
抗がん剤治療で白血球(とくに好中球)が減ると、ふだんなら問題にならない細菌でも感染症を起こしやすくなります。G-CSF製剤は、骨髄にはたらきかけて好中球を増やし、その感染リスクをやわらげる注射薬です。
使うかどうかは、治療の種類・年齢・体の状態をみて主治医が決めます。発熱性好中球減少症のリスクが高いときに予防的に用いられ、抗がん剤を予定どおり続ける後押しにもなります。
この記事では、白血球が減る理由からG-CSF製剤の働き、副作用、自宅でできる感染予防、受診の目安までを順にたどります。治療への不安をやわらげる手がかりにしてください。
抗がん剤治療で白血球が減るのはなぜ起こるのか
白血球が減るのは、抗がん剤ががん細胞だけでなく、血液をつくる骨髄の細胞にも影響するためです。多くの薬で避けにくい副作用ですが、起こり方には一定の流れがあります。
| 血液の細胞 | 主な働き | 不足したときの影響 |
|---|---|---|
| 好中球 | 細菌や真菌を退治する | 感染症にかかりやすい |
| 赤血球 | 全身に酸素を運ぶ | 貧血・息切れ・だるさ |
| 血小板 | 出血を止める | あざや出血が起きやすい |
骨髄がダメージを受けると好中球が作られにくくなる
血液の細胞は、骨の中心にある骨髄で日々つくられています。抗がん剤は活発に分裂する細胞を攻撃するため、増殖の速いがん細胞と同時に、骨髄の細胞もダメージを受けてしまいます。
その結果、新しい白血球の供給が一時的にとどこおります。すでに血液中にある白血球は数日で寿命を迎えるので、補充が追いつかず数が下がっていくという流れです。
白血球が減る程度は、抗がん剤の種類や量によって変わります。治療の合間には定期的な血液検査で好中球の数を確かめ、回復の具合を見ながら次の予定を組み立てていくのが一般的です。
抗がん剤を始めて7〜14日ごろに白血球が底をつく
白血球がいちばん少なくなる時期を「ナディア」と呼びます。多くの治療では、抗がん剤を投与してからおよそ7〜14日後にナディアを迎えます。
その後は骨髄が回復し、3〜4週間ほどで数が戻るのが一般的です。ただし薬の種類や量、回を重ねるごとに、回復までの日数は変わってきます。いつ頃が底になりやすいかを知っておくと、体調管理の見通しが立てやすいでしょう。
白血球の中でも好中球が真っ先に減る
白血球にはいくつかの種類があり、その大半を占めるのが好中球です。寿命が短く入れ替わりが速いぶん、抗がん剤の影響を最初に受けやすい細胞といえます。
そのため、医療現場では白血球全体の数だけでなく、好中球の数(好中球数)に注目します。好中球が一定以下に下がった状態を「好中球減少」と呼び、感染への注意がとくに必要な時期になります。
好中球がどのくらい減っているかは、血液1マイクロリットルあたりの数で表します。この数がおよそ500を下回ると感染への注意がとくに必要になり、医療現場でも警戒を強める目安となります。
G-CSF製剤が好中球を増やして体を守る働き
G-CSF製剤は、減ってしまった好中球の回復を早める注射薬です。骨髄を刺激して好中球づくりを後押しし、感染症にかかりやすい期間を短くするねらいがあります。
骨髄を刺激して好中球の産生を早める注射薬
G-CSFは、もともと体の中にある「顆粒球コロニー刺激因子」というたんぱく質です。これを薬として補うのがG-CSF製剤で、骨髄にはたらきかけて好中球のもとになる細胞を増やし、成熟と放出を促します。
注射でG-CSFを補うと、自然な回復を待つよりも早く好中球が戻りやすくなります。好中球が少ない期間が短くなれば、その間に細菌が侵入する余地も小さくなるという考え方です。
注射を始めるのは、抗がん剤を打ったその日ではなく、ふつう翌日以降からです。骨髄が立ち直ろうとする時期に合わせて補うことで、好中球が底をつく谷を浅く短くする助けになります。
フィルグラスチムやペグフィルグラスチムなどの種類
G-CSF製剤にはいくつかの種類があり、効果が続く時間や注射の回数に違いがあります。連日打つタイプと、1サイクルに1回でよい持続型に大きく分けられます。
どれを選ぶかは、抗がん剤の種類や通院のしやすさ、体の状態をふまえて主治医が判断します。代表的なものを下に整理しました。
G-CSF製剤の代表的な種類
| 種類 | 投与のしかた | 特徴 |
