
「全ゲノム解析」と「パネル検査」は、どちらもがんの遺伝子を調べる検査ですが、解析の範囲と得られる情報量に大きな開きがあります。
全ゲノム解析は約30億塩基対のDNA全体を網羅的に解読し、変異シグネチャーや構造変異まで把握できる一方、パネル検査は数十から数百の特定遺伝子を深く読み込む手法です。
それぞれに得意な場面と限界があり、どちらが「優れている」とは一概にいえません。この記事では2つの検査の違いを具体的な解析範囲や得られる情報の観点から丁寧に解説します。
全ゲノム解析とパネル検査、そもそも何が違うのか
一言で言えば、全ゲノム解析は「すべてのDNA」を、パネル検査は「あらかじめ選んだ遺伝子群」を調べる検査です。同じ「がんの遺伝子検査」でも、出発点となる設計思想がまったく異なります。
全ゲノム解析が「全DNA」を対象にする理由
全ゲノム解析(WGS:Whole Genome Sequencing)は、ヒトのDNA全体——約30億塩基対——を丸ごと解読する手法です。がん細胞と正常細胞の両方から得たDNAを比較することで、がんで新たに生じた変異(体細胞変異)と、もともと持っている遺伝的なリスク(生殖細胞系列変異)を同時に把握できます。
この「全体を読む」というアプローチの強みは、事前に「どの遺伝子を調べるか」を決めなくてよい点にあります。未知の変異や、コーディング領域の外にある非翻訳領域の変化も、原理的にはすべて拾い上げることができます。
パネル検査が「厳選した遺伝子群」に絞り込む仕組み
パネル検査(がん遺伝子パネル検査)は、臨床的に意義があると確認されている数十から数百の遺伝子のみを対象に、非常に高い深度(カバレッジ)で解析する手法です。日本で使用されているパネルでは、100〜500遺伝子程度をカバーしているものが多く、各遺伝子の変異をより精度高く検出できます。
絞り込むことで得られるメリットは「深さ」です。低頻度の変異や、がん細胞の割合が少ない検体でも感度高く変異を検出できます。また、データ量が全ゲノム解析より少ないため、解析にかかる時間や費用を抑えやすい側面もあります。
全ゲノム解析とパネル検査の基本比較
| 項目 | 全ゲノム解析 | パネル検査 |
|---|---|---|
| 解析対象 | 全ゲノム(約30億塩基対) | 選定遺伝子(数十〜数百) |
| 解析深度(深さ) | 中程度(30〜100×程度) | 高深度(数百〜数千×) |
| 変異シグネチャー | 精度よく取得可能 | 困難または不正確 |
| 検査データ量 | 非常に大きい | 比較的小さい |
| 費用の傾向 | 高い | 比較的低い |
がんゲノム解析の歴史が生んだ2つのアプローチ
次世代シークエンサーが登場した2000年代後半、まず普及したのはパネル検査のような「ターゲット型」の解析でした。当時はコストと計算資源の制約が大きく、臨床で必要な遺伝子に絞ることが現実的な選択肢だったためです。
その後、シークエンシングのコストが急速に低下するにつれ、全ゲノム解析の臨床応用を目指す動きが加速しました。2020年代に入ると、全ゲノム解析を先進がんゲノム医療の基盤に据える国や医療機関が増えています。パネル検査が「臨床の標準」として定着した後、全ゲノム解析が「次の選択肢」として存在感を高めているというのが、現在の状況です。
解析範囲の広さ——30億塩基対 vs 数百遺伝子の実態
全ゲノム解析とパネル検査の最大の違いは「どこまで調べるか」です。その差は数値で表すと驚くほど大きく、この範囲の差が検出できる変異の種類と質に直接影響します。
全ゲノム解析がカバーするDNAの全貌
ヒトのゲノムは約30億塩基対から成り、タンパク質をコードするエクソン領域はそのうちわずか2%程度に過ぎません。全ゲノム解析はこの2%だけでなく、イントロン・プロモーター・エンハンサー・非コードRNA領域など、ゲノム全体を対象にします。
臨床的に重要なのは、コーディング領域の外にある変異もがんの進行や治療反応性に関係することが近年明らかになってきた点です。例えば、プロモーター領域の変異が遺伝子発現を制御し、がんの挙動に影響するケースが報告されています。
パネル検査の遺伝子数と代表的な対象領域
パネル検査は、EGFR・KRAS・BRCA1/2・TP53・PIK3CAなど、治療標的や予後予測に関連するとわかっている遺伝子をリスト化し、それらのエクソン(タンパク質をコードする領域)を重点的に解析します。日本のがんゲノム医療で承認されているパネルは、おおむね100〜500遺伝子をカバーしています。
パネルに含まれる遺伝子の多くは、対応する分子標的薬や臨床試験との照合が整備されています。そのため「検出した変異に対して何ができるか」という治療への翻訳がスムーズな点が、臨床現場での実用上の強みといえます。
