がん治療中の栄養管理と食事のコツ|体重減少を防ぎ、体力を維持するための工夫

がん治療中に体重が落ちていくのは、食べる量が減ることと、がんそのものが代謝を変えてしまうことが重なって起こります。だからこそ、栄養とエネルギーをこまめに確保する食べ方が、治療をやり遂げる力につながります。

この記事では、1日に必要なエネルギーやたんぱく質の目安から、食欲不振や副作用があるときの食べ方、栄養補助食品の取り入れ方までを、自宅で続けやすい形でまとめました。

つらい日は「少しでも口に入れば十分」と考えて大丈夫です。体重と食事を記録しながら、医療チームと一緒に無理のない方法を見つけていきましょう。

なぜがん治療中は体重が落ちやすいのか、栄養管理が大切な理由

がん治療中の体重減少は、食べる量が減ることと、がんが代謝を乱すことの両方から起こります。早めの栄養管理が、体力と治療の継続を支えます。

サイン目安受け止め方
1か月の体重5%以上減った早めに相談する合図
6か月の体重10%以上減った注意したい変化
食事の量ふだんの半分以下が続く工夫と相談のタイミング

体重が減る原因は「食べられない」だけではありません

体重が落ちる理由を、食欲不振だけだと考えてしまう方は少なくありません。実際にはがんそのものが体の中で炎症を起こし、筋肉やエネルギーの消費を増やしてしまいます。

この状態では、しっかり食べていても体重が減ることがあります。だからこそ、食事の量を増やす工夫と、炎症や代謝への配慮を組み合わせる視点が役立つでしょう。

体の中で起きるこうした変化は、医学的に「がん悪液質」と呼ばれています。一度進むと食事だけでは戻しにくいため、大きく減る前から栄養を意識することが、その後の過ごしやすさを左右します。

体重減少が治療の妨げになる理由

体重が大きく減ると、抗がん剤や放射線治療に体が耐えにくくなります。その結果、治療の予定を変更したり、薬の量を減らしたりする場面も出てきます。

筋肉が落ちれば、だるさや動きにくさも強まりがちです。早い段階で栄養を整えておくことが、治療を最後までやり切る支えになるといえます。

体重と筋肉が保たれていれば、副作用が出ても立て直しが早まりやすくなります。同じ治療を受けるとしても、体力という土台を整えておくほうが、結果として選べる方法を狭めずに済むでしょう。

早めのサインに気づくには毎日の記録が頼りになります

体重の変化は毎日少しずつ進むため、自分では気づきにくいものです。1週間に1回など決まったタイミングで量ると、小さな減少にも早めに気づけます。

食べられた量や体調をメモしておくと、受診のときに伝えやすくなります。記録は、医療チームが食事の方針を一緒に考えるときの大切な手がかりになるでしょう。

数字が動かない日でも、量り続けること自体に意味があります。

がん治療中の栄養管理で押さえたいエネルギーとたんぱく質の目安

体重を守る鍵は、エネルギーとたんぱく質を毎日しっかり満たすことです。量の目安を知っておくと、食事の組み立てがぐっと楽になります。

1日にどれくらいのエネルギーが必要なの?

必要なエネルギーは体格や活動量で変わりますが、1つの目安として体重1kgあたり25〜30kcalがよく用いられます。体重50kgなら、1日およそ1250〜1500kcalにあたります。

大切なのは数字を厳密に守ることよりも、毎日続けて足りるかどうかです。食べられない日が続くなら、間食や飲み物でこまめに補う発想に切り替えましょう。

油やバターを使った料理は、かさを増やさずにエネルギーを足せる味方です。甘い飲み物やスープを一品添えるだけでも、1日の合計を無理なく底上げできます。

筋肉を守るたんぱく質の摂り方

たんぱく質は筋肉や免疫を支える土台で、治療中はふだんより多めが望ましいといえます。目安は体重1kgあたり1.0〜1.5gで、体重50kgなら1日50〜75gが一つの基準です。

肉や魚、卵、大豆製品、乳製品を毎食に少しずつ散らすと、無理なく量を確保できます。一度に食べきれないときは、回数を分けて補う方法も効果的でしょう。

朝はたんぱく質が不足しがちなので、卵や乳製品をひとつ加えると整えやすくなります。1食にまとめて取るより3食へ散らすほうが、体は効率よく筋肉づくりに使えるといわれています。