|---|---|---|
| フィルグラスチム | 数日間つづけて注射 | 古くから使われる短時間作用型 |
| レノグラスチム | 数日間つづけて注射 | 糖鎖を付けた短時間作用型 |
| ペグフィルグラスチム | 1サイクルに1回注射 | 効果が長く続く持続型 |
持続型は通院の負担が軽くなる一方、連日型はきめ細かく調整しやすい面があります。それぞれに長所があるので、生活に合った方法を主治医と相談して選ぶとよいでしょう。
近年は、先行品と同等の効きめが確かめられたバイオ後続品(バイオシミラー)も登場しました。選べる種類が増えたぶん、生活に合わせて方法を相談しやすくなっています。
抗がん剤を予定どおり続けるための後押し
好中球減少が長引くと、次の抗がん剤を延期したり量を減らしたりせざるを得なくなることがあります。治療の強さがゆるむと、がんを抑える力にも影響しかねません。
G-CSF製剤は好中球の回復を助けることで、治療のリズムを保つ支えになります。とくに、治すことを目指す治療では、予定どおりの量とタイミングを守る価値が大きいといえます。
予定された量をどれだけ守れたかは、治療の効き目を左右する要素の一つです。好中球減少による減量や延期をへらせれば、当初の計画に沿って治療を続けやすくなるでしょう。
好中球減少が感染症リスクを高める理由
好中球が減って不安になる方は多いのですが、本当に気をつけたいのは数が一定以下に下がったときです。好中球は感染を防ぐ最前線で、これが手薄になると軽い感染も重くなりやすくなります。
好中球は細菌から体を守る最前線の細胞
好中球は、体に入りこんだ細菌や真菌をいち早く見つけて取りこみ、退治する役目を担っています。傷口やのど、腸など、外と接する場所での防御を支える存在です。
その好中球が減ると、ふだんは抑えこめている菌でも増えてしまい、感染症につながりやすくなります。守り手が少ない状態では、わずかなきっかけが体調の悪化を招くこともあるのです。
とくに口の中や腸の粘膜は、抗がん剤で荒れやすく菌の入り口になりがちな場所です。好中球が少ない時期は、こうした粘膜のささいな傷からも感染が起こりうると覚えておくと役立ちます。
発熱性好中球減少症は緊急の対応が必要な状態
好中球が大きく減っている時期に38度以上の熱が出た状態を「発熱性好中球減少症」と呼びます。これは感染が広がりかけているサインで、急いで治療を始める必要があります。
好中球が少ないと、はれや膿といった炎症の手がかりが出にくく、熱だけが頼りになることもあります。だからこそ、ささいな発熱でも軽く見ないことが大切です。
見逃したくない感染のサイン
- 38度以上の発熱
- さむけ、ふるえ
- のどの痛みや咳
- 排尿時の痛みや違和感
- 傷口の赤み、はれ、膿
こうした症状が一つでも出たら、夜間でも医療機関へ連絡してください。早く動くほど、重症化を防げる可能性が高まります。
重症化すると入院や治療の遅れにつながる
発熱性好中球減少症をそのままにすると、感染が血液全体に広がる「敗血症」へ進むおそれがあります。入院して点滴の抗菌薬が必要になることも少なくありません。
さらに、感染で体力が落ちると、次の抗がん剤を遅らせる原因にもなります。感染を防ぐ取り組みは、安全だけでなく治療を前に進めるうえでも重要だといえるでしょう。
大切なのは、異変に早く気づいてすぐ動くことです。発熱に気づいてから治療を始めるまでが短いほど、重い経過を避けやすくなると分かっています。迷ったら、待たずに相談する側に倒すのが安全といえるでしょう。
G-CSF製剤を使うのはどんな場面か
発熱性好中球減少症のリスクが高い治療では、最初からG-CSF製剤を予防的に使うのが一般的です。リスクの程度や個人の事情によって、使い方は柔軟に変わります。
発熱性好中球減少症のリスクが高い治療のとき
抗がん剤の組み合わせによって、発熱性好中球減少症の起こりやすさは大きく異なります。国内外の指針では、その危険度がおよそ20%以上になる治療で、予防的なG-CSF製剤の使用がすすめられています。
リスクの高い治療でも、G-CSF製剤の支えがあれば予定どおり進められることが多くあります。リスクをあらかじめ見積もって備えるという発想が土台にあります。
乳がんや悪性リンパ腫で使う強力な多剤併用には、危険度が高い部類に入る組み合わせもあります。自分の治療がどのあたりに位置するかは、主治医にたずねれば具体的に教えてもらえます。
