BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)とは?がん細胞だけを狙い撃つ「第5の治療」の仕組み

BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)とは?がん細胞だけを狙い撃つ「第5の治療」の仕組み

BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)は、がん細胞に集まりやすいホウ素薬剤と中性子の反応を利用し、まわりの正常な組織をできるだけ残しながらがんをねらう放射線治療の一つです。

手術・放射線・薬物療法・免疫療法に続く「第5のがん治療」として、再発した頭頸部がんや悪性脳腫瘍を中心に、国内外で研究が積み重ねられてきました。

この記事では、BNCTがどんな仕組みでがん細胞にはたらくのか、対象になるがんの種類、当日の治療の流れ、知っておきたい副作用までを、むずかしい専門用語をかみくだいて整理します。

「がんだけを狙い撃つ」と聞いて気になっている方が、落ち着いて選択肢を考えられるよう、今わかっていることをまとめます。

BNCTとは?がん細胞だけを壊す「第5のがん治療」

BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)は、がん細胞に取り込ませたホウ素に中性子を当て、その反応でがん細胞を内側から壊す放射線治療です。手術・放射線・薬物療法・免疫療法に続く「第5のがん治療」として注目を集めてきました。

治療の種類どこにはたらくか主な手段
手術がんのかたまり切り取る
放射線治療照射した範囲体の外から放射線
薬物療法全身抗がん剤など
免疫療法全身免疫の力を引き出す
BNCT薬剤が集まった細胞ホウ素と中性子

5つを並べてみると、BNCTだけが「薬剤が集まった細胞」という細かな単位をねらっている点が見えてきます。ここからは、その仕組みをひとつずつほどいていきましょう。

ホウ素と中性子が出会うと細胞の中で起こること

BNCTのかなめは、ホウ素10という物質と中性子が出会ったときに起こる反応です。ホウ素10は中性子をつかまえると、ごく小さな粒子に分かれて飛び散ります。

この粒子が飛ぶ距離は、細胞およそ1個分ほどしかありません。そのため、ホウ素を多く含んだ細胞だけが内側から強くダメージを受け、となりの細胞はあまり傷つかずに済むと考えられています。

手術・放射線・薬物・免疫に続く5番目の治療と呼ばれる理由

がん治療は長らく、手術・放射線・薬物療法という3つの柱で語られてきました。近年はここに免疫療法が加わり、4本目の柱に育っています。

BNCTは、これらとは違う発想で細胞1個の単位にはたらきかけるため、5番目の選択肢として語られることがあります。実際にどの患者さんに向くかは、がんの種類や状態によって変わるでしょう。

正常な細胞を傷つけにくいといわれる背景

ふつうの放射線治療は、がんと正常な組織をまとめて照射し、できるだけがんに線量を集めようと工夫します。それでも周囲への影響をゼロにはできません。

BNCTでは、ダメージのもとになる反応がホウ素を取り込んだ細胞の中だけで起こります。この違いが、正常な組織を比較的残しやすいといわれる理由につながっています。

がん細胞だけを狙い撃つBNCTの原理

「中性子を浴びせる」と聞くと体じゅうが放射線まみれになりそうですが、BNCTの要点はそこではありません。かぎを握るのは、がんに集まるホウ素薬剤と、それを待ち受ける中性子の組み合わせです。

ホウ素薬剤ががん細胞に集まりやすい性質

BNCTでは、まずホウ素を含んだ薬剤を点滴で体に入れます。よく使われるのは、アミノ酸によく似た構造を持つホウ素化合物です。

がん細胞は栄養をさかんに取り込もうとするため、このアミノ酸に似た薬剤を正常な細胞より多くため込みやすい性質があります。その差を利用して、がん側にホウ素を多めに集めておきます。

このタイプの薬剤はボロノフェニルアラニン(BPA)と呼ばれ、がんの研究で長く使われてきました。点滴で入れたあと、正常な組織より腫瘍のほうにとどまりやすいと報告されています。