解析範囲の違いが見落とす変異に直結する
パネル検査の範囲外に存在する変異は、当然ながら検出されません。例えば、パネルに含まれていない遺伝子に生じた新規の融合遺伝子や、非コード領域に位置する調節変異は、パネル検査では拾えません。稀ながんや特殊な変異を持つ患者では、この「見えていない部分」が治療選択に影響する可能性があります。
一方、全ゲノム解析でもすべての変異の臨床的意義が明らかなわけではありません。解析範囲が広いほど「意義不明の変異(VUS)」も多く出てくるため、結果を解釈する専門的な体制が必要です。解析範囲の広さはそのまま情報の豊かさですが、その情報を適切に扱う技術と人材も同時に求められます。
解析の深度(カバレッジ)と検出感度の違い
| 指標 | 全ゲノム解析 | パネル検査 |
|---|---|---|
| 平均カバレッジ | 30〜100× | 500〜2,000× |
| 低頻度変異の検出感度 | やや低い | 高い |
| 非コード領域の解析 | 可能 | ほぼ不可 |
| 生殖細胞系列変異の同時解析 | 腫瘍・正常ペアで可能 | パネルによる |
| データ解釈の難易度 | 高い | 比較的低い |
全ゲノム解析だけが提供できる情報の種類
解析範囲の広さは、得られる情報の「幅」だけでなく「種類」にも大きな差を生みます。変異シグネチャーやゲノム不安定性の包括的な評価は、全ゲノム解析が特に際立つ領域です。
変異シグネチャーでがんの「原因」まで読み解く
変異シグネチャー(Mutational Signature)とは、ゲノム上に蓄積した変異のパターンを分類したものです。タバコの煙への暴露、紫外線、DNA修復機構の異常(BRCA変異など)、化学療法の影響——それぞれの原因に特有のパターンが存在します。このパターンを解読することで、「このがんはなぜ生じたか」「どのような治療に反応しやすいか」といった情報が得られます。
変異シグネチャーの精度は、ゲノム全体から収集した変異の数に依存します。全ゲノム解析では数万件以上の変異から統計的に解析できるため、精度が高い結果が得られます。パネル検査では対象領域が限られるため、変異数が少なく、シグネチャーの推定精度が下がる傾向があります。
コピー数変化・構造変異の網羅的な把握
がんゲノムには、塩基の置換・挿入・欠失だけでなく、大きな染色体の再編成が起こっています。コピー数変化(CNV:遺伝子のコピーが増えたり減ったりする現象)や構造変異(SV:染色体の一部が別の場所につながる転座や逆位など)は、一部の融合遺伝子形成や癌抑制遺伝子の不活化に関与します。
全ゲノム解析ではゲノム全体の読み取りデータから、こうした大規模な染色体再編成を広範に検出できます。パネル検査でも一部の融合遺伝子は検出できますが、パネルが対象としていない領域を起点とする転座などは見逃す可能性があります。
検出できるゲノム変異の種類比較
| 変異の種類 | 全ゲノム解析 | パネル検査 |
|---|---|---|
| 点変異(SNV)・挿入欠失(InDel) | 全ゲノム網羅 | 対象遺伝子のみ |
| コピー数変化(CNV) | ゲノム全体を精度高く検出 | 部分的に検出可能 |
| 構造変異(SV)・融合遺伝子 | 広範に検出 | 既知の融合のみ |
| 変異シグネチャー | 高精度で算出 | 精度は低い |
| TMB(腫瘍変異量) | 全ゲノム由来で安定 | 推定値(誤差あり) |
| MSI(マイクロサテライト不安定性) | 感度・特異度ともに高い | おおむね検出可能 |
TMBとMSIの精度——パネルとの差が出るポイント
腫瘍変異量(TMB:Tumor Mutational Burden)は、免疫チェックポイント阻害剤への反応性を予測するバイオマーカーとして注目されています。
パネル検査でもTMBは算出できますが、カバーする領域が全ゲノムの1〜2%程度に限られるため、変異数の推定に誤差が生じやすいとされています。全ゲノム解析はゲノム全体から変異を数えるため、より信頼性の高いTMB値が得られます。
マイクロサテライト不安定性(MSI)については、パネル検査でも一定の精度で検出できます。ただし、変異量が少ない腫瘍や特殊なケースでは、全ゲノム解析のほうが感度と特異度の両面で優位とされることがあります。
パネル検査が選ばれ続ける現実的な理由
全ゲノム解析の優位性が各所で示されながら、現時点でパネル検査が臨床の主軸である理由は明確です。費用・時間・検体条件のいずれの面でも、パネル検査には現実的な強みがあります。
検査コストとターンアラウンドタイムの差