水分とビタミン・ミネラルも一緒に補う

食事量が減ると、水分やビタミン、ミネラルも不足しがちになります。発熱や下痢のある日は失われる量が増えるため、いつもより多めの水分を心がけてください。

野菜や果物を少量でも取り入れると、体の調子を整える栄養素を補えます。固形物がつらいときは、スープやスムージーにして飲む形にすると続けやすくなります。

経口補水液や具だくさんのみそ汁なら、水分と塩分をいっしょに取れて手軽です。飲みやすいものを冷蔵庫に常備しておくと、のどが渇く前のこまめな補給を習慣にできます。

外食やコンビニ食でも栄養はしっかり補えます

自炊がつらい日は、外食やコンビニ食を上手に使っても栄養はしっかり補えます。サラダチキンや卵、乳製品、レトルトのおかゆなど、手軽でたんぱく質を取りやすい商品を選びましょう。

市販のお弁当は主食に偏りやすいので、たんぱく質のおかずを一品足すと栄養が整います。買い置きできるものをいくつか決めておくと、調子の悪い日でも食事を抜かずに済みます。

1日の栄養の目安

項目1日の目安ひとことメモ
エネルギー体重1kgあたり25〜30kcal活動量や体調で調整
たんぱく質体重1kgあたり1.0〜1.5g筋肉を守る土台
水分こまめに少しずつ発熱や下痢の日は多めに

食欲不振や吐き気がつらいときの食事のコツ

食欲がない日は、一度に食べようとしないことが何より大切です。少量を回数多く口にする形へ切り替えると、負担が軽くなります。

少しずつ回数を分けて食べる工夫

3食にこだわらず、1日5〜6回に分けて少しずつ食べると、胃への負担をおさえながら量を確保できます。食べられるときに、食べられるものを口にする姿勢で十分です。

のどを通りやすく、エネルギーを補いやすい食品をそろえておくと安心でしょう。下のような口当たりのやさしいものが、つらい日の味方になります。

  • おかゆ・雑炊
  • 茶わん蒸し・豆腐
  • ヨーグルト・プリン
  • ゼリー・ポタージュ
  • やわらかく煮た白身魚

同じものばかりだと飽きてしまうので、味付けや温度を少しずつ変えてみてください。食べられた経験を重ねることが、次の一口への自信になります。

食べられた量を責めず、口にできた事実を前向きに受け止めてください。

においと温度を変えると食べやすくなります

治療中はにおいに敏感になり、温かい料理の湯気がつらく感じることがあります。冷やしたり常温にしたりすると、においが弱まって食べやすくなる場合が多いです。

調理のにおいがこたえるときは、家族に作ってもらうのも一つの手でしょう。さっぱりした酸味や香味野菜が、食欲のきっかけになることもあります。

盛り付けを少なめにすると、見た目の圧迫感がやわらいで箸が進みやすくなります。「これくらいなら」と思える量から始め、足りなければおかわりする形が気楽でしょう。

吐き気が強い日はどう乗り切る?

吐き気が強い日は、無理に食べず水分とエネルギーの確保を優先してください。ひと口大に分けたゼリーやスポーツドリンクなら、少量ずつでも体に入りやすくなります。

食後すぐ横にならず、少し体を起こして過ごすと楽になることがあります。吐き気が続いて水分も取りにくいときは、早めに医療チームへ相談しましょう。

起きがけや治療の前後は、においの少ない冷たいものが口にしやすい傾向があります。氷やシャーベットを少しずつなめるだけでも、水分とエネルギーを静かに補えます。

抗がん剤や放射線治療の副作用に合わせた食事の工夫

副作用が出たら食べられなくて当然、とあきらめる必要はありません。症状ごとに食べ方を変えれば、口にできるものは意外と見つかります。

副作用食べやすくする工夫控えたいもの
口内炎やわらかく薄味に仕上げる熱い・辛い・酸っぱいもの
味覚の変化だしや風味で変化をつける金属味が出やすい食器
下痢消化のよいものを少量ずつ脂っこい・冷たいもの