一次予防と二次予防の使い分け
最初のサイクルから予防的に使う方法を「一次予防」、好中球減少や発熱を経験したあと次回から使う方法を「二次予防」と呼びます。どちらを選ぶかは、治療の目的とこれまでの経過によって決まります。
治すことを目指し、量を保ちたい場合は一次予防が向きます。一度トラブルが起きた人では、繰り返しを避けるために二次予防を選ぶことも多いでしょう。
G-CSF製剤を足すほかに、抗がん剤そのものを減らすという選び方もあります。ただし治すことを目指す治療では、量を保ったうえで予防の注射を加えるほうが望ましい場面も少なくありません。
年齢や持病もG-CSF製剤を使う判断に関わる
リスクが中くらいの治療では、本人の要因を合わせて使うかどうかを見定めます。高齢であること、進行した病期、過去の感染歴などは、好中球減少が起きやすい背景になります。
持病や栄養状態、これまでの治療内容も判断材料です。同じ抗がん剤でも、その人の状況しだいでG-CSF製剤の出番は変わってきます。下に大まかな目安を示します。
G-CSF製剤を予防的に使う目安
| 発熱性好中球減少症のリスク | 目安 | G-CSF製剤の使い方 |
|---|---|---|
| 高い(およそ20%以上) | 予防がすすめられる | 1サイクル目から予防的に使う |
| 中くらい(10〜20%) | 個人の要因しだい | 年齢や持病をみて判断する |
| 低い(10%未満) | 通常は必要としない | 減少が起きてから検討する |
G-CSF製剤の副作用で知っておきたい体のサイン
副作用が心配で迷う方もいますが、G-CSF製剤の多くは一時的で対応できるものです。よく知られているのは骨や腰の痛みで、まれに注意したい症状もあります。
いちばん多いのは骨や腰の痛み
G-CSF製剤の副作用でもっともよくみられるのが、骨や腰のうずくような痛みです。骨髄が活発に好中球をつくり始めるサインともいえ、注射後の数日に出やすい傾向があります。
痛みの程度には個人差があり、市販の鎮痛薬でやわらぐことも多いものです。つらいときは我慢せず、どの薬をどう使えばよいか主治医や薬剤師に相談してください。
痛みは胸骨や背骨、骨盤など、骨髄の多い場所に出やすいのが特徴です。注射の二、三日後を山にやわらいでいくことが多く、温めたり冷やしたりして和らげる人もいます。
G-CSF製剤の主な副作用と受診の目安
| 主な副作用 | どんな症状か | 対応の目安 |
|---|---|---|
| 骨・腰の痛み | 注射後にうずく痛み | 鎮痛薬や主治医に相談 |
| 軽い発熱・だるさ | 注射そのものによる反応 | 感染の熱との区別が必要 |
| 脾臓のはれ(まれ) | 左上腹部の痛み | 早めに受診する |
表のうち、左上腹部の強い痛みはまれですが見過ごしたくないサインです。気になる症状があるときは、自己判断で様子を見すぎないようにしましょう。
まれに起こる脾臓のはれや強いアレルギー
頻度は高くないものの、脾臓がはれて左上の腹部に痛みが出ることがあります。深呼吸や肩への痛みをともなう場合は、すぐに連絡が必要なサインです。
また、注射後に発疹や息苦しさなどのアレルギー反応が起こることもあります。こうした症状は早い対応がものをいうので、ためらわず医療機関に相談してください。
こうした強い症状はめったに起こりませんが、知っておくだけで早い対応につながります。説明書や主治医の話で注意点を聞いておくと、いざというとき落ち着いて動けるでしょう。
気になる症状は我慢せず主治医へ伝える
副作用は、感染による不調と見分けにくいことがあります。発熱が注射の反応なのか感染なのか、自分だけで判断するのは難しいものです。
体調の変化はメモにとり、受診のときに伝えると役立ちます。小さな違和感でも共有しておけば、必要なときに早く手を打てます。
判断に迷ったときは、どの症状ならすぐ連絡し、どの症状なら次の受診まで待てるかを、前もって主治医に確かめておくと安心です。線引きを共有しておけば、いざというとき迷いがへります。
白血球が少ない時期に自宅でできる感染予防
好中球が底をつくのは抗がん剤後のおよそ1〜2週間に集中します。この時期に身のまわりの工夫を重ねると、感染の入り口をぐっと減らせます。