中性子そのものは体をほとんど通り抜けるだけ

治療に使う中性子は、エネルギーの低いおだやかな中性子です。これ自体は人の体をかなり通り抜けてしまい、それだけで細胞を強く壊す力は大きくありません。

ところがホウ素10に出会うと話が変わり、つかまえた瞬間に強い粒子を生み出します。ホウ素がたまった場所でだけ、効き目が一気に高まるわけです。

反応がおよぶのはがん細胞1個分の距離

ホウ素と中性子の反応で生まれる粒子は、アルファ粒子とリチウムの原子核です。どちらも飛距離が短く、その範囲は数マイクロメートルほどにとどまります。

細胞1個の大きさとほぼ同じくらいなので、反応はホウ素を取り込んだ細胞の内側でほぼ完結します。すぐとなりの正常な細胞まで届きにくいのが、この治療の持ち味でしょう。

反応で生まれるおもなもの

  • アルファ粒子(飛距離が短い)
  • リチウムの原子核
  • わずかなガンマ線

これらのうち、がん細胞を強く傷つける主役はアルファ粒子です。短い距離で大きなエネルギーを渡すため、細胞の設計図であるDNAに深い傷をつけると考えられています。

BNCTの対象になるがん、ならないがん

BNCTは、どんながんにも使える万能の治療ではありません。今のところ研究が進んでいるのは、体の表面に近い再発がんや、手術がむずかしい一部の脳腫瘍などです。

再発した頭頸部がんで進む臨床研究

もっとも研究が進んできた領域の一つが、再発した頭頸部がんです。のどや口、鼻のまわりにできるがんで、一度治療したあとに同じ場所で再発すると、追加の治療が選びにくいことがあります。

こうした場面で、すでに放射線を浴びた部位にもう一度はたらきかけられる点が、BNCTへの期待につながってきました。国内外の試験で効果と安全性の検討が重ねられています。

頭頸部は食べる、話すといった毎日の動きに関わる場所だけに、治療の影響をなるべく抑えたいという願いが強い領域です。再発をくり返すと選べる手立てがしぼられるなかで、新しい候補のひとつとして研究が続けられています。

悪性脳腫瘍(膠芽腫)への応用

脳にできる悪性度の高い腫瘍である膠芽腫も、BNCTが検討されてきた代表的な対象です。膠芽腫は手術で取りきりにくく、再発しやすいことで知られます。

再発した膠芽腫を対象にした試験では、安全性や生存期間に関するデータが集められてきました。ただし、まだ研究段階の部分も多く、すべての患者さんに当てはまるわけではないでしょう。

悪性黒色腫やそのほか広がりつつある対象

皮膚にできる悪性黒色腫(メラノーマ)も、古くからBNCTの研究対象になってきました。色素を作る細胞に由来するがんで、ホウ素薬剤との相性が調べられています。

このほか、外陰部のがんや一部の再発がんなどでも報告があります。対象は少しずつ広がりつつあるものの、確立した標準治療とは段階が異なる点は知っておきたいところです。

BNCTの対象として研究が進むがん

がんの種類主な状況研究の段階
頭頸部がん再発・進行臨床試験が進む
悪性脳腫瘍(膠芽腫)再発臨床試験で検討
悪性黒色腫皮膚など研究・報告あり
そのほかの再発がん表面に近い病変報告段階

表のとおり、対象は「再発」「手術がむずかしい」「体の表面に近い」といった条件と重なることが多いといえます。深い場所のがんへの応用は、中性子の届きにくさという課題に取り組みながら検討が続いています。