全ゲノム解析はデータ量が膨大で、解析・保管・解釈にかかるコストが高くなりがちです。現時点では1回あたりの費用がパネル検査を大きく上回るケースが多く、日常的な診療の中で全員に実施するには経済的な障壁があります。
ターンアラウンドタイム(検体受け取りから結果報告までの期間)も重要です。治療方針の決定を急ぐ患者では、より短期間で結果が得られるパネル検査が現実的な選択肢になります。全ゲノム解析の解析期間はシステムによって異なりますが、パネル検査と比べて長くなる傾向があります。
組織量が少ない検体での実施のしやすさ
がんの生検では、採取できる組織の量に限りがあります。特に内視鏡的な生検や液性生検(血液中の循環腫瘍DNA)では、利用できる核酸量が少なくなります。パネル検査は高い深度で解析するため、少量のDNAでも比較的安定した結果が得られます。
また、臨床現場では過去に採取・保存されたホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織を使う場合が多くあります。FFPEはDNAの品質が低下しやすく、全ゲノム解析では成功率が下がりますが、パネル検査はFFPEにも対応した製品が多く選択肢が広い状況です。
臨床現場で十分な情報が得られる場面とは
多くの固形がんでは、治療選択に関わる変異のほとんどがすでにわかっており、それらはパネルに含まれています。例えば肺腺がんのEGFR変異、大腸がんのRAS/RAF変異、乳がんのHER2増幅——こうした変異はパネル検査で確実に検出できます。ドライバー変異が明確ながん種では、パネル検査で治療推奨を十分に得られるケースが多いといえます。
パネル検査が臨床で活躍する主な場面
- すでに治療標的として確立された変異の迅速な確認(肺がんのEGFR/ALK/ROSなど)
- 少量・低品質の検体(FFPE組織・液性生検)での解析
- 短いターンアラウンドタイムが求められる緊急性の高い状況
- 特定の分子標的薬や臨床試験への適格性を確認する目的
同一検体で比べた研究が示す一致点と乖離点
近年、同じ患者の腫瘍検体を全ゲノム解析とパネル検査の両方で解析し、結果を比較する研究が蓄積されています。これらの研究から、2つの手法が一致する部分と乖離する部分の実態が見えてきました。
治療推奨の一致率はどれくらいか
希少がんや進行がん患者20名を対象にした欧州の研究では、全ゲノム解析に基づく治療推奨のうち約半数(45〜63%)がパネル検査とも一致していました。パネル検査で治療推奨の得られた患者の多くで、全ゲノム解析でも同様の推奨が確認されたことになります。
726例の腫瘍を対象にした別の大規模な解析では、パネル検査が治療標的変異の検出においておおむね良好な性能を示す一方、変異シグネチャーや非コード領域の変異については全ゲノム解析が明確に優れていることが示されました。
全ゲノム解析が追加情報を提供したケース
前述の欧州研究では、全ゲノム解析固有の治療推奨の約3分の1——26〜36%——が、パネルには含まれないバイオマーカーに基づくものでした。その多くは、RNA発現データや変異シグネチャー、パネルがカバーしていないゲノム領域の変化によるものでした。
原発不明がん(CUP)72症例を対象にした研究では、全ゲノム解析と転写産物解析を組み合わせた手法が79%の症例で治療選択に情報を提供したのに対し、パネル検査では59%にとどまったという結果が報告されています。特に「どの臓器由来のがんか」の特定においては、全ゲノム解析の優位性が明確でした。
全ゲノム解析とパネル検査の情報提供力の差(研究例)
| 比較項目 | 全ゲノム解析 | パネル検査 |
|---|---|---|
| 治療推奨の一致率(欧州研究) | — | WGSと約50%一致 |
| 原発不明がんの治療情報提供率 | 79% | 59% |
| 追加で検出されるバイオマーカー | パネル外を多数検出 | — |
| 変異シグネチャーの精度 | 高精度 | 精度に限界あり |
パネルが見逃しやすい変異のパターン
研究の一致した知見として、パネル検査が見逃しやすいのは「パネルに含まれていない遺伝子に生じた変異」「構造変異のうち既知でないもの」「変異シグネチャーに基づいたバイオマーカー(HRDスコアなど)」です。特に、相同組換え修復欠陥(HRD)の評価においては、ゲノム全体のスカーパターンを見られる全ゲノム解析のほうが、より正確な評価が得られるとされています。
一方、既知のドライバー変異をパネルで検出する能力は高く、同一検体での比較研究でも95%前後の一致率が示されています。既存の臨床データベースと照合した変異については、パネル検査でも十分な精度があることが確認されています。
がんゲノム医療における2つの検査の住み分け