手洗いやマスクで感染の入り口を減らす
感染予防の基本は、菌やウイルスを体に持ちこまないことです。外出後やトイレのあと、食事の前のていねいな手洗いは、もっとも手軽で効果的な備えといえます。
自宅でできる感染予防の工夫
- こまめな手洗いとうがい
- 人混みでのマスク着用
- 加熱を中心にした食事
- やわらかい歯ブラシで口を清潔に
- 毎日の体温チェック
人混みや工事現場のほこりは、できる範囲で避けると安心です。家族にも手洗いに協力してもらうと、家庭内での感染リスクをさらに下げられます。
風邪をひいた家族や友人との対面は、この時期だけは控えてもらうのが安全です。来客が続くときは相手にも手洗いやマスクをお願いし、無理のない範囲で距離を保ちましょう。
食事と口の中を清潔に保つ
好中球が少ない時期は、生ものや作り置きを控え、加熱した料理を中心にすると安心です。果物はよく洗い、皮をむいて食べる習慣が役立ちます。
口の中の細菌も感染のもとになります。やわらかい歯ブラシでやさしく磨き、うがいで清潔を保つことが、のどや歯ぐきからの感染を防ぐ支えになります。
調理の前後や食材にふれる前には、必ず手を洗う習慣をつけたいところです。包丁やまな板を生肉とそれ以外で分けると、台所から口へ菌が運ばれるのを防ぎやすくなります。
発熱や体調の変化に早く気づくための備え
毎日の検温を習慣にすると、わずかな変化に早く気づけます。平熱を知っておくと、いつもと違う熱に気づきやすくなるでしょう。
夜間や休日の連絡先を、家族と共有しておくことも大切です。発熱したときにどこへ連絡するかを決めておけば、いざというときに迷わず動けます。
急な発熱に備え、家庭用の体温計をすぐ手の届く場所に置いておくと心強いものです。だるさや食欲の落ち込みなど、熱以外の小さな変化もあわせて見ておくと、体調の崩れに早く気づけます。
よくある質問
G-CSF製剤はどのくらいで好中球を増やしますか?
G-CSF製剤を注射すると、多くの場合は数日のうちに好中球の数が上向きはじめます。自然な回復を待つよりも、少ない期間を短くできるのが特徴です。
ただし、効き方には個人差があり、抗がん剤の種類や体の状態によっても変わります。回復の見通しは主治医が血液検査で確かめながら判断しますので、不安なときは遠慮なくたずねてください。
G-CSF製剤の副作用にはどのようなものがありますか?
もっとも多い副作用は、骨や腰のうずくような痛みです。骨髄が好中球を盛んにつくり始めるサインで、注射後の数日に出やすく、鎮痛薬でやわらぐことも多くあります。
まれに、脾臓がはれて左上の腹部に痛みが出たり、発疹などのアレルギー反応が起きたりします。気になる症状があるときは、我慢せず早めに医療機関へ相談してください。
白血球減少のときはどんな症状に注意すればよいですか?
白血球減少の時期にいちばん気をつけたいのは発熱です。38度以上の熱やさむけ、ふるえは、感染が広がりかけているサインのことがあります。
のどの痛みや咳、排尿時の違和感、傷口の赤みなども見逃せません。こうした症状が出たら、夜間や休日でも決めておいた連絡先へ早めに相談しましょう。
G-CSF製剤は抗がん剤治療のたびに必ず使うのですか?
いいえ、すべての治療で必ず使うわけではありません。発熱性好中球減少症のリスクが高い治療や、過去に好中球減少を経験した場合などに用いられます。
リスクが低い治療では、最初から使わずに様子をみることもあります。年齢や持病もふまえて主治医が一人ひとりに合わせて判断しますので、疑問があれば相談してください。
好中球減少のときに食事で気をつけることはありますか?
好中球減少の時期は、加熱した料理を中心にすると安心です。生ものや作り置きは控え、果物はよく洗って皮をむくと、食べ物からの感染を防ぎやすくなります。
口の中を清潔に保つことも食事と同じくらい大切です。やわらかい歯ブラシでやさしく磨き、うがいを習慣にして、のどや歯ぐきからの感染を防ぎましょう。
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この記事を書いた人 Wrote this article
前田 祐助 医学博士 / 医師
慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医