BNCTの治療の流れ、1回の照射で終わる仕組み

BNCTの照射は、基本的に1回で完了します。何週間も通って少しずつ当てる一般的な放射線治療とは、ここが大きく違います。

場面おおよその内容目安の時間
事前の準備点滴でホウ素薬剤を入れる数時間
照射中性子を当てる数十分〜1時間ほど
照射後体を休めて経過をみる当日〜数日

おおまかには、薬剤を入れてから照射し、そのあと体を休めるという1日がかりの治療です。細かな時間は施設や状態によって変わります。

点滴でホウ素薬剤を体に入れる準備

治療の前半は、ホウ素薬剤を点滴でゆっくり体に入れる時間です。薬剤ががん細胞に十分に集まるよう、時間をかけて投与します。

このあいだに、ホウ素がどれくらいがんに集まっているかを画像で確かめることもあります。準備が整ってから、照射する部屋へ移ります。

中性子を当てる照射は数十分から1時間ほど

照射そのものは、専用の装置から中性子を当てるだけで、痛みはほとんどありません。時間は数十分から1時間ほどが目安です。

当てる向きや時間は、がんの位置や大きさに合わせて事前に計画します。じっと横になっているあいだに終わることが多いでしょう。

照射が終わったあとの過ごし方

照射が終わったあとは、体調をみながらしばらく安静にします。すぐに帰宅できる場合もあれば、しばらく経過をみる場合もあります。

副作用の出かたには個人差があるため、退院後の過ごし方や受診のタイミングは、担当の医師とよく相談しておくと安心です。

体に入れたホウ素薬剤は、時間とともに少しずつ体の外へ抜けていくとされています。激しい運動などは控えめにしながら、ふだんの暮らしへ徐々に戻していくのが一般的でしょう。

加速器の登場でBNCTはどう広がったか

かつてBNCTは原子炉のある場所でしか受けられませんでした。近年は病院に置ける加速器型の中性子源が実用化し、治療を受けられる施設が現実的に広がりつつあります。

原子炉に頼っていた時代の制約

初期のBNCTは、研究用の原子炉から取り出した中性子を使っていました。原子炉は数が限られ、医療の現場で気軽に使えるものではありません。

患者さんが原子炉のある施設まで出向く必要があったため、治療を受けられる人はどうしても限られていました。これが長く普及の壁になってきたといえます。

病院に置けるサイクロトロン型の中性子源

流れを変えたのが、サイクロトロンと呼ばれる加速器を使った中性子源です。原子炉を使わず、病院の中に設置できる大きさにまとめられています。

加速器で陽子を金属の標的にぶつけ、そこから中性子を取り出す仕組みです。医療機器としての品質管理がしやすく、安定して中性子を作れる点が利点とされています。

加速器型で変わったこと

  • 原子炉がなくても照射できる
  • 病院の施設として運用しやすい
  • 中性子の量を管理しやすい

こうした変化が、研究室の中の技術だった治療を、医療機関で受けられる治療へと近づけてきました。とはいえ装置は大がかりで、導入できる施設はまだ多くありません。

国内で受けられる施設が増えてきた背景

日本では、加速器型のBNCTを使った治療が実際の診療の場に登場しています。再発した頭頸部がんを対象に、専用の装置と薬剤を組み合わせた治療が行われています。

受けられる施設はまだ全国に多いとは言えませんが、研究の積み重ねを背景に、少しずつ体制が整ってきました。今の状況は各施設に確認するのが確実です。

治療を行う施設では、対象になるがんの種類や進め方について、これまでの経験を重ねてきています。気になる場合は、自分のがんが対象になるか、どのくらいの実績があるかを早めに問い合わせておくとよいでしょう。

BNCTの副作用と受ける前に確認したい注意点

体にやさしい治療というイメージを持つ方もいますが、BNCTにも副作用はあります。多くは照射した部位に出るもので、事前に知っておくと落ち着いて備えられるでしょう。

照射した部位に出やすい皮膚や粘膜の変化

報告が多いのは、照射した部位の皮膚や粘膜の変化です。髪が抜ける、口の中が荒れる、だるさが出るといったものが知られています。

多くは時間の経過とともにやわらいでいきますが、出かたや程度には個人差があります。気になる症状が続くときは、早めに担当の医師へ伝えてください。

治療を受けられる人と慎重な検討が必要な人

BNCTは、がんの種類や位置、これまでの治療歴によって向き不向きがあります。深い場所のがんや広く散らばったがんには、今のところ向きにくいとされています。

全身の状態や持病によっては、慎重な検討が必要になることもあります。受けられるかどうかは、検査の結果をふまえて医師が総合的に判断します。

主治医に質問しておきたいこと

治療を考えるときは、わからないまま進めず、気になる点を遠慮なく質問しておくことが大切です。自分のがんが対象になるのか、ほかの治療と比べてどうかを聞いておくと整理がつきます。

副作用への備えや、治療後の通院についても確かめておくと安心でしょう。納得して選ぶことが、その後の見通しを立てるうえで支えになります。

報告されている主な副作用

出やすい部位主な症状経過の傾向
皮膚赤み・脱毛時間とともにやわらぐことが多い
口やのどの粘膜荒れ・痛み数週間で落ち着くことが多い
全身だるさ・吐き気一時的なことが多い