全ゲノム解析とパネル検査は、互いに相反するものではなく、現状では役割を分担しながら共存しています。それぞれが得意とする医療の場面を理解することが、患者にとっても有益な視点です。
日本のがんゲノム医療体制とパネル検査の現在地
日本では2019年以降、がん遺伝子パネル検査が特定の条件を満たした患者を対象に実施できる体制が整えられました。現在、複数のパネル製品が承認されており、がんゲノム医療中核拠点病院・拠点病院・連携病院のネットワークで検査が行われています。
パネル検査の結果はエキスパートパネル(医師・遺伝カウンセラー・薬剤師などの多職種チーム)で検討され、患者ごとに治療推奨や臨床試験の適格性が評価されます。この体制は、検査結果を医療に直結させる仕組みとして機能しています。
全ゲノム解析の臨床導入に向けた動向
英国のゲノムズ・イングランドが推進した「10万人ゲノムプロジェクト」や、オランダのハートウィック医療財団など、先進諸国では全ゲノム解析の臨床応用が着実に進んでいます。検出されたゲノム変異に基づき治療推奨を行うエキスパートチームの整備も進み、コストの低下とともに臨床実装の裾野が広がりつつあります。
日本でも全ゲノム解析の臨床導入に向けた研究・実証が進んでいます。コスト・解析時間・バイオインフォマティクスの整備といった課題は残るものの、将来的には全ゲノム解析が臨床の標準的な選択肢の一つになる可能性は十分にあります。
両検査を組み合わせることで広がる選択肢
現時点では、全ゲノム解析とパネル検査は「どちらかを選ぶ」という関係ではなく、状況に応じて使い分けたり組み合わせたりする使い方が現実的です。例えば、パネル検査で治療可能な変異が見つからなかった患者に対して、全ゲノム解析でより広範な情報を探索する、というアプローチがあります。
また、全ゲノム解析の結果から治療標的が示された場合でも、その特定変異を確認するための補助的なアッセイとパネルを組み合わせることで、臨床判断の確実性が増すことがあります。検査の組み合わせ方については、担当医と専門チームの判断のもとで検討するのが基本です。
検査の使い分けのポイント
| 状況 | 推奨される検査 |
|---|---|
| 治療標的として確立された変異の確認 | パネル検査(迅速・確実) |
| パネルで治療推奨が得られなかった場合 | 全ゲノム解析の追加を検討 |
| 原発不明がんの組織起源の特定 | 全ゲノム解析が有利 |
| 変異シグネチャー・HRD評価が必要な場合 | 全ゲノム解析が精度高い |
| FFPE・少量検体での解析 | パネル検査が安定 |
検査を検討している方が知っておきたい選び方のポイント
どちらの検査が自分に向いているかは、がんの種類・病期・これまでの治療歴・検体の状態など、個人の状況によって変わります。以下の視点を参考に、担当医との対話に役立ててください。
自分の状況に合った検査を判断するための視点
まず確認したいのは「自分のがんに対して、標準治療の範囲内で解析すべき遺伝子の目星はあるか」という点です。肺腺がんや乳がん・大腸がんなど、治療標的変異がある程度わかっているがん種では、パネル検査で必要な情報が得られる場合が多くあります。
一方、希少がん・原発不明がん・標準治療を複数試みた後の再発・転移、あるいはパネル検査で治療可能な変異が見つからなかった場合は、全ゲノム解析による広範な情報収集が次の選択肢として浮上します。
ただし、全ゲノム解析で変異が見つかったとしても、それが必ず治療に結びつくわけではなく、意義不明の変異も多く検出されることは理解しておく必要があります。
検査を選ぶ際の確認リスト
- 自分のがんの種類・病期・これまでの治療歴を整理する
- 担当医が勧める検査の種類と、その理由を確認する
- 検査結果の説明を受ける体制(エキスパートパネルなど)が整っているか確認する
- 結果が出た後の選択肢(臨床試験・治療変更など)について事前に相談する
担当医との相談で押さえておきたいこと
検査を受けるかどうか、どちらの検査が適しているかは、担当医と十分に相談した上で決定することが大切です。「なぜこの検査を勧めるのか」「検査で変異が見つかった場合・見つからなかった場合に何が変わるのか」「費用と期間はどれくらいかかるのか」——こうした点を率直に確認することで、検査への理解が深まり、結果が出た後の意思決定がしやすくなります。
遺伝子検査の結果は、患者本人だけでなく、血縁者への影響(生殖細胞系列変異が見つかった場合)にも関わることがあります。必要に応じて遺伝カウンセラーのサポートを受けることも、安心して検査を進めるための一つの方法です。
よくある質問
全ゲノム解析とパネル検査は、どちらが精度の高い検査なのですか?