口内炎や味覚の変化があるとき

口の中が痛むときは、刺激の少ないやわらかい料理が頼りになります。とろみをつけたり、常温に近づけたりすると、しみる感覚をやわらげられるでしょう。

味を感じにくい、金属のような味がするといった変化もよく起こります。だしの風味を効かせたり、好みの香りを足したりして、おいしく感じる工夫を探してみてください。

食事の前に口をゆすいで清潔に保つと、痛みやしみる感覚をやわらげやすくなります。金属のような味が気になるときは、木製やプラスチックの食器に替える方法も試す価値があります。

下痢や便秘が続くときの食べ方

下痢のときは、消化のよいものを少量ずつ取り、水分とミネラルを補うことが大切です。脂っこいものや冷たい飲み物は刺激になりやすいため、いったん控えめにしましょう。

便秘の場合は、水分と食物繊維をやさしく増やすと流れを整えやすくなります。症状が長引くときは自己判断で薬を足さず、医療チームに伝えて調整してもらってください。

下痢が続くと水分とミネラルが失われ、だるさや脱力につながります。バナナやいも類など、おなかにやさしく栄養も取りやすい食品を選ぶと、体を立て直しやすくなるでしょう。

口やのどが乾いて飲み込みにくいとき

唾液が減ると、パンやごはんが口の中でまとまりにくくなります。あんかけやソースでとろみを足すと、するりと飲み込みやすくなるでしょう。

こまめに水分を含みながら食べると、のどの通りが楽になります。むせやすい状態が続くなら、飲み込みの専門職に相談する方法もあります。

食事の前に温かい汁物でのどを潤しておくと、最初のひと口が進みやすくなります。一度に飲み込む量を控えめにし、ゆっくり食べることも、むせを防ぐ助けになります。

栄養補助食品や間食で体力維持を後押しするコツ

食事だけで足りないときは、栄養補助食品を頼って構いません。少ない量で効率よくエネルギーやたんぱく質を補えるのが強みです。

栄養補助食品(ONS)の選び方と使うタイミング

栄養補助食品(ONS)は、飲み物やゼリーの形で手軽に栄養を足せる食品です。少量で高いエネルギーとたんぱく質を取れるため、食が細い時期の心強い味方になります。

味や形状の種類が豊富なので、続けやすいものを選ぶことが長続きのこつでしょう。食事の置きかえではなく、足りない分を補う使い方をすると効果を感じやすくなります。

飲むタイミングは、食事に響きにくい食間や就寝前を選ぶと取り入れやすくなります。冷やすと飲みやすくなる製品も多いので、自分の口に合う温度を探してみてください。

高エネルギー・高たんぱくの間食アイデア

3食で量が足りないときは、間食で少しずつ補う発想が役立ちます。手元に置きやすく、ひと口で栄養を取れるものをそろえておくと安心です。

  • チーズ・ヨーグルト
  • ナッツ・バナナ
  • アイスクリーム
  • 栄養補助ゼリー
  • ミルクココア

甘いものがつらい日は、塩味のスープやおにぎりに切り替えてもよいでしょう。気が向いたときにすぐ口にできる準備が、こまめな栄養補給を支えます。

無理に甘いものへ寄せず、その日に食べたいと思えるものを優先して構いません。

いつもの料理にひと足しで栄養を増やす

食べる量を増やせないときは、同じ一皿の栄養を濃くする工夫が効きます。みそ汁に卵を落とす、料理に油やチーズを加えるといったひと手間で、エネルギーを底上げできます。

粉ミルクやきな粉を飲み物に溶かすと、たんぱく質を手軽に足せます。少しの足し算を習慣にすると、無理なく1日の栄養量を引き上げられるでしょう。

市販のとろみ材や栄養強化のパウダーを使えば、味を大きく変えずに栄養を足せます。手間をかけずに続けられる方法をいくつか持っておくと、調子の波に左右されにくくなります。