表はあくまで一般的な傾向で、すべての人に同じように起こるわけではありません。まれに強い反応が出ることもあるため、体調の変化は遠慮なく医療者に伝えることが大切です。

BNCTと他のがん治療は何が違うのか

BNCTと他の放射線治療の大きな違いは、効き目がどこにおよぶかという範囲にあります。BNCTは細胞1個の単位をねらい、ふつうの放射線は照射した範囲全体にはたらきます。

治療の種類はたらく範囲おおまかな回数
ふつうの放射線治療照射した範囲全体数回〜数十回
陽子線・重粒子線ねらった立体的な範囲数回〜十数回
BNCT薬剤が集まった細胞基本は1回

同じ放射線を使う治療でも、効き目をしぼる手がかりが大きく異なります。その違いを順に見ていきましょう。

ふつうの放射線治療との照射範囲の違い

一般的な放射線治療は、体の外からビームを当て、がんを含むかたまりに線量を集めます。どうしても周囲の正常な組織もある程度は通り道になります。

BNCTは、当てる範囲の中でもホウ素を多く取り込んだ細胞にねらいをしぼります。同じ放射線治療でも、効き目のしぼり方が違うわけです。

重粒子線や陽子線治療との発想の違い

陽子線や重粒子線の治療は、ビームが止まる深さを調整して、がんの形に線量を立体的に合わせます。これは物理的に照射範囲を絞り込む工夫です。

一方でBNCTは、薬剤ががんに集まるという生物学的な性質を手がかりにします。物理でしぼるか、薬剤の集まりでしぼるかという発想の違いがあるといえます。

がん細胞1個ずつをねらう特徴

BNCTの持ち味は、ホウ素がたまった細胞の単位で効き目が生まれる点にあります。がんと正常な細胞が入り混じった境目でも、ホウ素の量の差を手がかりにできます。

この特徴から、すでに放射線を浴びた場所の再発など、ほかの治療が選びにくい場面での活用が研究されています。ただし万能ではなく、向くかどうかは個別の判断が必要です。

よくある質問

BNCTはどんながんでも受けられるのですか?

残念ながら、BNCTはすべてのがんに使えるわけではありません。深い場所のがんや、広く散らばったがんには向きにくいとされています。

研究が進んでいるのは、再発した頭頸部がんや一部の脳腫瘍、悪性黒色腫などです。自分のがんが対象になるかは、検査をもとに医師が判断します。

BNCTの治療は1回で終わるのですか?

照射そのものは、基本的に1回で完了することが多い治療です。何週間も通って少しずつ当てる一般的な放射線治療とは、この点が異なります。

ただし当日は、薬剤の点滴や経過の観察があるため1日がかりになります。事前の検査や治療後の通院も含めると、全体ではある程度の期間が必要です。

BNCTにはどのような副作用がありますか?

報告が多いのは、照射した部位に出る皮膚や粘膜の変化です。脱毛や口の中の荒れ、だるさ、吐き気などが知られています。

多くは時間とともにやわらぎますが、出かたには個人差があります。まれに強い反応が出ることもあるため、気になる症状は早めに医療者へ伝えてください。

BNCTは普通の放射線治療と何が違うのですか?

大きな違いは、効き目がおよぶ範囲です。ふつうの放射線治療は照射した範囲全体にはたらきますが、BNCTはホウ素が集まった細胞の単位でねらいます。

そのため、がんと正常な組織が入り混じった境目でも、ホウ素の量の差を手がかりにできるとされています。すでに放射線を浴びた場所の再発などで研究が進んでいます。

BNCTはどこの病院でも受けられるのですか?

今のところ、BNCTを受けられる施設は全国に多いとは言えません。専用の中性子源と薬剤がそろった限られた医療機関で行われています。

加速器型の装置が登場して施設は少しずつ増えていますが、まだ限定的です。受診を考えるときは、対応している施設に直接問い合わせるのが確実でしょう。

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この記事を書いた人 Wrote this article

前田 祐助

前田 祐助 医学博士 / 医師

慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医