「精度が高い」の意味によって答えが変わります。パネル検査は対象遺伝子を高い深度(カバレッジ)で解析するため、その遺伝子内の低頻度変異を検出する感度は全ゲノム解析より高くなります。
一方、全ゲノム解析はゲノム全体を調べるため、変異シグネチャーやコピー数変化・構造変異といった情報の「網羅性」という点では全ゲノム解析が優れています。どちらが適しているかは、何を知りたいかによって異なります。
全ゲノム解析でパネル検査には出なかった情報が見つかることはありますか?
あります。研究によると、全ゲノム解析に基づく治療推奨の26〜36%が、パネルには含まれないバイオマーカーを根拠にしていたことが示されています。特に変異シグネチャーに基づく情報や、パネルのカバー外の遺伝子領域に生じた変化がこれにあたります。
ただし、追加で見つかった変異のすべてが治療に直結するわけではなく、意義が不明な変異も含まれます。結果の解釈には専門医とエキスパートパネルによる評価が必要です。
パネル検査で変異が見つからなかった場合、全ゲノム解析を受ける意味はありますか?
意味がある場合があります。パネル検査は対象遺伝子の範囲外の変異は検出しないため、パネルで「変異なし」という結果が出ても、それはパネルに含まれる遺伝子には変異がなかった、という意味に過ぎません。
全ゲノム解析では、パネルがカバーしていない遺伝子の変異や、構造変異・変異シグネチャーなど、より広い情報が得られます。希少がんや難治性のがんでは、こうした情報が治療選択や臨床試験への参加につながることがあります。担当医に相談し、検討する価値はあります。
全ゲノム解析とパネル検査は、同時に受けることはできますか?
医療機関や検査体制によって異なりますが、原則として「どちらかを選ぶ」か「順番に実施する」という形になることが多いです。両検査を同一の検体で実施すること自体は技術的に可能ですが、費用や検体量の問題もあります。
一般的には、まずパネル検査を実施し、治療推奨が得られなかった場合や希少がんのケースに全ゲノム解析を追加で検討するという流れが現実的です。具体的な検査の進め方については、担当医やがんゲノム医療の専門チームに相談してください。
全ゲノム解析の結果を正しく読み解くには、何が必要ですか?
全ゲノム解析の結果には膨大な情報が含まれるため、専門的な知識を持つチームによる解釈が必要です。具体的には、腫瘍内科医・病理医・遺伝カウンセラー・バイオインフォマティシャン(生物情報学の専門家)などが連携するエキスパートパネルが、どの変異が治療に関連するかを判断します。
患者にとって重要なのは、検査を実施する医療機関にこうした解釈体制が整っているかを事前に確認することです。変異が検出されても、その意義を適切に評価し治療に結びつける体制がなければ、検査の価値を最大限に活かせません。不明点があれば、遺伝カウンセラーへの相談も有効な選択肢の一つです。
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この記事を書いた人 Wrote this article
前田 祐助 医学博士 / 医師
慶應義塾大学医学部大学院にて、がんの発生メカニズム(発癌機構)や、慢性炎症と腫瘍の関係性に関する基礎研究に従事し、医学博士号を取得。 特に、胃がんにおける炎症微小環境の解析や、細胞シグナル伝達(COX-2/PGE2経路など)による腫瘍形成の研究において実績を持つ。 現在は、大学病院や研究機関で培った「根拠(エビデンス)に基づく医療」の視点を活かし、疾患の早期発見や予防医療の啓発活動を行っている。 【保有資格・所属】 医学博士(慶應義塾大学)/ 医師免許 / 日本内科学会 / 日本医師会認定産業医