栄養補助食品を続けるための工夫と注意点

栄養補助食品は、飽きずに続けられるかどうかが体力維持の分かれ目になります。味の系統を何種類か用意し、その日の気分で選べるようにしておくと飲みやすくなります。

甘さが強くて重たいと感じるときは、無糖のタイプや少量ずつ飲める製品が向いています。下痢などの症状が出た場合は続けず、医療チームに相談して種類を見直しましょう。

体力を維持する食事と運動、家族のサポートで支えるがん治療

治療中はじっとしていたくなるものですが、軽い運動と食事を組み合わせると体力を保ちやすくなります。周囲の支えも大きな力になります。

軽い運動と栄養を組み合わせると効果的です

栄養を取るだけでなく、体を少し動かすことで筋肉を保ちやすくなります。散歩や軽い体操など、体調に合わせて無理のない範囲から始めてみてください。

運動のあとにたんぱく質を含む食事や間食を取ると、筋肉づくりを後押しできます。つらい日は休む判断も大切で、できる日にできる分だけで十分です。

椅子に座ったままの足踏みや、立ち座りの繰り返しでも筋肉への刺激になります。短い時間でもこまめに体を動かす習慣が、寝たきりを防ぐ力につながっていきます。

家族や周りの人ができる食事の支え方

食欲が落ちている本人に「もっと食べて」と促すと、かえって負担になることがあります。食べられたものを一緒に喜び、選択肢を増やす関わりが力になるでしょう。

調理のにおいがつらい時期は、家族が下ごしらえを引き受けると助かります。買い物や小分け保存といった手助けも、こまめな食事を続ける支えになります。

本人が食べられないことを家族が責めると、食卓そのものがつらい場になりがちです。落ち込む日は無理にすすめず、そばで一緒に過ごす時間が安心につながるでしょう。

受診のときに医療チームへ伝えたいこと

食事の悩みは我慢せず、受診のたびに具体的に伝えることが解決の近道です。体重の変化や食べられた量を記録しておくと、的確な助言を受けやすくなります。

管理栄養士や看護師など、相談できる相手は主治医だけではありません。下の表を目安に、気になる変化があれば早めに声をかけてみてください。

気になることはメモにまとめて持参すると、限られた診察の時間でも伝え漏れを防げます。栄養や食事の相談には、管理栄養士による専門の支援を受けられる仕組みもあります。

相談の目安になるサイン

こんなとき伝えたいこと相談先
体重が続けて減る減った量と期間主治医・看護師
食べられない日が続く食事の量と回数管理栄養士
飲み込みにくいむせる頻度医療チーム

よくある質問

がん治療中に体重が減るのはなぜですか?

がん治療中の体重減少には、二つの流れが重なっています。一つは食欲不振や副作用で食べる量が減ること、もう一つはがんが体の代謝を乱し、エネルギーや筋肉の消費を増やすことです。

そのため、しっかり食べているつもりでも体重が落ちる場合があります。食事の量を増やす工夫に加えて、こまめなエネルギー補給を組み合わせると、減少をゆるやかにしやすくなります。

がん治療中の栄養管理では1日にどのくらいたんぱく質を摂ればよいですか?

一つの目安は、体重1kgあたり1日1.0〜1.5gです。体重50kgの方なら、1日およそ50〜75gが基準になります。治療中は筋肉を守る必要があるため、ふだんより多めが望ましいといえます。

肉や魚、卵、大豆製品、乳製品を毎食に少しずつ散らすと、無理なく量を確保できます。一度に食べきれないときは、間食や栄養補助食品で補う方法も役立つでしょう。

食欲不振で食べられないときの食事のコツはありますか?

一度にたくさん食べようとせず、1日5〜6回に分けて少しずつ口にするのがこつです。おかゆやゼリー、豆腐、ヨーグルトなど、のどを通りやすいものから試してみてください。

においがつらいときは、料理を冷やすか常温にすると食べやすくなります。食べられたものを増やしていく姿勢で十分で、無理を重ねないことが長続きにつながります。

がん治療中に栄養補助食品(ONS)を使っても問題ありませんか?

栄養補助食品(ONS)は、食事だけで栄養が足りないときの心強い助けになります。少量で高いエネルギーとたんぱく質を補えるため、食が細い時期に向いています。

使うときは食事の置きかえではなく、足りない分を補う形がおすすめです。持病や治療内容によって向き不向きがあるので、取り入れる前に医療チームへ相談すると安心でしょう。

がん治療中の体重減少は運動でも防げますか?

運動は体重そのものより、筋肉と体力を守るうえで役立ちます。散歩や軽い体操を体調に合わせて続けると、だるさや動きにくさをやわらげやすくなります。

運動の効果を引き出すには、栄養との組み合わせが鍵になります。体を動かしたあとにたんぱく質を含む食事や間食を取ると、筋肉づくりを後押しできるでしょう。

References

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この記事を書いた人 Wrote this article

前田 祐助

前田 祐助 医学博士 / 医師

慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医