし、不安があれば早めに声を上げてください。
よくある質問
がん治療中のスキンケアで、まず気をつけることは何ですか?
はじめに整えたいのは、刺激を減らして洗い、たっぷり潤すという土台です。ぬるま湯とよく泡立てた洗浄料でやさしく洗い、入浴後すぐに保湿するだけでも、肌の調子はかなり安定します。
香料やアルコールの少ない低刺激のものを選ぶと、より安心でしょう。むずかしい道具は必要なく、毎日続けやすい方法から始めれば十分です。
抗がん剤による肌荒れは、治療が終われば元に戻りますか?
多くの肌の変化は、治療が一段落すると少しずつやわらいでいきます。乾燥やかゆみは比較的早く落ち着き、色素沈着や爪の変化は回復にもう少し時間がかかることがあります。
回復を後押しするためにも、治療後しばらくは保湿と紫外線対策を続けるとよいでしょう。経過が気になるときは、受診の際に相談してみてください。
放射線皮膚炎が出ている部分は、洗わないほうがよいのでしょうか?
いいえ、やさしく洗ってかまいません。汗や汚れを残すほうが、かゆみやムレにつながりやすいためです。ぬるま湯と泡でそっと洗い、押さえるように水気を取りましょう。
こすったり、熱いお湯を当てたりするのは避けてください。マーキングの線は自分で消さず、気になるときは医療スタッフに伝えると安心です。
手足症候群を防ぐために、市販の保湿剤を使ってもよいですか?
こまめな保湿は、手足症候群のつらさをやわらげる助けになります。低刺激の保湿剤であれば、多くの場合に使っていただけます。
ただし、尿素入りなど成分によっては肌に合わないこともあるため、製品選びは担当の医療者に相談すると確実です。あわせて、強く握る・長く歩くといった負担を減らす工夫も取り入れてみてください。
がん治療中に日焼け止めを使っても、肌に負担になりませんか?
肌にやさしいタイプを選べば、日焼け止めはむしろ味方になります。治療中の肌は紫外線で色素沈着が残りやすいため、対策はていねいに行いたいところです。
酸化亜鉛や酸化チタンを使った紫外線散乱剤タイプが向いています。放射線の照射部位に直接塗ってよいかだけは治療によって異なるので、担当者に確認してください。
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この記事を書いた人 Wrote this article
前田 祐助 医学博士 / 医師
慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医